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2018年3月23日更新

人をつなぐ 夢につなぐ「HENTONA LOUNGE(国頭村)」|愛しのわが家・まち

国頭村の中心地、辺土名大通りに新たに「ラウンジ」ができた。といっても、ホテルにあるような、特大のソファがデンと置かれたラウンジとは少し様子が違う。こぢんまりしたカフェのある入り口の奥は、まるで図書館の自習室のような、机と椅子だけの部屋になっている。その場所の名前はHENTONA LOUNGE(ヘントナラウンジ)。一体どんなラウンジなのか、取材した。

広がる人の輪 地域の活力に

久保勇人さん(47)の目には、辺土名はやんばるの“銀座”に映る。
「やんばる3村(国頭、大宜味、東)を東京にたとえるなら、辺土名はさしずめ銀座のあたり。(官庁街の)霞が関のように役場や金融機関があり、築地のように漁港もあって新橋のように昭和っぽい飲み屋街もあります」
本物の銀座から千数百キロ離れたやんばるの銀座に、久保さんは昨年、カフェを併設したコワーキングスペース(利用者が一つの空間を共有しながら自分のオフィスのように使うスペース)、HENTONA LOUNGEをオープンした。誰もがその名を知る有名企業の社員という肩書も、安定した高収入もなげうって。
「会社に勤め続けるのと、国頭に移住して自分の意志で道を切り開いていくのとでは、どちらが幸せな人生だと20年後の自分は思うだろう、と想像するうちに後者に気持ちが傾きました」

つなぐエキスパート

東京生まれの久保さんと国頭との縁は、村出身の妻、咲美さん(37)を通して結ばれた。初めて村を訪れた6年前は、「国頭の読み方も知らず、クニアタマムラとか、コクトウソンだと思っていた」という久保さん。村の手つかずの自然や、連綿と受け継がれてきた文化や、「心のシャッターを閉じずに人と接する」村人のおおらかさに触れるなかで国頭に魅せられていった。
「沖縄といえば国際通りと恩納村ぐらいしか知らなかった僕ですが、国頭を訪れて初めて沖縄の本当の良さを知りました」
「移住」の二文字が頭の中にちらついた。だが、安定した暮らしを捨てて国頭で生活していけるかと考えると心がひるんだ。
「だけど最後は、『何かを得るには何かを捨てないと』と腹をくくりました。僕の経験や技能は国頭でもきっと生かせると信じました」
22年勤めた会社では、チームを束ねてプロジェクトをゴールに導くプロジェクトマネジャーの役目を何度も務めた。その経験から、久保さんはある“技術”を身につけた。
「僕自身は何か新しいものを次々と生み出す力を授かっているわけではありません。しかし、人と人をつなげたり、何かに打ち込む人を鼓舞したり、アイデアが形になるように舵取りしたりするのは、僕の得意分野というか、前の仕事で培ったことです」
自分の「得意分野」を生かして、人と人をつなげる。夢に向かって頑張る人をサポートする。HENTONA LOUNGEは、そのための場所だ。
「人が集い、交流することで新しい何かが生まれて、みんなが一歩ずつ前に進める。そういう場づくりをここでできたらと思います」

