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2023年8月11日更新

[事業継承&リノベ]蘇った老舗店|まつだ商店(読谷村)

創業67年で幕を下ろした読谷村の「スーパーまつだ」を同村出身・在住の比嘉徹さん(62)が事業承継。老朽化の激しかった本店舗に代わって、裏にあった築43年の鉄筋コンクリート造の店舗兼作業場をリノベーションし、「まつだ商店」として今年7月に蘇らせた。

リノベーションしてオープンしたまつだ商店。柱や梁(はり)、土間床は既存のまま。昭和レトロな空間になっている
リノベーションしてオープンしたまつだ商店。柱や梁(はり)、土間床は既存のまま。昭和レトロな空間になっている

以前のスーパーまつだ(沖縄タイムス2014年9月7日掲載)
以前のスーパーまつだ(沖縄タイムス2014年9月7日掲載)


令和のマチヤグヮー

2020年11月に惜しまれつつ閉店した「スーパーまつだ」。「まつだは地域の活気の源。なんとか存続させたい」と同村在住で会社経営者の比嘉徹さんが事業承継した。

新しく「まつだ商店」としてオープンすべく建て替えを考えていたが、建築士から「本店舗は老朽化しているけど、その後ろにある鉄筋コンクリート造の店舗兼作業場はまだ使える」と太鼓判を押され、リノベーションを決意した。

比嘉さんが要望したのは、
①地域のシンボルとしてふさわしい建物
②昭和レトロで〝令和のマチヤグヮー〟的な雰囲気に
③くつろげるトイレ

完成した店内は、既存のコンクリート柱や梁、土間床を残しつつ木やトタンの内装がおしゃれ。一見、リノベーションとは分からないくらいだ。

「トイレも面白いですよ」と言われ、オールジェンダートイレの扉を開けると古代遺跡のような壁に目を奪われる。以前のトイレのタイルを剥ぎ、出てきた壁を生かした。


土地取得に苦労

「まつだの閉店は新聞で知った。そのときは、自分が引き継ぐとは思っていなかった」

急展開したのは、地元で「買い物難民が増えた」と聞いてから。なんとかしたいと考え、「まず、スーパーを運営していた㈲まつだ商会の事業を引き継ぎ、移動販売車で生活用品などの販売を始めた。でも客のニーズに応えにくかった。やはり、あの場所で店を再開することが、地元のためになる」と決心した。

前まつだ商会の株主の方々にも相談し、スーパーまつだの建物・土地を買い取る運びとなった。しかし、「土地が複数に分筆され、所有者不明の部分もあった」ことから難航。「名義変更をするため、昔の契約書や図面をかき集めたり、資料製作をしたりで、手間と時間がかかった」。1年ほどかけ、ようやく不動産を取得した。

売り場づくりにあたっては、地域のニーズに合わせて「地元の野菜を置くのはもちろん、大手スーパーとの差別化のために肉や魚などは対面販売形式にした。移住者も多いので、オーガニックの調味料や有機食品なども販売している」。

多様な客層に対応するため、さまざまな決済に対応できるレジも導入。まつだの看板を上げながら、時代に合わせ“令和のマチヤグヮー”として再始動した。


ビフォー。以前は店舗兼作業場で無機質な空間だった
ビフォー。以前は店舗兼作業場で無機質な空間だった
        
商店の南側には、フルーツジュースの店や精肉店、鮮魚店が並ぶ。いずれも対面販売形式で店員との会話を楽しみながら買い物できる
商店の南側には、フルーツジュースの店や精肉店、鮮魚店が並ぶ。いずれも対面販売形式で店員との会話を楽しみながら買い物できる
 
柱や梁などの構造にはあまり手を入れずそのまま生かした。そこにトタンや古いポスターなど用いて「昭和レトロ」な空間を演出している
柱や梁などの構造にはあまり手を入れずそのまま生かした。そこにトタンや古いポスターなど用いて「昭和レトロ」な空間を演出している


