陶芸の楽しさ 沖縄でふたたび(本部町)|オキナワンダーランド[13]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2017年4月20日更新

陶芸の楽しさ 沖縄でふたたび(本部町)|オキナワンダーランド[13]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

南山窯 和田伸政さん(本部町)

陶芸を始めた頃の原点に戻ろうと、和田伸政さんは本土での作陶活動をリセットして沖縄に移り住み、南山窯を建てた
陶芸を始めた頃の原点に戻ろうと、和田伸政さんは本土での作陶活動をリセットして沖縄に移り住み、南山窯を建てた


40年前、アリゾナの砂漠の真ん中で、和田伸政さんは千年以上前の古い陶器に魅せられた。

「『何だろう、これは』と思ったよ。何で人間がこんなものをつくったんだろうってね」

電動ロクロの上で、灰色の粘土の塊がくるくると回っている。すらりとした和田さんの手がほんの少し触れるだけで、みるみる美しい茶わんの姿になっていく。

「これは何なんだ」と和田さんが驚いたもの。それは、アメリカインディアンが死者を葬る時に顔にかぶせたという陶器の鉢だった。「文字なのか絵なのか分からない」模様が表面に描かれ、真ん中には死者の霊魂を逃すためとも言われる穴がかなづちのような物で開けられていた。

「その鉢に宿るプリミティブ(原始的)な力が、僕の意識の奥底に訴えかけてきたんだよ」

それまで関心がなかった陶芸の魅力に、和田さんは目覚めた。インディアンが陶土を採取する山へ行って土を掘り、その土で焼き物をつくってみたりした。

「自分の足元にあるごく当たり前の土が、焼いたら焼き物になるっていうことが楽しかったね」

3年ぶりに日本に戻ると、茶道具をつくる陶芸家に弟子入りした。アリゾナ暮らしですっかり「アメリカナイズされて」いたものだからこんな体験もした。

「目で盗め、という世界なのに、『これはどうするんですか』と師匠に尋ねて他の弟子に叱られたりしたよ。師匠は変なヤツだと気に入ってくれたけどさ」
屈託のない笑い声が、工房の石壁に響いた。大学で建築を学んだ和田さんが、「ものづくりは一番身近な素材で」という師匠の教えにならい、地元の石を使って自ら建てたアトリエだ。

29歳で晴れて陶芸家として独立した和田さんのもとに、仕事は順調に舞い込んだ。「ものをつくっていれば誰かにぶち当たる」と感じるような、不思議なめぐり会いによく助けられた。固定ファンもいて、多い時には年に5、6回展覧会を開いた。

しかし、50代に差し掛かった頃、心境に変化が訪れた。「ビニール袋で売られた土」をこねて、まるでパンでも焼くように電気窯やガス窯で作品を焼くことに倦怠(けんたいかん)感を感じた。アリゾナで過ごした日々の「麻薬のような」記憶がよみがえった。もう一度自分の手で土を掘りたい。電気でもガスでもない、薪の炎で焼きたい。そんな思いに駆られた。

「陶芸を始めた頃の原点に戻って、のんびりつくろう」

そう決めた和田さんは、11年前、車一台に荷物を詰め込んで沖縄にやって来た。ここでもまた、人との幸運な出会いに和田さんは助けられた。たまたま通りがかった山の持ち主が、「うちの山を使えばいいさ」と土地を提供してくれたりもした。そこに薪窯を築き、自分で掘った土で、それまで師匠に遠慮してつくれなかった茶道具をつくった。みずみずしい意欲が胸にあふれた。

「売ることなんか考えずにつくったよ。本当に楽しかったね」

焼き物づくりの楽しさは再び味わえた。欲を言うなら、自分の作品を必要としてくれる人と出会えたらと和田さんは言う。

「あと何年できるか分からないけど、ただつくるだけでは面白くないから、必要としてくれる人がいたらいいなと思うよね」

「ものをつくっていれば誰かにぶち当たる」和田さんのことだ。すてきな出会いはきっと、沖縄の風に運ばれて、向こうからやって来るだろう。


ものづくりの素材は身近なもので、という陶芸の師匠の教えを実践し、工房は現場にもともとあった石と菊農家からもらった木の電柱で建てた
ものづくりの素材は身近なもので、という陶芸の師匠の教えを実践し、工房は現場にもともとあった石と菊農家からもらった木の電柱で建てた

巻き尺に頼らずに「目で見た大体の感じ」でつくった部分も多くある完璧すぎない建て方が心地よさの秘密。「陶器は緊張感のあるものも好きだけど、空間はざっくりしている方がいい。きちきちした空間は居場所がない」
巻き尺に頼らずに「目で見た大体の感じ」でつくった部分も多くある完璧すぎない建て方が心地よさの秘密。「陶器は緊張感のあるものも好きだけど、空間はざっくりしている方がいい。きちきちした空間は居場所がない」

アーチの部分は、最近増築した部屋(左)と以前建てた棟が一つの建物としてつながりを持つようにとつくった。「ヨーロッパの建物みたいに、もうちょっときれいなアーチをつくりたかったんだけど、難しかったな」
アーチの部分は、最近増築した部屋(左)と以前建てた棟が一つの建物としてつながりを持つようにとつくった。「ヨーロッパの建物みたいに、もうちょっときれいなアーチをつくりたかったんだけど、難しかったな」

国内外によく旅行に出かけるが「沖縄は一番くつろげる場所」だという。「人間だから感情の起伏とかいろいろあるじゃない。だけど沖縄の海を見ればそういうものがさーっと洗い流されて、『ま、いっか』と思えてくる」
国内外によく旅行に出かけるが「沖縄は一番くつろげる場所」だという。「人間だから感情の起伏とかいろいろあるじゃない。だけど沖縄の海を見ればそういうものがさーっと洗い流されて、『ま、いっか』と思えてくる」


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<13>
第1633号 2017年4月21日掲載

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