父と娘で伝えるやきものの魅力(読谷村)|オキナワンダーランド[31]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2018年10月12日更新

父と娘で伝えるやきものの魅力(読谷村)|オキナワンダーランド[31]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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tou cafe and gallery(読谷村)


見て、触れて、使って、良さを感じてほしいー。陶芸家の松田米司さんは、沖縄の土と技法から生まれるやきものの魅力を伝えたいと、家族で営むギャラリーカフェ、tou cafe and galleryを開いた

文化という財産を腕に貯(た)める生き方をしよう。松田米司さんは18歳でそう決めた。

ちょうど沖縄が大きな転換期を迎えている頃だった。27年続いたアメリカ世が終わり、ヤマト世が始まろうとしていた。日本からアメリカに、そしてまた日本にと、歴史の波に翻弄(ほんろう)される島の姿を見て、「沖縄はどうなっているの?」と疑問が湧いた。

「自分のアイデンティティーが揺れ動いた。『沖縄って何?』、『沖縄の人らしく生きるにはどうすればいい?』と悩みました」

地元の“知恵袋”として知られる教員のもとに通い、沖縄の話を聞いた。歴史のこと、独自性豊かな文化のこと。目の前の霧がすーっと晴れていった。

「自分の根っこみたいなものを見つけた思いでした。沖縄の人間らしく生きるには、文化を通して生きればいいと分かった」

当時、兄が趣味で陶芸をしていた。のちに人間国宝になる金城次郎さんの作品など、地元の優れた陶器を見る機会にも恵まれた。沖縄のやきものはすごい、と思うようになった。陶芸家の大嶺實清氏に弟子入りをした。

「その頃から漠然と、自分が作る器で料理を食べていただけて、同時に作品も見てもらえるような場所をいつか持ちたいと考えていました。作品を買ってもらって箱に入れておしまい、ではなくて、実際に使っていただいて『ああ、いいな』と感じてもらうまでが僕らの仕事ですから」

修行を終えてふるさとの読谷村に弟や仲間と共同窯を開いた松田さんは、沖縄の土と技法を用いて「現代に合う沖縄のやきもの」を追求した。人柄がにじみ出る優しい作風でファンを増やし、弟子も多く育てた。その間約40年、ギャラリーカフェを持つ夢を抱き続けた。そして数年前、ついに実現に向けて踏み出した。次女の七恵さんが語る。

「やきものをただ眺めたり触ったりするのではなく、飲んだり食べたりして実際に使っていただいて、やきものの魅力を肌で感じてもらえる場所を父はつくりたいと考えていました。初めは父一人の思いでしたが、家族も共有するようになりました」

父から店の運営を任せたいと頼まれて、七恵さんは最初、私では力不足とためらった。「だけど父やお弟子さんたちが、土の一粒も無駄にしないというくらいの真摯(しんし)な気持ちでやきものを作るのを見て決心がつきました」

三女の萌さんも店の運営に参加してくれることになった。建物は福岡の建築家、二宮隆史さん、清佳さん夫妻が設計。まるで土の中に眠っていた巨石がむくむくと地上に現れ出たかのような力強い建物ができあがった。

「やきものも建築も土に根ざすもの。土から生えたようにどっしりとして、何世代もここにあり続けられる建築を目指した。沖縄の陶芸文化を末永く広めていく場所になれば」(隆史さん)

そして昨春、父が作るやきものを娘が伝えるtou cafe and gallery(トウ カフェ アンド ギャラリー)がオープンした。

「まだ始まったばかりですが、家族の力で物事を完結できるのは僕にとって大きな喜びです」

一昨年、松田さんは急な病に倒れた。回復してろくろに向かう今、胸には衰えぬ情熱が宿る。

「『あ、上手になっている』とまだ思う。終わりはありません」

もうすぐ半世紀に届く陶芸人生。家族の絆が生んだtou cafeから、その新たな一章が始まる。


松田さんと、店を運営する次女の七恵さん(左)と三女の萌さん。「やきものとゆっくり向き合っていただきたいから、必要な時以外はいい意味で“消える”接客を心がけています」と七恵さん



カフェには松田さんが手作りしたテーブルや萌さん制作のアクセサリーも置かれている。奥の通路の先にギャラリーがある。設計した二宮隆史さんは、「こっちは何だろうと入っていきたくなるワクワクする空間にした」と話す


松田さんの作品を展示したギャラリー。「沖縄のやきものは柔らかい。かちっとせずにふわっとしていて、沖縄の人の心に似ています」と米司さん。「人をはねのけない父」と七恵さんが言う松田さんの作品も同じ魅力を放つ


26年前に松田さんが3人の陶芸家と築いた「北窯」。「枕元に置いて寝るほど大切にしていた金城次郎さんの抹茶茶碗を売って建材を買った。手放したくなかったけれど、これでやきものを作る場所ができると思えば惜しくなかった」

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<31>
第1710号 2018年10月12日掲載

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