お住まい拝見
2018年5月11日更新
西の絶景も西日対策も|スタジオコチアーキテクツ
[お住まい拝見・居室に奥行き 日差しかわす]恩納村の丘の上、西側に海が広がるKさん(39)宅。一日中、景色を堪能しても「西日はあまり気にならない」。その理由は東西に長く、日差しをかわせる居室と細長い窓にある。
Kさん宅の2階LDKから西側の景色を望む.家族が集うLDKの窓だけは大きく取り、和室や階段前の窓は細長くして、西日が入り過ぎないようにしている
朝から晩まで海を堪能
Kさん宅
RC造/自由設計/家族5人
「この間は、あの辺にクジラの親子が見えましたよ」。2階のリビングの西側に広がる海を指さす夫人(36)。ホエールウォッチングもできるほどの絶景が、土地を購入する決め手となった。「この眺望を堪能できる造りは必須。だけど西日は遮りたい。わがままは承知で、デザイン性が気に入った建築士さんにお願いした」。
より眺望の良い2階が生活の主となる場所だ。玄関も2階。扉を開けると正面には窓があり、縦長に切り取られた景色へ視線が誘われる。
続くLDKや浴室には西側に大きな開口部があり、ここから「朝から晩まで海を眺めています」と夫人。バスタブにつかりながら朝日に輝く水面を見て、キッチンに立ちながらサンセットを眺め、ハンモックに揺られながら闇夜に浮かぶ白波を眺める。
「西日はまったく気にならなくて、驚いているくらい」。2階の北西側に張り出したテラスがクッションとなっているほか、LDKが東西に長い造りになっていることが奏功して「人がいる場所への日差しの侵入は少ない」という。
1階には寝室や子ども室などの個室がまとまっている。こちらは眺望を楽しむというより、プライベート空間と割り切ったシンプルな造りだ。
四方の窓から風巡る
Kさん宅で驚いたのが、その涼しさ。特に2階は、通風のセオリーである南や東側の開口部は少ないにもかかわらず、風が通り抜けていく。「それは四方に窓があるからだと思います。『今日はどこからの風向きだ』など、季節ごとの風の通り道が分かるくらいです」。LDKと和室が一体となった造りと相まって、風を無駄なく家中へ巡らせている。
正攻法でなくとも、土地の長所を引き出せば心地よい家はできる。Kさん宅を訪れ改めて実感した。
リビングからキッチンを見る。床はコスト削減のために杉の足場板を使用している。その木の雰囲気に合わせて、キッチンは既製品の前面に木板を張り、予算と好みのバランスを取った“ハイブリッド仕様”だ
玄関から入ると、縦長の窓に視線が誘われる。Kさん宅には突き当たりにこうした窓があり、視線の行き止まりをなくすことで、約20坪の床面積以上の広さを感じさせる/写真左。ヒノキ張りの浴室。「海を眺めながらお風呂につかれば疲れも吹き飛ぶ」と夫人/写真右
ここがポイント
窓に大小 見え方多彩に
景色を邪魔せず、西日を遮る。スタジオコチアーキテクツの建築士・五十嵐敏恭さんはこの大命題に、「窓の形と居室の形」をリンクさせて対応した。
西側の窓は、縦長や横長にして「西日の入ってくる量と時間を減らした」。景色をダイナミックに楽しめるよう大きな掃き出し窓を設けたLDKは、「居室を東西に長い形にして、西日が人がいる所まで入ってこないようにしている」。大きさや形の違う窓は、海のさまざまな表情を切り取る。西日対策をしつつ、景色の味わいも深めた。
かわいらしい外観は「デザイン性と予算とのバランスを踏まえて」のもの。2階部分の北と南側がポコッと飛び出しているのは「1階はコンパクトにまとめて基礎工事を必要最小限にし、2階に要望の空間を確保した」からだ。飛び出した2階は、1階の庇(ひさし)にもなっている。
東側の深い軒は、「駐車場に車一台分はぬれずに止められ、そこから玄関へ至るまでもぬれずに移動できるように」との配慮。この軒は和室側のテラスの日差し・雨よけの機能も併せ持つ。車庫とテラスの日よけを一つにまとめ、デザインとコスト削減を両立した。
対面式のキッチン。夫人の要望から収納をたっぷり設けた。普段使いの食器はしまっておき、夫人お気に入りのやちむんなどをディスプレーしている
1階の主寝室。家族の集いや眺望を楽しむのは2階と割り切り、1階の居室は箱型のシンプルな造りにした
南側から見た外観。2階の飛び出た部分は和室で、1階子ども室の庇にもなっている。和室の東側にはテラスがあり、小さな花壇も設けた。ここで夫人がガーデニングを楽しんでいる
東側から見た外観。2階右側の飛び出た部分は浴室。その下の空間にはブランコをつるす
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:249.68平方メートル(約75.50坪)
1階床面積:66.52平方メートル(約20坪)
2階床面積:68.20平方メートル(約20坪)
建ぺい率 :35.86%
容 積 率:53.95%
用途地域 :都市計画区域外
躯体構造 :鉄筋コンクリート造壁式構造
設 計 :スタジオコチアーキテクツ 五十嵐敏恭
構 造 :黒岩構造設計
施 工 :(株)徳里産業
電 気 :閃光電気
水 道 :(有)名設
造 園 :ハーベストハイ
[問い合わせ先]
スタジオコチアーキテクツ
090-5824-4027
http://studiocochiandnuk.com
撮影/比嘉秀明 編集/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1688号・2018年5月11日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。