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2022年10月14日更新

[建築探訪PartⅡ(28)]沖縄戦前後 (沖縄県)

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治

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継承されなかった沖縄の街・建築づくり

沖縄戦前後(沖縄県)

長く沖縄で建築設計に携わってきた私は、ずっとある疑問にさいなまれてきた。亜熱帯の自然豊かな島国なのに、どうして沖縄に似つかわしくない息苦しい街や建築が多いのか。沖縄の気候風土を生かした緑豊かな南国の街・建築づくりができなかったのか。

かつての沖縄には、生活の糧を得るとともに自然災害から守る「街・建築づくりの規範」があった。つまり、海や川や農地に近く、台風や冬の北風を防ぐクサムティ森に守られ碁盤目状の石垣に区切られた集落で、風通しが良い住まいを作り暮らす生活様式があった。それは質素で素朴ではあったが、自然に囲まれた心豊かな暮らしだった。これらの集落や住宅は、自然発生的に生まれたものでない。蔡温などによって、厳しい自然環境の中で生産性を上げ、快適な生活ができるように作られた計画的な街・建築づくりだった。

確かに過去と現在とでは街の規模や交通、そして建設資材も生活様式も違う。しかし、先人が長年かかって作り上げた集落や建物づくりの知恵を参考にした新しい沖縄スタイルの街や建物があって良いはずだ。



浦添・旧小湾集落の模型。現在のキャンプキンザーの南西端にあった集落。小湾川と東シナ海に面し、北側に農地がある風光明媚な集落だった。

失ったアイデンティティー

ヨーロッパの都市は古い建物が多く、歴史と個性を感じる。第2次世界大戦で多くの都市は大きな被害を受けた。ベルリンやワルシャワは特にひどかった。しかし、戦後まず行われたのは「市民のアイデンティティーを取り戻すこと」。そのためには「歴史文化を伝える街並みや建物を復元し、アイデンティティーの継承こそが重要だ」と考え復興が始まった。

一方沖縄は、沖縄戦で10万人余の命と先人が築いた形あるものすべてを失った。それは日本軍が農地や集落を壊して本土防衛のための飛行場を作り、首里城地下に司令部を作ったことに始まる。米軍はその飛行場を取り上げ、古都首里も破壊する。戦後は良好な地に広大な恒久基地を建設する。一方で住民を低湿地や丘陵地などに追いやり、そこで暮らすことを強いた。琉球政府も住民もかつての街や建築づくりの思想や歴史文化の継承どころではなく、日々の生活に追われる。つまり、先人が長年かかって築き上げたアイデンティティーを見失うことになった。その後、経済的にゆとりが出ても、一度見失ってしまったアイデンティティーはなかなか再現できない。亜熱帯の自然豊かな島国にもかかわらず、新たな自らの街・建築づくりが見いだせないまま、今なおスクラップ・アンド・ビルドが続いているのである。

だから、私は沖縄の街・建築づくりの問題の原因の一端は、住民の存在を無視した第32軍司令部にあると最近思い始めている。
首里城 450年間栄えた琉球王国の王府。緑豊かな首里城一帯は、地下に日本軍第32軍司令部があったため米軍攻撃により白いがれきの山になった。(沖縄県公文書館)
 

古都首里。首里城周辺には多くの文化財や貴重な建造物があったが沖縄戦によって全てが失われた。沖縄戦で使われた砲弾爆弾は約20万トン。(沖縄県公文書館)


戦後の本島中部。街づくりに不向きな丘陵地や低地に都市計画もないまま建築。海を埋め立て丘陵地の緑を壊して都市が拡大しインフラ整備が追いつかない。(Donn Cuson撮影)


1986年頃のキャンプ瑞慶覧(西普天間住宅地区)。返還後、大きく造成され、現在、琉球大学医学部と付属病院を建設中。米軍海軍病院に隣接(国土地理院)


首里城地下の第32軍司令部壕。地下15~33m、全長約1000m、約1.8m角の湿気と湧き水と空気の悪いこの壕で日本軍は沖縄戦の作戦をたて、命令を出した。(沖縄県公文書館)


[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1919号・2022年10月14日紙面から掲載

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