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2018年7月13日更新

東海岸ツーリズム 飛躍への新名所(宜野座村)|オキナワンダーランド[28]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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道の駅ぎのざ(宜野座村)


大々的な拡張整備を経てこの春リニューアルオープンした「道の駅ぎのざ」は、観光の面で長く西海岸の後塵(こうじん)を拝してきた東海岸に行楽客や観光客を引き寄せる新名所になりそうだ

出会った頃の若い二人に戻ってデートを楽しむように、70代前後の老夫婦が、海風そよぐ上階のテラスに腰掛けて、いつまでも目の前の太平洋を眺めている。1階の水遊び広場では、子どもたちがきゃっきゃっと歓声をあげながら裸足(はだし)で駆け回っている。はたで見守るお母さんたちも、童心に返ったような笑顔だ。

ゴールデンウイーク中5万人の人出でにぎわった「道の駅ぎのざ」で目にした情景は、ある兆しを感じさせた。長く伸び悩んでいた東海岸の観光がようやく花開いていこうとする兆しを。

いつの頃からだろう。沖縄本島の観光はずっと“西高東低”が続いている。美ら海水族館や古宇利島といった人気の観光スポットは西海岸にばかり集中し、リゾートホテルの数も訪れる観光客も西が東を圧倒する。

この春リニューアルオープンした「道の駅ぎのざ」は、そうした構図に風穴をあける東の新名所になる可能性を秘めている。當眞淳宜野座村長も、自身が牽引(けんいん)した拡張事業により大きく変身した道の駅に期待を抱く。

「右肩上がりの沖縄の観光において、東海岸はまだまだ遅れをとっています。もっとしっかり地域の情報を発信する拠点として、我が村にある東海岸唯一の道の駅の機能を強化しました。国内外を問わず多くの方々に足を運んでいただき、宜野座村をはじめ東海岸、やんばる地域の魅力を感じていただきたい」

観光振興に対する村の“本気度”は、道の駅入り口に新たに建設された「観光拠点施設」や、その背後に広がる大型遊具付き広場の画期的なデザインや思い切った規模が物語る。なかでも駅全体の顔とも言える「拠点施設」は、通りかかるドライバーの視線を釘づけにする斬新な建物だ。設計は、グッドデザイン賞に5度輝いた県内の建築家、門口安則さんが手がけた。

「僕も太平洋側の出身ですが、東海岸は西に比べて華やかさが薄い場所だとかねて思ってきた。しかし日本にも世界にも、建築が人の流れを劇的に変えた例はある。この駅が起爆剤となって東海岸がにぎやかになれば、設計者として冥利(みょうり)に尽きます」

門口さんの設計で最も目を引くのが、ビーチパラソルから着想したという屋根だ。「水と緑と太陽の里」という宜野座のキャッチフレーズにちなんで水のしずくになぞらえた美しい形状もさることながら、驚くのはその素材。ドーム球場の屋根などに使われる“膜”を使用している。昼間は日光をほどよく通して明るく、夜もライトアップをすれば提灯(ちょうちん)のように光るのが特徴だ。

「僕は建物を設計する際、毎回新たな挑戦をします。膜屋根をこうした施設に使うのは全国でも珍しいアイデア。僕の提案に共感してくれた村に感謝したい」

門口さんの挑戦を受け止めた村もまた、宜野座をやんばる観光の“起点”として定着させる試みに挑もうとしている。村観光商工課の島袋光樹さんが言う。

「私たちは宜野座をやんばるの玄関口だと考えています。観光客の皆さんに朝一番に宜野座へ来ていただいて、ここからやんばるの各地域に北上してもらうような仕組みづくりにチャレンジしようと検討しています」

「いいと思ったら挑戦する」のが宜野座村民だと島袋さんは言う。挑戦が成し遂げられた暁には、西に偏り続ける沖縄の観光地図についに変化が訪れるだろう。



宜野座村のキャッチフレーズ「水と緑と太陽の里」にちなみ、水滴をあらわす楕円(だえん)形の屋根と庇(ひさし)をかけた「観光拠点施設」。素材が膜であるため、自然光が適度に通り抜けて屋内まで届く


駅のすぐ横を流れる漢那福地川と風景的につながる1階の水遊び広場。水深が10センチと浅く、小さな子どもでも安心して遊べる。“子どもに優しい道の駅”を目指したという施設内にはキッズルームや大型遊具も完備されている


道の駅ぎのざの始まりは、20年前に村特産品加工直売センター「未来ぎのざ」=写真=が整備されたことにさかのぼる。未来ぎのざは2014年、国土交通省より道の駅に認定され、2年前に沖縄初の「重点道の駅」に選ばれた


道の駅の全景(写真提供・アトリエ門口)。比嘉雅貴駅長は、「リニューアル前は観光客が訪れることはほとんどなかった。今では県外の方だけでなく海外のお客さんも来てくれる。あまりの変わりように驚いています」と話す

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<28>
第1697号 2018年7月13日掲載

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