21世紀に似合う うちなーやー(本部町)|オキナワンダーランド[24]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

特集・企画

2018年3月9日更新

21世紀に似合う うちなーやー(本部町)|オキナワンダーランド[24]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

SHINMINKA(しんみんか)
漢那 潤さん(本部町)


ベネズエラ生まれの建築家、漢那潤さんは、沖縄の気候に適し、台風に耐え、しかも地産の材料を賢く取り入れた木造古民家に対する深い敬意から、現代版の古民家、SHINMINKAをつくり上げた


探していた答えは、意外なところに見つかった。

「昔ながらの沖縄の木造古民家が、完璧な答えに到達していることに気づきました」

10年ほど前、東京で活躍していた建築家の漢那潤さんは、西表島で宿の建設に関わった。沖縄にルーツを持つもののベネズエラで生まれ育ち、10歳からは横浜で暮らした漢那さんにとって初めての沖縄での仕事だった。

「木造で建てようとしたのですが、東京から来た人間が、地元の人でも尻込みする木造をいきなり手がけようとしたので煙たがられました。逆におもしろがってくれる人もいましたが」

木造は台風に弱い、という根深いイメージが沖縄にあることを知った。それでも漢那さんは木造にこだわった。西表の美しい自然の中にコンクリートの塊を建てたくはなかった。とはいえ、台風に太刀打ちできる木造の建物をどうつくればよいのか。頭をひねる漢那さんに、島で見た古民家がヒントをくれた。

たとえば、屋根。四方に緩やかに傾斜する寄棟屋根は、どの方角から風が吹いて来ても、「まるで亀の甲羅のように」家を守る形だと知った。屋敷の周囲にめぐらされた石垣も、美観に役立つばかりでなく、家の脇腹に風が直撃するのを和らげてもくれる。しかも、地元で取れる石を積むだけだからローコストだ。

「見た目の古さに隠されて分かりにくいのですが、古民家は、実はとても合理的につくられています。昔の建物をこれほど尊敬したことはありません」

大学を出て東京に事務所を構え、「新しいものばかり」に興味を持ち、最先端の建築を追いかけてきた漢那さんは、伝統から学ぶことに目覚めた。沖縄の歴史や建築文化について書かれた本や論文を見つけては片端から読みあさった。すると、次第に見えてきた。太古の昔から、沖縄の人々が島の風土に適した住まいを「じっくりと一本道を進むように」地道に進化させてきたことが。木造の古民家も、その営みから生まれたことが。戦後、アメリカや日本の建築様式が急激に流れ込んだために、道が何本にも枝分かれしたことが。

戦争を境に途切れた一本道の続きを、自分の手で描いてみたい気持ちが漢那さんの胸に湧き起こった。古民家を現代の暮らしに合う“新民家”に「更新する」という目標が芽生えた。「沖縄の建築史のど真ん中に踏み込むのはかなり勇気がいった」が、ほとばしる意欲が不安にまさった。

新民家の設計には2年を費やした。ときおり、「昔の人と考えをすり合わせるような」感覚を味わうこともあり、楽しかった。「10年に一度あるかないかの会心の一撃」の名案も浮かんだ。木造古民家の難点の一つは、室内の柱が多くて間取りを自由につくりにくいことだが、内部の柱をほとんど取り去っても家を支えられる方法を見つけ出した。

そして2年前、「昔の集落の名残が残る」土地を本部町に探し当て、別荘兼宿の「SHINMINKA(しんみんか)」を建てた。

「うれしいことがありました」

3カ月前に家族3人で沖縄に移り住んだ漢那さんが言った。

完成した家を見て、集落の人たちが、『新しいうちなーやーだ』と言ってくれたんです」

ベネズエラ人の父と沖縄の血が流れる母ゆずりの凛々しい顔に達成感がみなぎった。



四隅が壁でふさがれた古民家と違い、SHINMINKAは全面ガラス張り。家が実際より広く感じられる上、どこからでも風を取り込めるので夏でも快適だ。「外との一体感も気持ちいい」と漢那さん


軒下の柱につっかい棒のような斜めの部材を付け足したことがSHINMINKAの最大の特徴。家を支える役目をこの部分が担うので、室内の柱は4本と少なくて済む。屋根部の構造を強化すれば、内部の柱をゼロにすることも可能だ


木をできるだけ多く使い、コンクリートの使用は必要最小限にとどめた。「数十年で育つ木と違って、コンクリートの材料となる石は生成までに途方もない時間がかかる。自然環境保全を考えてコンクリートは減らしました」


隣の古民家とSHINMINKA。漢那さんは、SHINMINKAを沖縄に広めるために、いずれ設計図をソフトウエアにして、「手が届く」価格で提供したいと話す。ゆくゆくは沖縄産の木で建てたいという夢もあり、植林を始めることも考えている



オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<24>
第1679号 2018年3月9日掲載

特集・企画

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2122

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る