こだわりのトイレ

「人が集まる場所のトイレは心地よくなければいけない」という比嘉社長の強いこだわりを反映。オールジェンダートイレは既存壁のタイルを剥ぎ、その傷を生かして「古代遺跡風」に。女性・男性トイレからは坪庭を眺められる


ビフォー
        

オールジェンダートイレ


女性トイレ

 

「古」生かし「新」なじませる​

まつだ商店のリノベーションを手掛けたのは、読谷村の建築事務所・NDアーキテクトン。同社の大城貢社長(63)は、まつだ商店の比嘉徹社長の読谷小・中学校時代の先輩というつながりもあり、依頼を受けた。

設計は、大城社長の息子である航平さん(36)=写真=が主となった。「本店舗は老朽化がひどかったが、後ろにあった鉄筋コンクリート造店舗兼作業場は状態が良かった。ここを活用することで、建て替えよりも4割近くコスト削減ができる」とリノベを提案した。

ただ、「照明が少なくて空調も不十分だった」ことから設備を新しく導入。「新しい設備がすべて丸見えになるとマチヤグヮー感が損なわれる。天井に木のルーバーを設け、その間に照明や空調などを隠した」。

設備に予算を割いた分、内装で調整した。「柱や梁、土間床は使い込まれた風合いが良い感じだったので、あまり手を入れずそのまま使った。以前からあった木棚もリメークして使うことで、コスト削減とともに昭和レトロ感の演出に一役買っている」

比嘉さんから強い要望のあったトイレ部分は、既存と増築のミックスだ。「以前のトイレは、既存壁を生かしながらオールジェンダートイレに。増築部分は男女のトイレにした。坪庭も設けて気持ちよく過ごせるよう配慮した」。



店舗運営・設計 次世代が活躍!

まつだ商店の店長は、比嘉徹社長の義理の息子である照屋雅文さん(32)。また、同店のリノベを手がけたのは読谷村にある建築士事務所NDアーキテクトンの大城貢社長の息子、大城航平さん(36)。“令和のマチヤグヮー”では次世代が活躍している。


照屋雅文店長「これは以前のスーパーまつだの看板。取り壊しの際、捨てられそうになっていたのを確保して、今はレジ横に飾っている。昔のまつだを守りながら、今のお客さんのニーズに応えるべく、奮闘中!」


建築士・大城航平さん「スーパーまつだは僕もよく買い物をしたため、思い入れがある。この建物は、設計や施工だけでなく、建具や設備、植栽や看板など職人がワンチームになって造り上げたので細部まで見てほしい」



外にはパワースポット

店の横にある立派な「トックリラン」は、比嘉さんが「今帰仁村の民家に生えているのを見て、『店のシンボルツリーにしたい!』と譲ってもらった。こんなに大きなトックリランは珍しい。風水的に子宝運や金運を上げる効果があるとされている。読谷の新たなパワースポットになれば」と話した


店内に神谷鮮魚も15年ぶり復活!


以前の神谷鮮魚店
以前の神谷鮮魚店

店内の鮮魚店は、読谷村内にあったが15年ほど前に閉店した神谷鮮魚。「親父がやっていた店を、縁があって僕がここでまたやることになった」と店主の神谷乗仁さん(62)。「親も喜んでいるし、僕もここでお客さんとユンタクしながら商売できて楽しい」と笑った




DATA

敷地面積:836.54㎡(約254坪)
売り場面積:227.84㎡(約68坪)
用途地域:近隣商業地域
躯体構造:鉄筋コンクリートラーメン造
築年数:43年
設計・監理:㈱NDアーキテクトン 大城航平
施工:㈱池原建設 真栄喜憲一
電気設備:隆松電気 松田隆
給排水設備:(有)山商 翁長文高
ガス設備:比謝川ガス㈱ 源河寛
冷蔵・冷凍設備:アゲダ空調設備㈱ 安村順司
鋼製建具:(有)読谷アルミ工業 比嘉徹治
造園:やんばる緑花木 島袋純
サイン・看板:トータルサインフェイス 當間嗣武

まつだ商店
読谷村高志保300 電話=098・923・1531

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1962号・2023年8月11日紙面から掲載

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この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

これまでに書いた記事:338

編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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