特集・企画
2019年4月26日更新
自然を生かすことが最高のインテリア|HOTELに習う空間づくり[1]
当連載では県内のホテルを例に、上質で心地良い空間をつくるヒントを紹介する。
空間コンセプト「自然との調和/自然への回帰」
案内してもらったのは、410室の客室を誇るザ・ブセナテラスの中で、18室だけある「クラブコテージ」。一戸建てタイプの部屋だ=写真1。
室内に入った途端、視線は大開口の向こうにある水平線に引き寄せられる。茶色のサッシに切り取られたそこは、まるで風景画のよう=2。時を忘れて眺めていられる。「この自然こそが最高のインテリア。それを邪魔しないよう、室内のしつらえは極力シンプルにし、使う色も絞っています」。ザ・テラスホテルズ(株)のマーケティング販売本部シニアマネージャー・新垣操さんは説明する。
落ち着いたオフホワイトと籐(とう)家具のウッディカラーで統一された空間に、ゆったり回るシーリングファンも相まって異国のヴィラを思わせる。「沖縄の植物や自然の色との調和を大切にし、インテリアは沖縄色を強調していません」。外ではブーゲンビレアやハイビスカスが咲き誇るが、室内は白いランが一輪。そのさりげなさが洗練された印象を与える。
さらに、大きな開口部や高い天井、ワンルームのような造りが開放感を生んでいる。リビングルームとベッドルームを仕切るのは籐製のテレビボード。上左右は抜けており、先の〝大きな風景画〟を室内のどこからでも堪能できる。
海と反対側にある浴室は、坪庭に面したガラス張りだ=4。視線を上げれば空が見える。星を見ながら、朝日を浴びながらの入浴タイムは、非日常を味わえる。「外(坪庭)にもシャワーブースがあり、太陽の光と共に冷たい水を浴びると、シャキッと目が覚めますよ」
この〝大きな風景画〟最大の魅力は、五感で堪能できることだ。設計を手掛けた(株)国建の常務取締役・福田俊次さんは、「室内に居ても、風を感じ、水音に癒やされ、草花の香りにハッとする。そんな空間づくりを心掛けました」と語る。オープンな造りもその一つ。コテージは、大開口部を開ければテラスとひと続きになる。閉めてもルーバー状の木戸が、外と内をゆるやかにつなぐ。「カーテンだと光や風がシャットアウトされてしまいますが、ルーバーなら隙間から光や風が入ります」
「自然を感じる造り」を最も表しているのが、ホテルの顔とも言えるロビーだ=5・6。深い軒が陰をつくるテラスと一体化し、その向こうに東シナ海が広がる。取材時はちょうどチェックイン時間で、次々にロビーへ宿泊客が訪れた。待ち時間には、皆吸い込まれるようにテラスへ。イスに腰を下ろす人、立ったまま海を眺める人、さまざまだ。「正直、真夏は暑い日もある。それでも、ここでしか感じられない風を味わってほしい」。真西に開くテラスは、サンセットも一望できる。「強烈な西日に目を開けていられないこともあります。そんな沖縄ならではの景色を楽しんでもらうのが一番のおもてなしだと思うんです」と福田さん。
ザ・ブセナテラスは、開放的な造りやシンプルな内装で滞在者の感覚を刺激。五感で自然の変化を味わえる空間がそこにあった。
▲1.クラブコテージの中でも、平屋でプールが付いた「ラグジュリアススイート」。オフホワイトとウッディカラーで統一されている。ベッドの頭側にあるのが籐製のテレビボード。リビングルームとの境となっている
▲2.コテージの大開口部からの眺め。夕方には、夕日を望む絶景地だ
▲3.居室をオープンにするには、周囲からの視線をカットする工夫が欠かせない。コテージは各棟の間を植栽で仕切り、「地形に合わせて曲線的に配置。自然に手を入れ過ぎないようにしながら、各棟の視線がずれるように配慮しています」と設計を手掛けた福田さんは説明する
▲4.坪庭に面した(左から)トイレ、浴そう、シャワーブース。坪庭にもシャワーブースがある。坪庭の上部は抜けており、日差しが降り注ぐ。キラキラ輝く植物や星空を見ながらのバスタイムはまさに非日常
▲5
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5・6.ザ・テラスホテルズ(株)は、県内で五つのホテルを運営。その中でも、ザ・ブセナテラスは重要とされるフラッグシップホテルだ。同社の新垣さんは「社名の『テラス』には、『昔ながらの古民家にあるアマハジの下で、皆が集い語り合う。そんな沖縄の原風景を大切にしたい』という意味があります」と言う。その“原風景”を表しているのがここなのだそう
▲7.ホテルで使用しているリネン類や家具、インテリア雑貨はホテル敷地内にあるショップ「テラススタイルフォーリビング」で購入できる
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1738号・2019年4月26日紙面から掲載
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。