つながる力で村を元気に

博士論文を書くための調査で沖縄に来たハワイ大学の学生。ナイジェリアから国頭に移住してきて農業を営む男性。県内の老舗ショッピングセンターを辞めて靴磨き職人になった人。北海道出身のコンピュータープログラマー。店には、職種も経歴も異なる多種多様な人たちが訪れる。その一人、村在住の木工作家、野田洋さんは、最近、HENTONA LOUNGEを通じて「一歩前に進む」ことができた。
「ここで知り合った人から、琉球松製のアロマオイル容器を作ってほしいと頼まれたんです。その人のオイルと一緒に僕の器をものづくりコンテストに出品したら優勝してしまって」
今も半信半疑といった表情の野田さんの横で、久保さんが顔をくしゃっとほころばせた。
「うれしい、の一言です。人と人をつなぐことは簡単だけど、そこから何か新しいものやおもしろいことが生まれるというのはそう簡単に起こることではない。こんなに大きなことならなおさらです。だから、うれしい」
人の成功をわがことのように喜ぶ久保さんは、「畑を耕して、種をまく」ようにじっくりと人の輪を育んでいる。つながる輪の先にこんな未来を夢見つつ。
「『国頭でこんなことができるんだ』と驚いてもらえることをここから発信することで、村を離れた若者たちが、『国頭っておもしろい、最高だね』と一人でも二人でも戻って来てくれたら」
そうしたら、20年後、自分の人生を振り返ってよかったと思えると思います、と語る久保さんのまなざしは真摯(しんし)で温かかった。




人と人をつなげたい。夢の実現を後押ししたい。人も村も元気にしたい。そんな思いから、東京都出身の久保勇人さんはHENTONA LOUNGEを立ち上げた


優しくて頼れるお兄さん、といった雰囲気の久保さん


昔は薬局や整骨院だった空きビルを、公的な財政支援を受けて改装した。「あるものを生かす」改装を心がけ、内装材に廃材を使ったりした


店は辺土名大通り沿い、役場のすぐ隣に建つ


久保さんと談笑するのは、村在住の木工作家、野田洋さん。店で知り合った「香りと場研究所」代表の薗田優子さんとコラボしたアロマオイル芳香器が、最近、琉球の宝物グランプリに輝いた


店の奥にあるコワーキングスペース(利用者が自分のオフィスとして使えるスペース)で、名護市在住のITエンジニア、佐藤拓也さんがパソコンに向かって作業をしていた。「普段は自宅で仕事をしていますが、週に2回ほどここに“通勤”しています。片道40分かかりますが、自宅にこもりきりでは寂しいですし、ほかの利用者との交流から得るものもあると期待して利用し始めました。まだ3カ月目ですが、ここで知り合った方からお誘いを受けて一緒にお仕事をさせていただいています。人との出会いがこんなにも早く新しい仕事につながるものかと驚いています」


生まれ故郷のナイジェリアでは土木技師だったオグベヒ・ジェジール・トーチさんは、国頭に移住してから農業を始め、健康食材として注目されているタイガーナッツなどを栽培している。「いろんな人と出会えてつながれる、こんな場所が国頭に欲しいと思っていたんです。仕事に役立つ情報をほかの利用者さんからいろいろと教えてもらえますし、何か困ったことがあれば勇人さんが的確なアドバイスをくれます。この場所の恩恵をとても受けています」


入り口にあるカフェには妻の咲美さん(右)の友人たちも頻繁に訪れて、店に華を添えてくれる


2階と3階は移住希望者向けの体験宿泊施設になっていて、こちらの管理も久保さんが行っている


HENTONA LOUNGEで人と人をつなぎ、村を元気にする活動に取り組む一方で、久保さんは先月から古民家宿の運営を始めた。「宿の経営で得た収益も、HENTONA LOUNGEでの活動に役立てていきます」
 



HENTONA LOUNGEでは、民具づくりやコーヒーの飲み比べなど、さまざまな催し物を不定期で開催している。先日も、靴の販売員から靴磨き職人に転身した仲程秀之さんによる靴磨きのライブパフォーマンスが行われた。「今回で3度目です。お客さまが持って来られた靴が、以前自分が販売した靴だったなんていう愉快な出来事もありました」と仲程さん。数カ月に一度、地域の活性化などを話し合うイベントも開いており、その成果の一つとして、今年の夏に若者主導のフェスティバル「HONEN FES!!!」を開催する予定だ




HENTONA LOUNGE
090-3413-1196
https://hentona-lounge.yumbaru.jp/


ライター/馬渕和香
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1681号・2018年3月23日紙面から掲載

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