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2016年9月16日更新

「情報保障」を地域のテーマに|みんなで考えよう!豊かなまち⑥

聴覚障がい者や手が不自由な人の「情報保障」として、音声情報を文字化するノートテイク活動がある。情報の受発信が一気に困難になる災害時に、これを応用できないか。沖国大で活動する学生、渡嘉敷初音さんと共に、災害時の情報保障を考える。

情報バリア③ 情報支援とノートテイク


熊本・益城中央小学校避難所での「情報保障」の取り組み


災害時は、停電や通信不能で情報伝達がラジオや館内放送など音声中心となり、情報のハードルが一気に上がる。東日本大震災時の情報入手手段は、発災1週間までラジオが8割を占めた。
  スマートフォンがライフラインになった今、サーバー停止や停電の状況下での情報入手・伝達は厳しい。公的機関が発信する重要な生活情報が届かない。社会的弱者の命が脅かされている状況が公的機関に伝わらない。たとえば給水車がいつどこに来るか、罹災(りさい)証明の発行がいつ行われるかなどだ。「仮設住宅のクーラーは行政が設置する」という情報が聴覚障がい者に伝わらず、自費で購入してしまったという事例は枚挙にいとまがない。
一方、災害ボランティアセンターは、障がい者など声なき声の「助けて」に対応しきれていない。被災者の細かいニーズを拾い、マッチングする機能がないからだ。災害時は、行政の重要情報を届ける人も、困っている人の情報を届ける人もいない。「知る権利」が侵害される状況に、情報支援を行う方法はないだろうか。
多くの大学で聴覚に障がいを持つ学生の情報保障活動として行われている「ノートテイク活動」は、学生が講師の話を簡潔かつ正確にまとめ、速やかにわかりやすい文章にする要約筆記技術によるものだ。聴覚障がいだけでなく、手が不自由な学生の代筆にも技術が応用される。
ノートテイク活動が地域で行われたら、情報弱者の不利益は減るだろう。技術もさることながら、当事者の状況を理解し手を差し伸べる心と技術を持ち、信頼関係を築きやすいからだ。情報がなく困っている人を関係機関に速やかにつなぐ活動として、「情報保障」「情報支援」は地域のテーマとしてもっと取り上げられてよい。


差し伸べる「手」を増やす
―ノートテイクの意義は?
 渡嘉敷  伝達されるべき情報が、聞こえにくい人にもきちんと届くよう保障すること。要約筆記技術を用いるので常にスキルを上げる努力が必要だが、その分社会で必要な情報整理力や表現力が向上する魅力もある。
 

―講義ノートを取るのとは違う。
 渡嘉敷  私たちは利用する学生の「耳」であり、文字に替えた音声は「その場で見る」だけ。講義ノートは受講生が自分で作成する。テイカーはノートテイク以外の作業はせず、講師から質問されても利用学生に聞くよう促す。

―正確さが求められる。
 渡嘉敷  情報保障を確実に果たす要素として、「速く、正しく、読みやすく」の3原則がある。話し手の声がしっかり届く環境を整えることも任務。さらに利用者が講義中に得た情報は、外部に漏らしてはいけない。テイカー同士でも、利用者のプライベートな情報共有はしない。

―聴覚障がい者には心強い。
 渡嘉敷  利用者と発信者をつなぐ役目なので、困難が増した時は一緒に解決を目指すよう関わり、当事者の社会参画を促す役割もある。また、手が不自由な人の手になって代筆を行うことも役割のひとつで、広い意味で情報弱者のサポーターといえる。

―情報保障での意義は。
 渡嘉敷  聴覚や手に障がいがある人と普段から接していることで、何ができて何ができないかを理解していることや、ある程度の信頼関係ができていることかな。何かあった時、普通の人に頼むより私たちの方が頼みやすいと思う。

―災害時など情報弱者が増えた時、地域で活躍できる。
 渡嘉敷  熊本で聞いた話で、ある大学で火災警報の放送が流れた時、自習室にいた聴覚障がい学生は気付かず勉強を続けていた。こんな時、私たちはどうすべきか。災害時はみな自分のことに精いっぱいな中で、ノートテイクだけでなく当事者の状況を察して手を差し伸べる活動は重要だ。地域で実践者が増えると、より大きな情報保障になる。

―避難所など情報伝達が音声や掲示物中心になると、どういう方法で情報保障できる?
 渡嘉敷  ノートテイクではパソコンの文字入力画面を見せる方式があり、講演会などでスクリーンに映して情報保障を行うこともある。この方法を活用し、ボランティアを集めてさまざまな情報を学校避難所のスクリーンに映し出したり、積極的に声をかけて情報をつなぐ「情報支援」をやってみたい。


フィールドワークでノートテイク活動を行う学生

文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1602号・2016年9月16日紙面から掲載

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