廃材も古建物も 生かし切る魔法|オキナワンダーランド [57]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2022年7月29日更新

廃材も古建物も 生かし切る魔法|オキナワンダーランド [57]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。 ( 文・写真/馬渕和香)

kapok 岡戸大和さん

建築家の岡戸大和さんは、マジックがうまい。

彼の手にかかれば、取り壊された築60年の教会で使われていた重厚な間仕切り扉は、近くに開店したカフェのレトロなカウンターに姿を変え、民宿を解体して出た40年ものの床材が、隠れ家的なイタリア料理店の渋かっこいい内装に生まれ変わる。

その手並みの鮮やかさに、見た人は思わず「岡戸マジック!」と感嘆の声をあげる。

「廃材だ、ゴミだと言われて捨てられるものを、私は“取れたての旬の素材”ととらえています。進んで譲り受けて、別の場所に持っていき別の形で生かします。やんばるから出た材をコザの店舗に、といった具合に。生かした先では皆さん、時には涙まで流して喜んでくれます」

古家や古ビルの解体現場から出てくる埃(ほこり)をかぶった柱や梁(はり)。傷のついたフローリング。経年劣化して、用途を果たせなくなった瓦。どれもみな、岡戸さんに言わせれば「宝」だ。

廃材を積極的に使った築古建物のリノベーションを多く手がける建築家の岡戸大和さん。古い材や建物を生かす秘けつは「使える、と考えて工夫する」ことだと語る。写真は集落滞在型の宿に再生される大宜味の古民家
廃材を積極的に使った築古建物のリノベーションを多く手がける建築家の岡戸大和さん。古い材や建物を生かす秘けつは「使える、と考えて工夫する」ことだと語る。写真は集落滞在型の宿に再生される大宜味の古民家

「これは使える、これは使えない、とレッテルを貼るのをやめることで多くのものが救われます。だから私は、『全部使える』と考えるところから始めます。昔の沖縄の人たちもそうでしたよね。資源に恵まれないこの島で、目の前にあるものをアイデアと創意工夫で生かしていた」

糸芭(ば)蕉(しょう)から繊維を取って芭蕉布に、米軍基地から出た空き瓶を琉球ガラスに、瓦(かわら)葺(ぶ)き工事の余った材料を組み合わせて漆(しっ)喰(くい)シーサーに。先人たちは、目の前にある廃材や余材を「これ、使えるよね」と考えて生かしてきたと岡戸さんは言う。

「沖縄らしさって何でしょう。県外や海外から材料を寄せ集めて来てものをつくることではないように私は思います。知恵を絞って今そこにあるものを活用するクリエーティブさ。それが沖縄らしさでは、と」

沖縄市の建築会社「kapok(カポック)」で代表を務め、設計のほか施工も手がける岡戸さんが、「今そこにある」古い建物や廃材を生かすことの面白さに目覚めたのは、大学で建築を学んでいた頃だ。当時岡戸さんは、ある葛藤を抱えていた。

「『世の中には、私が建物をつくらなくても、もう十分にストックがあるじゃないか。私が建築を学ぶ意味はどこにあるのだろう』と迷っていました」

だが、築古建物を再生して生かす「リノベーション」の考え方と出会って、迷いが晴れた。建築とは新しい建物を建てること、という思い込みから解放されて、自由になれた。新築が好まれがちな日本と違って、海外では、築数百年の建物を繰り返しリノベーションして住み継ぐのが珍しくないことも知った。

「今あるものを時代やニーズに合わせてアップデートしながら、消費し尽くす、生かし切る。リノベーションのそういう考え方が好きです。生かすことで、ものが持つ歴史や物語が語り継がれていくのもすてきなこと」

13年前、岡戸さんは沖縄に移住してきた。敬愛する人生の先輩に「沖縄があなたを呼んでいるよ」と誘われたからだ。

なぜ自分が呼ばれたのか、その時は分からなかった。だが、「岡戸マジック」が評判を呼び、リノベの依頼が絶えない今、分かってきた気がしている。

沖縄市のカフェ「珈琲ロマン」のカウンターは、解体された教会の建具で作ったもの。店主の新里綾希さんは、「私自身、古物好きなのでここで生かされてうれしい。教会の皆さんが喜んでくれたのもよかった」と話す
沖縄市のカフェ「珈琲ロマン」のカウンターは、解体された教会の建具で作ったもの。店主の新里綾希さんは、「私自身、古物好きなのでここで生かされてうれしい。教会の皆さんが喜んでくれたのもよかった」と話す

港から出た廃材や解体された民宿の床材、別現場で余ったタイルなどを活用して空き家を再生した沖縄市のイタリア料理店「アレコ」。「廃材やおさがりを大切に、感謝を持って使い切りたい。料理の食材と同じように」と店主の伊禮力さん
港から出た廃材や解体された民宿の床材、別現場で余ったタイルなどを活用して空き家を再生した沖縄市のイタリア料理店「アレコ」。「廃材やおさがりを大切に、感謝を持って使い切りたい。料理の食材と同じように」と店主の伊禮力さん

アレコの壁に張ったのは那覇の港で使われていた運搬用資材。「古くぎを抜き、天日に干し、切りそろえ、デザイン性をもたせて張りました。廃材を生かすのは手間がかかるし、頭も使う。でもそこが楽しい」と岡戸さんの右腕、久保玉井啓さん
アレコの壁に張ったのは那覇の港で使われていた運搬用資材。「古くぎを抜き、天日に干し、切りそろえ、デザイン性をもたせて張りました。廃材を生かすのは手間がかかるし、頭も使う。でもそこが楽しい」と岡戸さんの右腕、久保玉井啓さん

「古いものを生かすのが好き」だという宮城知美さんが営むロースイーツの店「アボンダンス」でも廃材を随所に使った。例えば、アンティーク家具に見える大テーブルは近所の解体民家から出た畳の下地板で制作
「古いものを生かすのが好き」だという宮城知美さんが営むロースイーツの店「アボンダンス」でも廃材を随所に使った。例えば、アンティーク家具に見える大テーブルは近所の解体民家から出た畳の下地板で制作


◆kapok office@kapok.co.jp


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景


 


[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。

『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<57>
第1908号 2022年7月29日掲載

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