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2018年6月8日更新

色彩とつくる喜び ほとばしる家(豊見城市)|オキナワンダーランド[27]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

上原 一さん 邸(豊見城市)


建築家の上原一さんが自力で建てた自邸には、沖縄の自然や文化を表現したという万華鏡のような色彩と、廃材で手づくりした家具や建具に宿るあたたかな“手の痕跡”が満ちている


うっそうと生い茂る植栽の緑に埋もれるように建つ、赤や青の原色をちりばめた家。「色彩の魔術師」と呼ばれたフランスの画家、マティスの自由で大胆な色使いを思い起こさせるこの家は建築家、上原一さんの自邸だ。

「沖縄の自然と文化を色で表現した。動植物にしろ紅型などの工芸にしろ街の中にある色にしろ、沖縄の色彩は本当に豊か」

一体どれだけの色が使われているのか、上原さん自身ももはや分からないほどの多種多様な色彩が踊る家を、上原さんは大工の力を借りずに自力で建てた。

「こんなに楽しいこと、人に任せたらもったいない!」

庭の木々のあふれる生命力が乗り移ったかのようなエネルギッシュな目で上原さんが言った。

大事なのは、身をもって体験することー。昔、上原さんはある人からそう教わった。アメリカに一年間暮らした30代初めのことだ。上原さんはアリゾナ州の砂漠で、自然環境との共生を目指す〝理想都市”、「アーコサンティ」の建設に参加していた。

「(アーコサンティの創始者)パオロ・ソレリはよく話していた。『頭で考える前に手を動かせ。言葉じゃなくて行動を起こせ。身体を使って汗を流せ』とね」

“身体で体験”する楽しさを学んだ上原さんは、アメリカから帰国すると自宅の自力建設に取りかかった。思い描いたのは、アメリカで見て感動した「シンプルな造りながら、光と風が心地よく入る」インディアンの住まい。理想は彼らと同じ土とわらの家だったが、より身近で現実的な素材である木材で建てた。

「隙間が多かったから台風が心配だったけど、壊れることはなかった。隙間がちょうどいい具合に風を逃がしてくれた(笑)」

実はその家は、家づくりの初めの一歩、いわば“仮の家”だった。数年後、上原さんは建てた家そのものを大胆にも“型枠”として使い、そこにコンクリートを流し込んで強固な家につくりかえた。

「若い頃に訪れた中近東の砂漠では、人々は段階的に家を建てていた。日干しれんがで壁を積んだところでとりあえず住み始めて、お金をためてから窓を付ける、というふうに。この家もそうやって建てた。一気につくるより徐々に建てた方が、つくる楽しみをゆっくり味わえるじゃない?」

型枠の役目を終えた木材は捨てずに再利用した。上原邸の床や家具や建具は、〝仮の家〟の壁や天井だった板で出来ている。

「廃材は宝だよ。再利用するのは当然!」

建築設計をなりわいにするとはいえ、施工については素人の上原さん。自力で一切合切を建てた家は、「ディテール(細部)が甘く」て住みにくいと感じるところもある。たとえば、「昔旅したアフリカの砂漠に匹敵するほど暑い」夏の西日には手を焼いている。だけど、そうした不便を味わう体験もまたおもしろいと上原さんは言う。

「『人間って自然に負けるんだ』と肌で感じるのもいいものだよ。それに、知恵を絞って“不便”を“便利”に変える楽しさもある」

「一種の実験の場」というこの家は建て始めて30余年。だが今も、“最終形”ではない。

「まだ途中。これから大々的につくりかえるかもしれないよ」

一度は断念した土の家に住む夢もまだ温めていると語る上原さん。つくる意欲はとどまることなく、ほとばしり続ける。



居間に置かれた抽象画のような絵は、建物の設計を依頼されて上原さんが描いたイメージ画。壁や扉に塗られたペンキのカラフルな色彩もあいまって、部屋全体が一個のアートのようだ


両親が住んでいた平屋の屋上を利用して建てた自邸に、上原さんは「夏水(かすい)の家」と名前を付けた。こぼれ種から育った庭の木々に包まれた家は、夏にのどを潤す清涼な水のような、染みわたる味わいをたたえる


廃材やもらってきた資材で手づくりしたテーブルやキッチンユニットの曲線的なやさしいデザインと使い込まれた風合いが心地よい食堂。自分の手で暮らしを“創造する”ことを楽しむ上原さんの生き方が伝わってくる


庭に面したテラスは、「来客に応対したりDIYをしたり絵を描いたりと、なにかと便利な場所」。「昔フランスの友人宅で見たしゃれたベランダを思い浮かべてつくったけど、うちなーんちゅの僕がつくるとやっぱり沖縄風(笑)」


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<27>
第1692号 2018年6月8日掲載

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