車を減らす議論×避難手段の検討を|みんなで考えよう!豊かなまち⑩|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

地域情報(街・人・文化)

2017年1月20日更新

車を減らす議論×避難手段の検討を|みんなで考えよう!豊かなまち⑩

大災害では、平時は見えないバリアーが避難や安全な暮らしを妨げ、命を奪う。こうした災害時のバリアーを減らす「減災」について、今月から3回、車いす利用学生で防災を学ぶ田畑秋香さんと考える。今回は脱出を阻むバリアーのひとつ「渋滞」を検討する。

災害時バリアー① 避難と渋滞

昨年11月22日早朝に宮城県・福島県で津波警報が発令された際、かなりの数の沿岸部住民が自動車で避難し、大規模な渋滞が発生した。
3・11から1年半後の津波警報発令時も、津波で大きな被害に遭った石巻市などで多くの住民が自動車で避難し、渋滞が起こった。理由を知るため石巻に行ったところ、「津波ですべて失った私たちは、車まで失うと生きていくことはもう不可能なんです」という声を住民から聞いた。
4月の熊本地震では、3日間で震度6以上が7回起こった。自宅が無事でも大変な恐怖で、避難所にも入れず自動車で暮らす人が相次いだ。自動車でなければ避難が難しい人も大勢いた。津波注意報発令で、沿岸部はパニック状態だったという。結果的に渋滞が起こり、救助の緊急自動車が立ち往生した。
阪神淡路大震災では、倒壊した建物で犠牲になった人のうち、地震発生から2時間後にまだ生きていた人が半数いることが分かっている。救助車が渋滞に巻き込まれ、救える命を救えなかった。
渋滞は救助を妨げるだけではない。車いす利用者や視覚障がいのある避難者にとって、「死のバリアー」となる。災害時は人の殺到や亀裂などで、歩道も危険な状態になる。車いすは、わずかな段差でも転倒する。付近が渋滞や乗り捨てられた車で混雑すると、移動困難者の避難は不可能になる。
沖縄は、極端な車社会だ。ここ20年の自動車登録台数の伸び率は全国1位。那覇市内の渋滞は全国ワーストである。狭い県土に駐車場が点在する貧弱な景観だけでなく、排ガスと騒音、子ども・高齢者・障がい者への危険があふれる。郊外の大規模小売店が増え、地域の活力は停滞する。そして、災害時は凶器となって人を襲う。産官学と地域は自動車を減らす議論を真剣にすべきだ。そのうえで、車による避難を減らす努力を行う必要がある。


那覇市の平日朝夕の渋滞は、全国ワースト


助かるはずの命が、渋滞で失われる

-避難する状況になった場合、自動車と車いすのどちらで避難する?
 田畑  私は両方ありうる立場。どちらにしても、道路の渋滞が恐ろしい。
普段の歩道でも、工事や自動車が乗り上げて駐停車してるとほとんど通れない。車道に降りて通ろうするが、渋滞していると無理だ。
災害時、道路の亀裂や建物が倒れていると、私たちは引き返して別の道を選ぶことが難しい。渋滞していると時間のロスが生まれる。また、自宅で万が一の場合、緊急自動車に少しでも早く来てほしい。どうしても必要な時以外は、自動車での避難は減らしてほしい。

-歩道を避難できないことがありうる。
 田畑  さらに怖いのは、夜間の避難。車いすでは懐中電灯を持って移動できないので、ヘッドランプ付きヘルメットを買った。沖縄は防災意識が低く、懐中電灯を準備している人は多くないと考えられる。夜間の避難実践でよく分かったが、暗闇でガードレール付き歩道を行くのは非常に恐ろしい。私たちは昼間でも健常者の視界に入りにくく、夜間で人が殺到している歩道で懐中電灯を持たない人が大勢いたら、押しつぶされてしまいそう。そのとき車道が渋滞していたら、避難行動は不可能だ。

-自動車での避難は?
 田畑   支援者の自動車で避難する時も、渋滞で動けなくなるのが非常に怖い。車を置いて逃げるにも、支援者がおんぶし続けるのは大変だ。身体障がい者はつかまる力の弱い人が多いので、健常者をおぶるより難しい。助かるはずの支援者や家族が津波に巻き込まれてしまうなら、私だけ渋滞の車中に残ることを選ばざるを得ない。そういう時のために、地域の共助があってほしい。

-地域で考える必要がある。
 田畑  地域で、どこにどのような障がい者やその家族がいるか知ってもらうことが大切だと思う。電動車いすの人はもっと大変。体幹を座席に固定する必要がある人が多く、急な坂道では後ろにひっくり返ってしまう。おんぶも難しい。
電動車いす利用の友人が「地域の備蓄品に車いすを入れてほしい」と、大学の防災福祉の授業で提案した。とてもいい考えだ。避難先に車いすがなければ、私たちは多くの人に迷惑をかけてしまう。地域で障がいのある人の状況を理解し合うこと、自動車による避難をしない状況を作ること。「みんなで乗り合う避難」が当たり前になる社会を目指したい。


夜間避難実践でガードレール付き歩道を進む。先が見えず恐怖だった。


文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1620号・2017年1月20日紙面から掲載

地域情報(街・人・文化)

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2128

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る