リフォーム
2015年9月11日更新
早めに長期修繕計画を|メンテでお得 すまい長持ち[6]
分譲マンションの場合、躯体や共用部分の状態が、建物の安全性や資産価値に影響する。大規模修繕にこぎつけるには、区分所有者の合意形成がポイントになる。マンション管理士の崎濱宏勝さんは「早めに長期修繕計画を作り、工事の時期や金額をある程度確定させることが大切」とアドバイスする。
分譲マンション
大規模修繕について、管理組合で争点になるのが「実施する時期」だ。
例えば、築20年前後は、塗装の劣化やコンクリートのひび割れといった劣化症状が出やすい時期とされる。しかし同じ築年数でも、マンションの劣化具合はまちまちなのも事実。そのことが区分所有者の間に認識の違いを生むと、崎濱さんは指摘する。
また同じマンションでも、住んでいる階によって認識に差が出ることもある。風雨や日差しにさらされる高い階は劣化が進みやすく、低い階はさほど劣化していない可能性があるためだ。
さらに、修繕積立金の積立額と工事金額に差があり金融機関から借り入れる場合や、その返済や次回の修繕に備えた積立金の値上げが伴う場合でも認識に違いが出るという。
では、区分所有者に修繕の必要性を理解してもらうためにできることは何か。
崎濱さんは「早くから長期修繕計画を作り、工事の時期や金額をある程度確定させることが大切」と強調する。
長期修繕計画の内容は①計画期間、②修繕工事項目、③修繕周期、④修繕工事費用、⑤収支計画―の五つ。
「区分所有者に周知することで、適正な修繕積立金の根拠が示せる上に、値上げが必要な場合に説明がしやすくなる」と崎濱さん。工事実施のために積み立てていることを区分所有者に認識してもらう狙いもある。
長期修繕計画や修繕積立金の具体的な中身は、国土交通省のガイドライン(下記参照)を参考に。
大きなポイントは、④の修繕設計。管理会社に委託している管理組合の場合、「管理会社に見積もりを頼み、その見積もりの項目や数量を基準にしてほかの業者からも管理組合自ら見積もりを取り、管理会社のものも含めて比較検討をすることが重要」と話す。
一方、管理組合が機能していないマンションでは、修繕積立金も管理費も集めていない可能性も考えられる。
「まずは理事役員を選任し、管理費や積立金を徴収し、年1回は必ず総会を開くこと。組合員全体でマンションの維持管理について話し合いができる体制作りから始めてほしい」と訴えた。
●大規模修繕の流れ(参考)
①管理組合の発意
長期修繕計画書、区分所有者の要望などにより、大規模修繕工事の実施を確認。理事会の諮問機関である修繕委員会の設置も検討する。世帯数が少ない場合は設置されない場合が多い。
②調査診断
詳細な建物調査や診断を設計事務所等に依頼(費用が発生)。
③基本計画および長期修繕計画
建物診断の実施後、必要な修繕時期や修繕方法を決定。併せて最新の長期修繕計画を作成することが望ましい。不具合の箇所や改造の要望など、組合員にアンケートを実施。
④修繕設計(仕様決定・資金計画)
工事の細かな仕様を決め、そのための概算工事予算を算出。そこで必要な金額が分かるため、修繕積立金の残高と照らし合わせ、必要に応じて借り入れや一時金の検討も行う。
⑤見積もりの採取、業者決定
管理組合の方針や予算が確定したら、工事業者を選ぶ。選定法には、建築専門紙による公募(費用が発生)、「住民の推薦や紹介により工事業者を選ぶ」がある。後者は、誤解やトラブルの元になる場合がある。
※工事の方式も以下の三つに分かれる。
●設計監理方式
設計および工事の監理、施工を別々の専門業者に発注し、工事を進める方式。メリットは、第三者による工事監理で工 事の品質が担保できる点。デメリットは、小規模な工事では割高になる場合もある点。
●責任施工方式
仕様の決定、工事(施工)、施工管理を1社の業者に発注して工事を進める方式。
●管理会社発注方式
管理会社にすべて任せる方式。
⑥総会決議(金額・発注先の承認)
業者と発注金額を総会で決議する。年1回開催する通常総会の時期とはタイミングが合わない場合は、臨時総会を開く。
⑦工事開始前に住民説明会、着工
資材置き場や、外部駐車場などの確保、大規模修繕工事の際は、居住者の協力が欠かせないため、着工前に「住民説明会」を行う。工事の時期は、居住者の負担が少ない春工事(1月着工)、秋工事(9月着工)などがある。
⑧定例会議・検査・承認事項
工事期間中に定例会議を開き、設計事務所、工事業者、管理組合などが進捗(しんちょく)状況について説明する。
⑨完成引き渡し・書類の整備
※マンションによって、世帯数や修繕積立金の状況などが違うため、全てが①~⑨の通りに進むとは限らない。
【マンションの修繕積立金に関するガイドライン】
修繕積立金に関する基本的な知識や金額の目安で理解を深め、分譲事業者が示す金額の判断材料とすることを目的に2011年4月、国土交通省が策定。長期修繕計画についての基本的な考え方、「長期修繕計画様式」「長期修繕計画作成ガイドライン」についても08年6月に策定している。これらの情報は、インターネット上の検索欄に「マンション管理について 国土交通省」と入力し、検索すると確認できる。
この人に聞きました
崎濱宏勝(さきはま・ひろかつ)
マンション管理士として、県内20棟の分譲マンション管理組合の顧問を務める。(一社)沖縄県マンション管理士会会長。
問い合わせ(電話=098-878-7137)
編 集/我那覇宗貴
