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2018年4月13日更新

人の心に傘をさす 小さなコーヒー店(那覇市)|オキナワンダーランド[25]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

Cafe Parasol
棚原 進さん(那覇市)


公設市場近くの「Cafe Parasol」は、店主の棚原進さんの人柄を愛する人たちが、世代も出身地も超えてコーヒー片手に会話を楽しむ店だ。右から澤則子さん、古謝肇さん、棚原さん、藤高めぐみさん


牧志公設市場近くの「パラソル通り」と呼ばれる細い路地に、このかいわいのアイドル的な男性が営む小さなカフェがある。

「棚原さんのファンは多いです。懐が広い人だし、会話も上手だから特に女性に人気です。僕も週に1、2回通っています。人生を語らい合いにね。うそですよ。バカ話ばかりしています」

客が数人座ればいっぱいになる小さなカウンター越しに、常連客の古謝肇さんが店主の棚原進さんと和やかな笑みを交わす。

「ジャンさん」の愛称で親しまれている棚原さんが、「Cafe  Parasol(カフェパラソル)」を開いたのは3年前だ。二十歳で本土に渡り、ホテルや流通業で働いてきた棚原さんは、3人の子どもを育てあげたのを機に、数年前、ふるさとの沖縄に戻った。

「長く沖縄を離れていたので、戻った時は半ば浦島太郎状態でした。ここに店を出すことにしたのは、大好きな昭和の雰囲気がまだたっぷり残っている所だから。昔、親に連れられて自宅のあるコザから那覇に買い物に来ていた頃の風景が、このあたりには今も残っています」

白くてきれいに整列した歯をのぞかせて、棚原さんがにこやかに話す。張りのある朗らかな声で言葉の一つひとつを丁寧に発音する語り口が耳に心地よい。

ともに60代という棚原さんと古謝さんが醸すいぶし銀の渋い雰囲気が、突然ポップな空気に変わった。快活な笑顔が印象的な澤則子さんが来店したのだ。

「今日、私の誕生日なんです」
開口一番に澤さんがそう言うと、すかさず「おめでとう。何をあげようかな」と棚原さん。
「その笑顔だけで十分です」
「うまいこと言っちゃって。コーヒーを一杯ごちそうするね」
「すみません。催促したみたいで申し訳ないです」
「いくつになっても女性の誕生日はめでたいからね」

棚原さんがさりげなく言った言葉が、頬をなでる風のように心のひだに触れた。東京のホテルでベルボーイとして働いていた20代、棚原さんは「お客さまの片言から気持ちを察する」ことを教えられ、人との細やかな接し方を学んだ。だからなのだろう。棚原さんの言葉には、人の心に傘をさすような、相手を気遣うひと言が時折含まれている。

「あっ。久しぶりだね」
棚原さんの声の先に立っていたのは、東京から訪れた藤高めぐみさんだ。三線の稽古で那覇に来ると店に立ち寄るという。

「ジャンさんのお人柄に惹(ひ)かれて来ています。会話もお上手で、こちらが一方的に話すのでもなく、かといって話されるばかりでもない“ほどよい”会話をしてくださるので、気分がヘコんだ時に来たこともあります」

常連客が口をそろえて言う棚原さんの人柄の魅力と会話力。ご本人は特に意識していない。

「魅力があるなんて思いません。自分のスタイルでやっているだけですから。いつもオープンハートで、ウエルカム(歓迎する気持ち)でいるだけですから。ただ、一つ言えるとしたら、僕は人が好きで、人と話すのが好きです。人間が一番難しいけれど、人間が一番おもしろい」

「ジャンさん、いつもありがとうございます。また来ます」と言って藤高さんが立ち上がった。「こっちこそ、いつもありがとう」。思いがこもったひと言が、また心のひだを揺らした。



「ジャンさん」の愛称で親しまれている棚原さん。若い頃、さる有名スタイリストから「あなた、かっこいいね」とファッションモデルにスカウトされた逸話も持つ、すてきな笑顔の持ち主だ


店名のParasolは、店の前の「パラソル通り」から。「このへんは昭和人間が多くて楽しい所です。昭和という時代が好きなのは、今ほど物質的に豊かでなかった分、人が知恵を出して工夫しながら生きていたから」と棚原さん


広さ2坪足らずの店の棚に、植物のつるを編んだ照明や流木を加工したCD立てなど、棚原さんが手作りした物が置かれている。「おじいちゃんが竹職人でした。幼い頃、作るのをそばで見ていて編み方を覚えました」


気が合うお客さんとは連絡先を交換し合い、時々本土や外国まで会いに行く。「たまに思い立って福岡や大阪に一泊二日で行ったりします。あちこち案内してくれたりして親交が深まります。台湾にもそういう友人がいますよ」


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<25>
第1684号 2018年4月13日掲載

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