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2025年4月18日更新

昔も今も欠かせない ラグでつくる居場所|ラグの世界⑭

イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う那覇市西の「Layout(レイアウト)」のバイヤー、平井香さんによるラグ買い付け旅記。今回は、イランを旅しながら見た、現地の暮らしの様子。昔ながらの遊牧民のテントにも、現代的な町や村の家にも「どこかに必ずラグがあり、居場所をつくる役割を担っている」と話します。

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エピソード⑭ イランの住まいとラグ

日本では「家に住む」ことが当たり前だが、古くから多くの遊牧民が行き交ってきたイランには、また違う「家」のカタチがある。

遊牧民というと、1年中ずっと移動しているように思うが、実はそうではない。もともとラグを作り始めた遊牧民は羊やヤギを飼い、標高が高く涼しい夏の野営地と、標高が低く温暖な冬の野営地を季節ごとに行き来する暮らしをしていた。それぞれの野営地に着くと、木の支柱とヤギの毛などで織ったテントを張り、そこで数カ月過ごす。


クルド遊牧民のテントの中。鮮やかなラグが敷かれていた

ハンドメイドラグのルーツもこうした遊牧の暮らしの中から生まれたもので、地面に木の棒を打ち込んで簡易的な織機を作り、その土地で過ごす数カ月の間にラグを織り上げては移動して、を繰り返してきた。

現在ではラグを織る遊牧民はほとんどいないと言われているが、羊やヤギとともに暮らす遊牧民には今でも会うことができる。今では遊牧民の暮らす地域にもWi-Fi(ワイファイ)が通っていてスマホが使え、移動はトラックを走らせ1日で済んでしまう。旅の途中に見かけた遊牧民のテントの入り口に、大きなソファが置いてあったときには本当にびっくりした。


遊牧民のテントのそばにソファ。なんとも不思議な光景だ

また、夏は高地で涼しく過ごし、冬は町にある家で暮らす半遊牧民もいる。このスタイルは「昔ながら」と「現代的」な生活を融合させた暮らし方であり、言い換えると「夏は避暑地でキャンプ暮らし」という、少しうらやましい生活ともいえる。
 

夏はテントで、冬は町に戻り家で暮らすカシュガイの夫婦


テントにも大都会にも

村や町にある家を訪れても、テントのように床にラグを敷き詰めて暮らしている。テーブルやソファがない部屋も多く、壁際にクッションがずらりと並べられ、床に座り、壁に背中を預けてくつろぐ。その様子はまさに「ラグとともにある暮らし」。イランでは、こうしたスタイルが今も当たり前に続いている。

もちろん、大都市のマンションやアパートで暮らす人々の生活は私たちとあまり変わらない。ソファでくつろぎ、ダイニングテーブルで食事をする。それでもリビングや寝室、玄関やキッチンなど、家のどこかに必ずラグが敷かれている。


家の中でもテントのようにラグを敷きつめている家庭も多い


家にお邪魔したら、まんべんなく敷き詰められたラグの上でおやつを振る舞ってくれたお母さん

すべてがハンドメイドラグというわけではないが、イランの人たちにとってのラグは、単なるインテリアではなく暮らしに欠かせない「居場所をつくる道具」としての役割があるように思う。暮らしのカタチが違っても、そう感じさせてくれる風景がイランの家々には今も息づいている。

 

執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1
電話=098・975・9798
https://shop.layout.casa

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2050号・2025年04月18日紙面から掲載

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