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 「メンテでお得 すまい長持ち」<6>」第1549号・2015年9月11日紙面から掲載
工事時期・金額を確定
大規模修繕について、管理組合で争点になるのが「実施する時期」だ。
例えば、築20年前後は、塗装の劣化やコンクリートのひび割れといった劣化症状が出やすい時期とされる。しかし同じ築年数でも、マンションの劣化具合はまちまちなのも事実。そのことが区分所有者の間に認識の違いを生むと、崎濱さんは指摘する。
また同じマンションでも、住んでいる階によって認識に差が出ることもある。風雨や日差しにさらされる高い階は劣化が進みやすく、低い階はさほど劣化していない可能性があるためだ。
さらに、修繕積立金の積立額と工事金額に差があり金融機関から借り入れる場合や、その返済や次回の修繕に備えた積立金の値上げが伴う場合でも認識に違いが出るという。
では、区分所有者に修繕の必要性を理解してもらうためにできることは何か。
崎濱さんは「早くから長期修繕計画を作り、工事の時期や金額をある程度確定させることが大切」と強調する。
長期修繕計画の内容は①計画期間、②修繕工事項目、③修繕周期、④修繕工事費用、⑤収支計画―の五つ。
「区分所有者に周知することで、適正な修繕積立金の根拠が示せる上に、値上げが必要な場合に説明がしやすくなる」と崎濱さん。工事実施のために積み立てていることを区分所有者に認識してもらう狙いもある。
長期修繕計画や修繕積立金の具体的な中身は、国土交通省のガイドライン(下記参照)を参考に。
管理組合で業者選ぶ
大規模修繕工事にいたるまでの基本的な流れを、崎濱さんにまとめてもらった。大きなポイントは、④の修繕設計。管理会社に委託している管理組合の場合、「管理会社に見積もりを頼み、その見積もりの項目や数量を基準にしてほかの業者からも管理組合自ら見積もりを取り、管理会社のものも含めて比較検討をすることが重要」と話す。
一方、管理組合が機能していないマンションでは、修繕積立金も管理費も集めていない可能性も考えられる。
「まずは理事役員を選任し、管理費や積立金を徴収し、年1回は必ず総会を開くこと。組合員全体でマンションの維持管理について話し合いができる体制作りから始めてほしい」と訴えた。
●大規模修繕の流れ(参考)
①管理組合の発意
長期修繕計画書、区分所有者の要望などにより、大規模修繕工事の実施を確認。理事会の諮問機関である修繕委員会の設置も検討する。世帯数が少ない場合は設置されない場合が多い。
②調査診断
詳細な建物調査や診断を設計事務所等に依頼(費用が発生)。
③基本計画および長期修繕計画
建物診断の実施後、必要な修繕時期や修繕方法を決定。併せて最新の長期修繕計画を作成することが望ましい。不具合の箇所や改造の要望など、組合員にアンケートを実施。
④修繕設計(仕様決定・資金計画)
工事の細かな仕様を決め、そのための概算工事予算を算出。そこで必要な金額が分かるため、修繕積立金の残高と照らし合わせ、必要に応じて借り入れや一時金の検討も行う。
⑤見積もりの採取、業者決定
管理組合の方針や予算が確定したら、工事業者を選ぶ。選定法には、建築専門紙による公募(費用が発生)、「住民の推薦や紹介により工事業者を選ぶ」がある。後者は、誤解やトラブルの元になる場合がある。
※工事の方式も以下の三つに分かれる。
●設計監理方式
設計および工事の監理、施工を別々の専門業者に発注し、工事を進める方式。メリットは、第三者による工事監理で工 事の品質が担保できる点。デメリットは、小規模な工事では割高になる場合もある点。
●責任施工方式
仕様の決定、工事(施工)、施工管理を1社の業者に発注して工事を進める方式。
●管理会社発注方式
管理会社にすべて任せる方式。
⑥総会決議(金額・発注先の承認)
業者と発注金額を総会で決議する。年1回開催する通常総会の時期とはタイミングが合わない場合は、臨時総会を開く。
⑦工事開始前に住民説明会、着工
資材置き場や、外部駐車場などの確保、大規模修繕工事の際は、居住者の協力が欠かせないため、着工前に「住民説明会」を行う。工事の時期は、居住者の負担が少ない春工事(1月着工)、秋工事(9月着工)などがある。
⑧定例会議・検査・承認事項
工事期間中に定例会議を開き、設計事務所、工事業者、管理組合などが進捗(しんちょく)状況について説明する。
⑨完成引き渡し・書類の整備
※マンションによって、世帯数や修繕積立金の状況などが違うため、全てが①~⑨の通りに進むとは限らない。
【マンションの修繕積立金に関するガイドライン】
修繕積立金に関する基本的な知識や金額の目安で理解を深め、分譲事業者が示す金額の判断材料とすることを目的に2011年4月、国土交通省が策定。長期修繕計画についての基本的な考え方、「長期修繕計画様式」「長期修繕計画作成ガイドライン」についても08年6月に策定している。これらの情報は、インターネット上の検索欄に「マンション管理について 国土交通省」と入力し、検索すると確認できる。
この人に聞きました
崎濱宏勝(さきはま・ひろかつ)
マンション管理士として、県内20棟の分譲マンション管理組合の顧問を務める。(一社)沖縄県マンション管理士会会長。
問い合わせ(電話=098-878-7137)
編 集/我那覇宗貴
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 「メンテでお得 すまい長持ち」<6>」第1549号・2015年9月11日紙面から掲載