特集・企画
2021年11月12日更新
住まいと暮らしとSDGs③
本コーナーは、住まいと暮らしの中で取り組めるSDGs(持続可能な開発目標)について、読者と共に考えていきます。
モノのシェア、買い出し前の冷蔵庫チェックなど
家庭消費の見直しが近道に
沖縄の暮らし
生活で使う資源の量や環境に与える負荷を表す指標、エコロジカル・フットプリント。前回に引き続き伊波克典さんが沖縄の状況とエコな暮らしや活動のヒントを説明する。
世界が沖縄と同じ生活なら地球2.6個!?
前回は、世界レベルでの資源の「使い過ぎ」について考えてみました。今回は、自然環境への負荷を表すエコロジカル・フットプリント(エコフット)からみた沖縄の暮らしを考えていきたいと思います。都道府県別に見てみると、沖縄県1人当たりのエコフットは45位と環境負荷は低い順位。1位の東京都と比較すると沖縄の暮らしは東京都より約20%環境にやさしいことが分かっています。その要因の一つとして考えられるのが物資のシェア。コミュニティーのつながりが強い沖縄では、親戚からお下がりをもらったり、地域でモノを共有したりする文化があります。これが資源の使用を抑える、つまりエコフットを減らすことにつながっています。
しかし、それでも世界平均からみるとまだまだ高い。例えば、もし世界中の人々が沖縄と同じ水準で生活をすると、地球が2.6個分必要になります。それでは、沖縄のエコフットを減らし、地元のバイオキャパシティ(自然資源の再生量)を高めるために、どのような活動が考えられるでしょうか。
図1 沖縄県のエコロジカル・フットプリント
沖縄県のエコフット。左円の分野別に環境負荷の割合を見てみると、家計消費が67%と最も大きく、行政サービスや学校などに関わる政府消費が13%、インフラや工場設備などに関わる投資が20%となっている。家計消費を右円の項目別に見ると、住居・光熱費に関わる環境負荷が26%と最も大きく、次いで食料17%、サービス・財13%、交通11%
エコフットを減らす活動
沖縄のエコフットのうち67%は、日々の生活に関係するものです=図1。ということは、私たちの暮らしのあり方を見直すことで、エコフットを大きく下げる可能性があります。例えば、買い物に出かける前に冷蔵庫の在庫を確認し、食べきれないほどの食材を買うのをひかえるだけで、食品ロスの削減につながります。また、地元産の食品を購入することで、輸送によるCO2排出の削減につながります。とくに家庭菜園でとれた野菜を食べることは、究極の地産地消といえるでしょう。車社会である沖縄は慢性的な交通渋滞に悩まされていますが、リモートワークが普及し、働き方が変わることで環境負荷を抑えられる可能性があります。
図2 環境負荷低減につながる暮らしのヒント
モノのシェア
洋服や家具・家電などのリサイクル、自転車や車のシェアリングなどで資源消費を抑える
食品の在庫管理
買い物前の冷蔵庫チェック、ストック管理しやすい収納などで食品ロスを減らす
地産地消
県産のものを買う、家庭菜園するなどの地産地消は、輸送のCO2削減効果が期待される
働き方の変化
リモートワークが普及すると車移動や電気使用などが減り、環境負荷低減につながる
バイオキャパシティを高める取り組み
沖縄県の耕作放棄地は3511㌶、なんと読谷村とほぼ同じ面積。この放棄地を有効活用すれば、農地のバイオキャパシティを大きく向上させることができます。また、農地と海のつながりを意識した取り組みとして、恩納村が取り組んでいる「Honey & Coral Project」があります。養蜂で農家の収入を増やし、その一部を赤土対策に活用し、サンゴ礁保全につなげようという計画。この活動は農地と漁場の持続性を高めることにつながります。
このように「暮らしと自然の結びつき」を意識することで、沖縄のエコフットを減らし、バイオキャパシティを向上させるヒントが見えてきます。特に、沖縄の自然とともに生きてきたお年寄りの知恵に耳を傾けることが大切です。昔ながらの「エコな暮らし」を掘り起こすのです 。今後、市町村別のエコフットとバイオキャパシティの分析がすすめば、それぞれの生活スタイルや産業構造にあった、より具体的な取り組みも見えてくるでしょう。次回は、住宅デザインとエコフットの関係に焦点をあてて話を進めていきたいと思います。
執筆者
伊波克典/いは・かつのり。
1973年、読谷村出身。グローバル・フットプリント・ネットワーク研究員。トルコキキョウ農家でもあり、沖縄の自然資源循環を研究している
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1871号・2021年11月12日紙面から掲載