建築
2019年9月20日更新
効率的な働き方充実した余暇|ロンドン住まい探訪[6]
文・比嘉俊一
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ノースロンドンでの勤務時代②
日本と英で働き方に違い
ロンドンの設計事務所に勤務して1年。いくつかのプロジェクトにかかわる中で新しい環境にも慣れ始めた頃、設計事務所の働き方、今でいうワーク・ライフ・バランスに対する考え方が日本の設計事務所と根本的に異なるように感じていた。
勤務時間について、(10年以上前の限られた情報に基づく私の認識では)日本の設計事務所での仕事は朝9時頃から始まり帰宅は終電も割とよくある話であった。今でいう、ブラック企業である。しかし、建物を正確に図面に表現する知識、施工者とのやりとりは一朝一夕で身につくものでなく、法律の理解、より良い建築物の設計、そして監理に伴う責任の重さから考えると、日々の業務に加えて学ぶことが膨大にあるため長時間労働もやむなし、そのため私自身それは当然だと思っていた。もちろんこの仕事には素晴らしい魅力があって、技術や知識については常に多くの学びがあり、無事に竣工した時の達成感、お施主さまと喜びの共有はかけがえのない経験である。
◆ロンドン設計事務所時代の1日のスケジュール
▲起床して出勤するまでは、お気に入りの公園で散歩したり、読書したり、友人と朝食をとったりと朝活をしていた。退社後は夜活。仕事の続きをカフェでやったり、ジムに通ったり、友人と食事へ出かけたりしていた。
サマータイム(夏時間)は夜9時まで明るいので夜活の時間も長くなった。サマータイムが終わって冬になると昼3時くらいから暗くなるので、仕事後は家で過ごす時間が長くなった。日照時間が季節によって変わり、それに合わせて一日の過ごし方が異なってくるのもロンドンでの暮らしの楽しさでもあった。
趣味やスキルアップの時間
しかしロンドンの事務所では基本残業は禁止、代表以外は基本午後6時には事務所から出された。その後に清掃業者が入ってくるため残業は物理的に難しい。残業するよりも仕事の効率性をどう高めるのかという議論になる。与えられた環境の中で、個人として、チームとして、会社としてどう最大限のパフォーマンスができるかが求められていた。もちろん残業したい日もあったが、それができずになかなか大変な思いをすることもあった。
一方でこの労働環境は日常生活に大きな影響を与えた。就業後は家族や友人との時間を大事にでき、趣味や自分のスキルアップに時間を割くこともできる。週休2日制で年休も2週間程度とれることで、一年を通してワーク・ライフ・バランスを調整することができていた。とはいえ例外として、所長はもちろん、われわれスタッフより仕事をしていた。所長が一番働くのは世界共通なのだろう。
また、面接時に希望年収をこちらから提示する(自身の価値を示す)のも大きな違いではないだろうか。提示する金額には取得した学位や資格によって目安のようなものがあり、私の場合は目安の金額で提示した。その金額は物価の高いロンドンでも十分に生活できる金額であったので安心して提示できた。月給は小切手で手渡し。一度落としたことがあったが、心優しい方が拾って届けに来てくれて救われるというドラマ的な体験もした。
独立した今、日々の仕事に追われ在英時のような時間の余裕は全くないが、より効率的に円滑に仕事を進めるために改善する余地は多くあることに、改めて気付かされる。私の事務所のワーク・ライフ・バランスはまだまだである。
▲ロンドンで勤務していた設計事務所の中庭にはアートがあり、外部は川と公園に面していて環境的に落ち着いていた。写真正面の建物の1階に事務所がある。スタッフは10人ほどで、英国、ポーランド、ギリシャ、スペインと国籍はさまざま。プロジェクトの規模も個人住宅からマンション、ミュージアムなどと多様で私にはとても合っていたように思う
▲事務所スタッフとランチ。月に1~2回程度はスタッフランチを取り、大抵は金曜に近所のパブに行っていた。ランチからビールを飲み、午後普通に仕事をするスタイルに慣れるのに、そう時間はかからなかった。車社会の沖縄では難しいスタイルである
ひが・しゅんいち/1980年生まれ。読谷村出身。琉球大学工学部卒業後、2005年に渡英。ロンドンでの大学、設計事務所勤務を経て、16年に建築設計事務所アトリエセグエを設立。住み継がれる建築を目指す
