地域情報(街・人・文化)
2016年10月21日更新
「本当に必要とする人」考える場を|みんなで考えよう!豊かなまち⑦
これまで物理的バリアー、情報バリアーを取り上げた。いくら施設がバリアフリーになり情報ツールが発達しても、設置者や利用者に手を差し伸べ合う心がなければ機能しない。電動車いすを利用する沖縄国際大学3年・上間祥之介君に体験を聞いた。
社会的バリアー① エレベーター
大学から放送したラジオで一昨年、エレベーター問題を訴える上間祥之介君
沖縄都市モノレールの6駅で5~7月に故障したエレベーターやエスカレーターが、修理されず放置されていた。8月中旬の報道でようやく事態は動いたが、管理が国、県、那覇市、モノレール社に分かれ、行政の手続きや予算を理由に修理が3~7カ月以上かかるという説明に、行政や公共交通の市民感覚のなさ、観光立県の自覚のなさにあぜんとした。
車いす利用の女子学生は、バスからモノレールに乗り換えようと駅のエレベーター前に来て、故障しているのでまた戻ってバスで違う駅に行くことを何度も余儀なくされていた。
批判を受け9月末に修理が完了したが、行政の「縦割り」「手続き主義」の問題で終わらせると、同じことがまた起こる。道路や公共施設も同じで、いいかげん「作ったら終わり」行政をやめ、「設置後の利用者ケア」に仕事の質を変えるべきだ。
故障していないエレベーターでも、乗れない問題がある。
インタビューした上間君は、私が主宰したラジオ番組で「エレベーター乗せて!」をテーマに車いす利用者への協力を訴えた。講義間の移動で、途中階でエレベーターに乗ろうとするが毎回満員。放送では、リスナーから「扉があいて車いす利用者が待っているのが見えた時、どうしようと思っている間に扉が閉まってしまう」という反応があった。
二つの「乗れない問題」に感じるのは、沖縄では「エレベーターを本当に必要とする人」が知られていないことだ。公共交通未整備や車社会で障がい者と関わる場が少なく、歩行困難者の実際を考える機会がない。
モラルに頼らず優先ルールを明示し、啓発する方法もある。ただし、「優先」では実行性がないという声もある。これについて次回以降で触れる。
中間階では、譲ってもらえない
―エレベーターでの協力を訴えている。
上間 電動車いすを利用していて、2年前に大学に入学してすぐにエレベーターの問題にぶつかった。1階から乗る時は優先してくれるが、教室間の移動は途中階でエレベーターに乗らねばならない。ところが扉が開くと常に満杯で、車いすが入る余地はない。降りて譲ってくれることはめったになく、毎回6~7回待ってようやく乗れる。休憩時間は10分で、次の講義に間に合わない。たまたま障がいのある学生やサポート学生とでサークル活動を始めていて、この問題を話したところ多くの人に伝えようということになった。
上間 絵の得意な聴覚障がい学生が、僕の話を元にいろいろなパターンのイラストを描いてくれ(下参照)、あちこちに張ることになった。
―学外にも訴えよう、とラジオ出演を決意した(本文参照)。
上間 体の自由がきかず、緊張すると体がこわばるので不安だったが、声を使う仕事をしたいと思っているので挑戦することにした。イラスト入りの番組宣伝のポスターとチラシを作ってもらい、車いすの前後に張って宣伝カーのように学内を練り歩いた。
学内のほぼ全部の事務室を回り、研究室も回った。視覚障がいのある学生は白つえをつきながら、脳性まひだけど手が使える学生はチラシを配りながら、一緒に歩いた。番組では、なんとか伝えることができた。
―この2年で変化は?
上間 2年前に比べると、障がいのある学生に関心が向けられる機会が多くなったのは間違いない。理解が徐々に増えてきた感じはするが、以前の状況と変わらない、むしろ悪くなっている部分もある。
―どんな状況?
上間 先日も6~7人が乗ったエレベーターの扉が開いた時、乗っている学生は僕に気付いたようだったが気に留める様子もなく会話をしていた。仕方なく「次で行きます。大丈夫です」と言うと、何の返答もなく扉は閉められてしまった。訴えても改善されるのは一部で、またすぐに元に戻ってしまうことを実感し、とても悲しい気持ちになった。
―自分から「乗せてほしい」ということは?
上間 講義が連続している時やトイレが近い時など、声を出すようにしている。学生の反応は笑顔もあれば不機嫌な態度もあり、さまざま。時間はかかるが、もっともっと問題提起し、現状を訴え続けたい。
文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1607号・2016年10月21日紙面から掲載