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2016年8月19日更新

車いす席の別扱い 柔軟な対応が必要|みんなで考えよう!豊かなまち⑤

社会にはさまざまな「情報バリア」がある。今回は、公共施設で障がい者が健常者と別扱いされるため同行者と楽しめないケースや、健常者基準で情報が流されることで孤立する困難を考える。なは市民活動支援センター学生スタッフの田畑秋香さん(車いす利用者)と、IT関係で働く安慶名萌子さん(視覚障がい)に話を聞いた。

情報バリア② 制度と運用

公共施設の車いす専用席でひとり講演を聞く田畑秋香さん

前回、講演会や大学講義での聴覚障がい者の困難を書いた。手話通訳者による通訳があっても通じないケースや、スライドや動画に字幕がない、ジョークや場の空気が分からないなどだ。こうした、情報が直接得られない状況だけでなく、仲間と離されることで共有や共感ができず、考えが深められないことも「情報バリア」だ。
田畑さんがインタビューで話すように、車いす利用者が友人と一緒に映画や講演を楽しむ、理解するには、できるだけ多様な人が同じスペースで同席できるよう、柔軟な制度運用や健常者の理解、場合によっては法律の整備が必要だ。
スマートフォンは、今や障がいを抱えている人になくてはならないライフラインだ。聴覚障がい者にとって、自由な文字のやりとりでコミュニケーションの幅が広がった。情報受発信にはFAXの近くにいる必要があったが、解放された。視覚障がい者にとっては、音声変換の読み取り機が必要だったのが、スマホでほとんどのテキストが音声変換され、世界が広がった。今後、講演会などでの活用が期待される。
移動が困難な身体障がい者にとっても、移動しなければ手に入らなかった情報に届くようになった。緊急時、自分の居場所をすぐ知らせることもできる。手が不自由な人にとっても、ワードなどでわずかなタッチで長文を書けるようになり、受発信もできる。
スマホの普及率は、2014年で7割。誰とでも情報をやりとりできる世界に近づいた。ただ、ツールがここまで発展しても、公的機関の情報ですら健常者向けだ。スマホがあらゆる人のライフラインとなった今、特に情報弱者、移動困難者を考えた発信手法に変えるべきだ。もちろん、歩きスマホは社会的弱者への「テロ」であり、厳禁だ。


弱者には本当に怖い 歩きスマホ
-映画館やホールで困難に思うことは?
 田畑  友達と映画や講演に行っても、車いす利用者は専用席になっていて、一緒に話を聞いたり話ができないのが寂しい。専用席に友人席を設ける、あるいは通路を広めにして車いす利用者と同行者が一緒に座れるようになれば、映画や講演の楽しみや喜びも全然違う。

-鉄道でも離れ離れになってしまうね。
 田畑  混雑している時、仲間と離れてしまうのは仕方ない。ただ、新幹線を利用した際、車いす用の座席が車両の端に設けられていて、荷物が多い時など車いすが自動ドアの開閉センサーに感知してドアが開閉を続けてしまい、他のお客さんに申し訳なかった。自動ドアは車いす利用者にありがたいが、それが課題になってしまうこともあるんだなと思った。

-スポーツ観戦でも、家族と一緒に楽しめる席がないことが多い。車いす専用席がない時は?
 田畑  就職説明会や広場でのイベントなど大勢の人が殺到する会場では、車いすでは前に行けないし、立ち見の人が多くいると目線の低い車いす利用者は見えないだけでなく、舞台の声も聞こえない。人混みの中にいると気付かれにくく、怖い思いをすることが多い。
 安慶名  視覚障がい者も、人が多いと怖くて行けない。見えないだけでなく、騒がしいと状況判断が難しくなるため近づけなくなり、さらに情報から遠ざかってしまう。

-近づけないだけでなく、歩きスマホのように向こうからぶつかってくる怖さもある。
 安慶名  「ポケモンGO」は振動で感知して遊べるので私も楽しんでいるが、歩きスマホは本当に怖いのでやめてほしい。せっかくちゃんと見える目があるなら、周りの景色や人間も見てほしい。

-スマホは障がい者の世界を広げ、ライフラインでもあるが、リスクにもなる。
 安慶名  大型台風の通過後、公共交通機関が再開したという情報が流れるが、障がい者がバスに乗れる状況なのか、まちは歩ける状況なのか分からない。友人が発信するSNSに頼ることになるが、情報が氾らんしていてどれが正しいか分からず、結局学校や仕事を休まざるをえない。公共機関もSNSを積極的に使い、障がい者のニーズにも合った正しく細かい情報を流してほしい。
 


障がい者・健常者学生と行った「台風時のSNS」議論

文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1598号・2016年8月19日紙面から掲載

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