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2022年8月26日更新

万緑に 悠然とたたずむ中村家|中村家住宅(北中城村)|絵になる風景⑤

「風土に根差した建築」を目指して設計活動を続ける山城東雄さんが、建築家の目で切り取った風景を絵と文章でつづります。(画・文・俳句/山城東雄)


「中城の光」(P12号、第七回かりゆし美術展奨励賞受賞)

国指定重要文化財「中村家住宅」。280年前に建築されたこの農家住宅は、沖縄では一番古い木造建築といわれている。またこの家は、風水に基づく北上がり南下がりの良好な地形を生かしており、当時の棟(とう)梁(りょう)の技と、オーナーの思い入れが伝わってくる。

大ぶりで風格のある石の「ひんぷん」を回ると、正面に母屋(ウフヤ)、右にアシャギ(当主によるとこのアシャギは首里の侍の家を移築したといわれる)、左にはこの絵のように高倉があり、中庭空間を引き締める。奥には馬小屋、フール(豚小屋)があり、石垣と、しっとりした赤瓦の屋根の連なりは匠の技の洗練された空間構成を感じる。

さらに驚くのは正面の大きなひんぷんである。機械のない時代に、どのようにして切り出し、運び込み、積み上げたのだろうか。いかにこの中村家が地頭代職を務めた篤農家で力を持っていたかを物語る。

第12代目当主・中村氏の話によると、現在は当主ご家族による並々ならぬ努力で日頃の維持管理に努めておられるという。文化財なので国からそれなりの管理費が出るのではとお聞きしたら「水道代くらいしかもらえないよ」と笑われる。ここでもコロナ禍で大幅に客足が減り苦戦されているようである。

私は、この家は沖縄の大きな宝だと思っている。多くの方にぜひ見てもらいたいと思う。7年前、中庭を抜ける心地よい風を感じながら描いてみた。


文化財訪ねし屋形涼しけり
   思い馳せるは先人の技





[執筆者]
やましろ・あずまお/1944年、竹富町小浜島出身。沖縄工業高校建築科卒業後、建築設計会社での勤務を経て、34歳の時に東設計工房を設立して独立。一級建築士。JIA登録建築家。(株)東設計工房代表取締役。(一社)おきなわ離島応援団代表理事。著書に「沖縄の瓦はなぜ赤いのか」がある。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1912号・2022年8月26日紙面から掲載

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