日本と英で働き方に違い
ロンドンの設計事務所に勤務して1年。いくつかのプロジェクトにかかわる中で新しい環境にも慣れ始めた頃、設計事務所の働き方、今でいうワーク・ライフ・バランスに対する考え方が日本の設計事務所と根本的に異なるように感じていた。
勤務時間について、(10年以上前の限られた情報に基づく私の認識では)日本の設計事務所での仕事は朝9時頃から始まり帰宅は終電も割とよくある話であった。今でいう、ブラック企業である。しかし、建物を正確に図面に表現する知識、施工者とのやりとりは一朝一夕で身につくものでなく、法律の理解、より良い建築物の設計、そして監理に伴う責任の重さから考えると、日々の業務に加えて学ぶことが膨大にあるため長時間労働もやむなし、そのため私自身それは当然だと思っていた。もちろんこの仕事には素晴らしい魅力があって、技術や知識については常に多くの学びがあり、無事に竣工した時の達成感、お施主さまと喜びの共有はかけがえのない経験である。
◆ロンドン設計事務所時代の1日のスケジュール
▲起床して出勤するまでは、お気に入りの公園で散歩したり、読書したり、友人と朝食をとったりと朝活をしていた。退社後は夜活。仕事の続きをカフェでやったり、ジムに通ったり、友人と食事へ出かけたりしていた。
サマータイム(夏時間)は夜9時まで明るいので夜活の時間も長くなった。サマータイムが終わって冬になると昼3時くらいから暗くなるので、仕事後は家で過ごす時間が長くなった。日照時間が季節によって変わり、それに合わせて一日の過ごし方が異なってくるのもロンドンでの暮らしの楽しさでもあった。
趣味やスキルアップの時間
しかしロンドンの事務所では基本残業は禁止、代表以外は基本午後6時には事務所から出された。その後に清掃業者が入ってくるため残業は物理的に難しい。残業するよりも仕事の効率性をどう高めるのかという議論になる。与えられた環境の中で、個人として、チームとして、会社としてどう最大限のパフォーマンスができるかが求められていた。もちろん残業したい日もあったが、それができずになかなか大変な思いをすることもあった。
一方でこの労働環境は日常生活に大きな影響を与えた。就業後は家族や友人との時間を大事にでき、趣味や自分のスキルアップに時間を割くこともできる。週休2日制で年休も2週間程度とれることで、一年を通してワーク・ライフ・バランスを調整することができていた。とはいえ例外として、所長はもちろん、われわれスタッフより仕事をしていた。所長が一番働くのは世界共通なのだろう。
また、面接時に希望年収をこちらから提示する(自身の価値を示す)のも大きな違いではないだろうか。提示する金額には取得した学位や資格によって目安のようなものがあり、私の場合は目安の金額で提示した。その金額は物価の高いロンドンでも十分に生活できる金額であったので安心して提示できた。月給は小切手で手渡し。一度落としたことがあったが、心優しい方が拾って届けに来てくれて救われるというドラマ的な体験もした。
独立した今、日々の仕事に追われ在英時のような時間の余裕は全くないが、より効率的に円滑に仕事を進めるために改善する余地は多くあることに、改めて気付かされる。私の事務所のワーク・ライフ・バランスはまだまだである。
▲ロンドンで勤務していた設計事務所の中庭にはアートがあり、外部は川と公園に面していて環境的に落ち着いていた。写真正面の建物の1階に事務所がある。スタッフは10人ほどで、英国、ポーランド、ギリシャ、スペインと国籍はさまざま。プロジェクトの規模も個人住宅からマンション、ミュージアムなどと多様で私にはとても合っていたように思う
▲事務所スタッフとランチ。月に1~2回程度はスタッフランチを取り、大抵は金曜に近所のパブに行っていた。ランチからビールを飲み、午後普通に仕事をするスタイルに慣れるのに、そう時間はかからなかった。車社会の沖縄では難しいスタイルである
ひが・しゅんいち/1980年生まれ。読谷村出身。琉球大学工学部卒業後、2005年に渡英。ロンドンでの大学、設計事務所勤務を経て、16年に建築設計事務所アトリエセグエを設立。住み継がれる建築を目指す
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1759号・2019年9月20日紙面から掲載
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