よみがえらせた 70年代の沖縄(北中城村)|オキナワンダーランド[14]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

特集・企画

2017年5月19日更新

よみがえらせた 70年代の沖縄(北中城村)|オキナワンダーランド[14]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

SPICE MOTEL OKINAWA中谷ノボルさん(北中城村)


本土復帰前に建てられた古いモーテルを全面改修したSPICE MOTEL OKINAWAは、アメリカから持ち込まれた文化と沖縄の地域性が濃密に混ざり合っていた時代の空気感を今に伝える


古い建物は、中谷ノボルさんにときどき話しかけてくる。

「建物が人間みたいにしゃべってくるように思うことがあるんです。出来上がったときはいつも、建物に『ありがとう』って言われている感じがします」

これまで20年にわたってリノベーション(建物改修)に携わり、5百軒余りの古い建物をよみがえらせてきた中谷さんになら、普段は無口な建物たちも少しは饒舌になるのかもしれない。

声こそ聞こえなかったけれど、今は「SPICE MOTEL OKINAWA」となっている1970年生まれのモーテルを初めて見たとき、中谷さんはその建物が気の毒な“境遇”にあることを察した。

「放置された感がありました。あんまり愛されてないな、大事にされてないなと感じました」

大阪でリノベーション事業などを営む建築家の中谷さんが、沖縄に進出したのは6年前。何か面白い建物はないかと本島中をめぐるなかで、「アメリカでも日本でも沖縄でもない」雰囲気の漂う中部地域に惹かれた。

「でいご通りからコザまでの景色が好きなんです。人も多様で、ロックをやる60代もいれば、英語を普通に話すオバァもいる」

独特の「カッコ良さ」のある中部で何かしたいと考えていたとき、中谷さんは中古のモーテルを紹介された。まだ営業中だったが、雨漏りがひどくて大部分の部屋は使われていなかった。

「猫を数十匹飼っていた家とか、百年前の建物とか、傷んだ建物は見慣れているんですが、その中でもかなりの痛み具合で、上級者向けやな、と思いました」

「上級者向き」ということは、長年のノウハウを持つ「自分たち向き」ということでもあった。「自分の手で良くなるんちゃうか」。少しの使命感も混じった気持ちで、中谷さんはモーテルを買い取り、改修することにした。

中谷さんの改修は、昔から、古い建物をただ直すだけにはとどまらなかった。

「古い建物を素材にして新たなものをつくる。それが僕の考えるリノベーションです」

古い建物は今よりも丁寧につくられたものも多い。それを「素材」としてうまく生かし、古い建物だからこそ生まれる空間をつくり出すのが中谷さんの流儀だ。そのスタイルは共感を呼び、33歳で手がけた“第一作”の内覧会には3百組が殺到した。

「放置された感」のあったモーテルも、中谷さんは雨漏りを直したりペンキを塗り直したりするだけの改修では終わらせなかった。その建物を素材にして、それが生まれた1970年代の時代感を再現してみせた。

「アメリカ人が持ち込んだカリフォルニアっぽい様式と沖縄らしさがミックスしていた当時の雰囲気がそのまま続いているような場所にしたかったんです」

開発の波によって沖縄の街並みがどんどん「更新されて」いくなかで、昔の沖縄をタイムカプセルのように未来に伝える建物を中谷さんはつくりたかった。

「いつか基地がなくなるときが来ても、『そんな歴史があったからこういう建物があるんだね』と分かる建物は残ってほしい」

かつては火が消えたようだったモーテルは、いま、国内外の若者でにぎわう宿になっている。

「『ありがとう』って、建物がだいぶ言ってくれてます」

“リノベの神様”から、大きな笑みがこぼれた。



2階のダブルルームは70年代の南カリフォルニアをイメージしてつくった。ベッドカバーの生地は宜野湾市の「しゃりま」で見つけたデッドストック品で、その色合いから部屋全体の色使いを決めた


雨漏りがひどかった倉庫はレセプションを兼ねたカフェに変えた。「カフェは外部の方でも利用できます。地元との接点となるよう活用の仕方をもっと広げたい」と中谷さん。壁のネオンサインは屋上にあったものを移した


2階の開放的なテラスは新たにつくったもの。「ここからは外人住宅や海も見えて、中部の様子がよく分かります」。「中部のおもしろさを発信」するため、ホテルでは独自にエリアマップも作成してゲストに配布している


古い建物は歴史を後世に伝えると中谷さんは考える。「あの時、『SPICE MOTELができて良かったね』、『内地の会社がつくったらしいよ』。何十年か後にそんな会話が交わされていたらうれしいですね」


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<14>
第1637号 2017年5月19日掲載

特集・企画

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:978

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る