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2017年9月1日更新
小規模でも「ライトデザイン」|フランク・ロイド・ライトの家具[05]
前回に引き続き、フランク・ロイド・ライトの建物を巡る「ライトツアー2017」のお話です。遠藤さんはウィスコンシン州の「タリアセン」から、シカゴ郊外へ。日本のメディアであまり取り上げられたことのない、分譲住宅「アメリカンシステム」を訪れました。
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ライトの建築を巡るツアーから分譲住宅「アメリカンシステム」
「プレカット」いち早く
ライトツアーはタリアセンを出発し、ライトが最初に事務所を構えたシカゴ郊外のオークパークへと向かいます。
その途中に、まだ日本のメディアではあまり取り上げられたことのない、珍しい建物に立ち寄りました。
私も初めて目にする、ライトが設計した分譲住宅です。
1915年にライトは日本の帝国ホテルの仕事と並行して、地元ウィスコンシン州のミルウォーキーで、分譲住宅の設計販売を試みました。
「アメリカンシステム」と名付けられたその住宅は、それまで手がけていた大きな住宅とは違う、日本の公団住宅ほどのコンパクトなプランで、収入の少ない層の人たちにも手の届く価格設定がされていました。
のちのユーソニアンハウスの発想にもつながる、この低価格の住宅を全米に向けて売り出そうと、ライトは地元の建設業者と手を結んで、新聞広告などの大々的な宣伝を仕掛けました。
現代では当たり前となった、工場で図面の寸法にカットされた部材を現場に運んで組み立てる、いわゆる「プレカット」工法を百年前にいち早く取り入れていることにも驚かされます。
ライトはこのプロジェクトのために、今まで手掛けたどの作品よりも多くの図面を描いたそうです。
道路に向けてせり出したテラスの左手に玄関扉があって、玄関を入った右手に暖炉を設けた広い居間があります。その奥にはキッチンと作り付けのダイニングテーブルとベンチがあり、玄関の左手がバスルームを挟んで二部屋の6畳くらいの寝室で、これが間取りのすべてです。
こぢんまりとした作りですが、暖炉や造作家具などライトデザインの基本は押さえられていて、そこで実際に生活したくなるような魅力的な空間でした。
テラス部分には後年に屋根と壁が付けたされていたが、元の状態に復元された
財団が尽力 建築守る
隣には、同じアメリカンシステムのアパートも建てられており、こちらは現在内装を復元する作業が行われていました。
貴重なライトの建築を買い取って、当初の状態を再現しようとライト財団が尽力している姿にいたく感銘しながら、次の目的地ジョンソンワックス社を目指します。
居間とキッチンとの間の仕切り壁に作られた書棚の前に、小さなテーブルと椅子が置かれている
大きな窓があり、テラスと一体となった明るい居間
キッチン横のダイニングテーブルとベンチ。こちらも窓が大きく取られていて、外部の緑を取り込んでいる
[執筆]遠藤現(建築家)
えんどう・げん/1966年、東京生まれ。インテリアセンタースクールを卒業後、木村俊介建築設計事務所で実務経験を積み独立。2002年に遠藤現建築創作所を開設し現在に至る。
『週刊タイムス住宅新聞』フランク・ロイド・ライトの家具<05>
第1652号 2017年9月1日掲載
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