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2017年6月16日更新

園児の成長見守る ガジュマルの木陰(南城市)|オキナワンダーランド[15]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

むぎの子共同保育園(南城市)


この春に完成した「むぎの子共同保育園」の新しい園舎は、木漏れ日がこぼれ落ち、柔らかな風がそよぐガジュマルの木陰の心地よさをイメージして設計された


山口博之さんは、38歳のとき、一日だけ「むぎの子共同保育園」の園児になった。

「みんなと一緒に散歩をして、給食を食べて、昼寝もしました」

27年前、6人の父兄が資金を出し合って建てた木造園舎の床に、0歳から5歳までの子どもたちに混じって山口さんは寝転がった。頭上には電信柱を転用した梁が見えた。少ない資金で建てた園舎は、屋根はトタン張り。だけど、床は子どもたちが転んでも痛くないヒノキだった。

「すごくすてきな園舎だな」

老朽化のためにもうすぐ取り壊される園舎を眺め、山口さんは畏敬の念に打たれた。このすてきな建物に代わってどんな園舎を自分は設計したらよいのか。それを探るために、2年前のその日、山口さんは園児になった。

「何だかここは、保育園というより一つの大きな家みたいな所だ。子どもたちや保育士さんは一つの大きな家族のようだし」

山口さんは、ふとそう感じた。そしてひらめいた。そうか、彼らの家をつくるような気持ちで設計すればいいんだ、と。

実際、この園は開設以来ずっと、“家”のような保育園だった。

「保育士と保護者が、手をつないで一緒に子どもたちを育てていく。名前の“共同”には、そんな意味が込められています」

そう話す宮平美和子園長は、旧大里村の緑豊かな集落に園が設立されたときからここにいる。

「自然のなかでのびのびと育ってほしいとこの園を開いた保護者たちの思いに共感して、よその園から移って来ました」

宮平さんの声にかぶさるように、きゃっきゃっとはしゃぐ声が聞こえてきた。日課のお散歩から、園児たちが帰ってきたのだ。自然とのふれあいを大切にする園では、木や草花など、“自然のおもちゃ”で園児を毎日たっぷり遊ばせる。

園児たちの「一瞬一瞬の成長」を見守ることが一番の喜び、と話す宮平さんが園と歩んだ27年には試練もあった。手厚い保育を行うために多くの職員を雇うものだから、園の台所はいつも火の車状態。赤字になりそうになると、バザーを開いたり祭りに屋台を出したりしてしのいだ。保護者ももちろん手伝った。「手をつないで」園を守るために。

そんな家族的な園のために、家のような親密さを感じる園舎をつくろうと設計者の山口さんは考えた。しかも、園が希望している木造で。だが、普通の家よりも何倍も大きい保育園をどうしたら家らしくできるだろう。

山口さんが出した答えは、家をつくるときと同じ規格の材料で園をつくることだった。

「おっきな材を使ったら家にならないよな、と思ったんです」

小さな材木でも、たくさん寄り集まれば大きな材にも負けない強度を発揮する。山口さんは綿密に強度の計算をしながら、縦に横にと図面の上で材木を組み合わせていった。そんなとき、あるものがふっと見えた。

「積み重なる材木が、ガジュマルのように見えたんです」

木漏れ日がこぼれ落ち、柔らかな風が流れるガジュマルの木陰の風景が「心にわーっと」広がった。そのイメージに導かれ、山口さんは園舎を完成させた。

「幼い頃に見た風景を、今も懐かしく思い出すことが僕にもあります。園児たちにとって、ここがそんな風景になれば」

ガジュマルの木陰のような園舎を、数十年後、懐かしむ元園児たち。その姿が私の目に鮮やかに浮かんだ。



木造の園舎は園の希望。「木のぬくもりが感じられる建物を、とお願いしました。木の香りが気持ちよくて、園児だけでなく、私たち職員もほっとできます」と宮平園長は話す


11カ所の天窓から木漏れ日のような光が落ちてくる2階の大きなワンルームは、2歳児から5歳児までの合同部屋。「仕切られていない、オープンな部屋の方が、みんなで一緒に育つ感覚があります」と宮平さん


0歳児の部屋(写真左)と1歳児の部屋を1階に置いたのは、「庭に出たくなったらハイハイして自分で行けるように」(宮平園長)。子どもの自主性を重んじる園では、「子どもがしたいことをなるべく見守る」保育を行う


「沖縄のどこからでも子どもが来られるように」という理由で、26年間、自治体の支援を受けずに来たが、4月から南城市の認可保育園になった。「園を存続させて、子どもたちの居場所を残していくために決めました」


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<15>
第1641号 2017年6月16日掲載

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