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2016年5月27日更新

庭共有で程よい距離|建築空間アボット

沖縄県本島中部、北中城村の国道沿い。築35年の実家を、鉄筋コンクリート造平屋建ての2世帯住宅に建て替えたHさん(35)は、「お互いの距離感がちょうどいい」と満足げだ。

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国道沿い 平屋の2世帯住宅

Hさん宅  RC造/自由設計/家族6人


Hさん世帯のぬれ縁から庭を眺める。庭では長男が自転車に乗ったり、バーベキューも楽しむ。正面の壁の向こうが国道。弧を描くアプローチが空間を柔らかに


子育ても家族みんなで

Hさん宅の住居は、南側の庭に面してL字に、二つの世帯が配置されている。広い庭に、弧を描くように設けられたアプローチに導かれ両世帯共用の玄関へ。正面に設けられた坪庭が印象的な玄関ホールを境に、東側の親世帯、西側のHさん世帯に分かれる。

「僕らの住まいは天井が高く、白を基調にシンプルで広く見せる造り。親世帯は、行事の際に人が集まりやすく、縁側からも近所の人が気軽に出入りするような昔ながらの造り。それぞれ全くコンセプトが違うんです」

Hさんが「一番リラックスできる」と話すLDKは、木がアクセントになったシンプルな空間。東側の高窓から自然光がたっぷり届く。

南側に続く和室は、掃き出し窓を開け放つとぬれ縁とひと続きになり開放的。「ぬれ縁や庭でバーベキューできる造りが希望でした。きょうだいや親戚で集まって楽しんでいます」。

夫人お気に入りの対面式キッチンは、LDKから和室まで見渡せるだけでなく、玄関ホールに面した引き戸を開ければ、親世帯まで目が届く。「親世帯のLDKまで一直線。長男(5)はよく走り回って往復しています」と夫人は笑う。
 

両世帯一緒に夕食

実家近くでアパート暮らしをしていたHさん一家。コンクリート造だった実家の劣化が進み、建築士の助言で建て替えを決めた。相談したのは、完成見学会や知人宅を見て回る中で、夫妻好みの空間造りを手掛けていた建築士。自身らの新居の設計も依頼した。

「以前より建物の位置が国道から離れていて、壁もあるからか、静かに感じる」と、Hさんは快適さを実感する。

長女(1)を抱いてあやす祖母(86)は、「ひ孫を見て、また元気になるさー」と笑顔。夕食は、親世帯に集って食卓を囲むのがほどんどで、互いに作っているメニューを確認し合い、料理を持ち寄るのだとか。「お母さんもおばあちゃんも、私を気遣って一緒に子育てしてくれるので助かってます」と夫人。家族の絆がより深まった。


Hさん世帯のLDKは、白を基調に木で温かみをプラスしたシンプルな空間。天井は高く、東側の高窓から差し込む自然光が左手奥のキッチンまで照らす。右手の引き戸を出ると親世帯と共有の玄関ホール


両世帯共用の玄関ホールは、正面の坪庭から視線が抜けて開放的。奥に設けた屋上への階段は、隣家からの視線を程よく遮りながら圧迫感を与えないよう、丸柱で足元を浮かせた造りに​


LDK西側にある子ども室。引き戸で3部屋に仕切れるようになっている。写真左手、隣家に面した西面の窓はすりガラスを採用。下部ははめ込みのフィックス窓で、上部の滑り出し窓から風を取り込む親世帯Hさん世帯


庭からHさん宅の和室とぬれ縁を見る。和室では、珪藻土ボードを曲線にくり抜いた床の間がおしゃれで目を引く。2面の掃き出し窓を開け放てば、ぬれ縁とひと続きになる


東側からの外観。手前の親世帯のぬれ縁は、ウチナー家のアマハジを意識して、軒を低く深く取った。手前のコンクリート土間は駐車スペースなど多目的に使える


祝い事や行事などで人が集まる親世帯は、集いを重視した造り。仏壇のある和室は東側(写真右側)と、庭に面した南側の大開口から風と光がたっぷり届く


洗面脱衣室は、夫人の希望で天井高いっぱいまで収納を設けた。写真左手が浴室で、坪庭から緑と光を取り込む。洗面台脇の開口部の奥には、強化ガラスを用いた天窓から光が注ぐ物干し場がある。壁にはスリットが設けられ、風通しも良好だ


ここがポイント
建物の配置で快適さ

東側は交通量の多い国道、南側は道幅の狭い道路に面するHさん宅。国道の水はけが悪く、大雨の際は冠水することもあったという。敷地の広さを生かし、平屋建てを提案した建築士の當山茂さん。「快適に過ごしてもらうために、プライバシーと騒音、冠水に配慮しながら、両世帯の程よい距離感とゆとりを生む設計を大切にしました」と話す。

まずは建物の配置。国道からの視線や音を和らげ、車も乗り入れしやすいよう東側に広い駐車スペースを設け、建物は敷地の西側に寄せて建てた。国道側の塀は約2メートルと高めにして、視線と音を緩和する。

南側は道路中心から2メートル後退させて塀を設け、生まれた空間を駐車スペースとした。駐車台数の確保を望んだHさんに応え、駐車スペースと合わせることで、狭い道路でも車の乗り入れがしやすくなった。

冠水に備え、道路から南側の塀までゆるかやな上り勾配にしたことで、住宅と道路との高低差は約70センチに。建物の床高は、地面からさらに50センチ上げた。

住宅は、玄関を両世帯で共用し、ホールを境にそれぞれが独立する造りに。親世帯は東西に、Hさん世帯は南北に長い間取りにし、庭を囲むようにL字に配置。各世帯とも庭に面して大開口を設け、ぬれ縁を通じて緩やかにつながる。

「それぞれの世帯が直接的に見え過ぎることなく、気配は伝わる造り。東と南に開いているので、風も自然光もたっぷり取り込めます」


[DATA]
家族構成 :夫婦、子ども2人、母親、祖母
敷地面積 :756.68平方メートル(約229.29坪)
1階床面積:257.30平方メートル(約77.97坪)
建ぺい率 :40.60%(許容58%)
容 積 率:34%(許容178%)
用途地域 :準住居地域、第一種住居地域
躯体構造 :鉄筋コンクリート造壁式構造
設 計 :建築空間アボット 當山茂
構造設計 :(有)建築設計 庵 長間大輔
施 工 :(有)沖忠建設 崎山喜忠
電 気 :(有)中原電設 仲村直也
水 道 :前田設備 前田勲

[設計・問い合わせ先]
建築空間アボット
098・937・7334
http://www.geocities.jp/abbot_touyama
写真/高野生優・フォトアートたかの撮影
編集/比嘉千賀子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1586号・2016年5月27日紙面から掲載

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比嘉千賀子

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編集者
住まいと暮らしの情報紙「タイムス住宅新聞」元担当記者。猫好き、ロック好きな1児の母。「住まいから笑顔とHAPPYを広げたい!」主婦&母親としての視点を大切にしながら、沖縄での快適な住まいづくり、楽しい暮らしをサポートする情報を取材・発信しています。

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