来たくなる 居たくなる銀行(浦添市)|オキナワンダーランド[26]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2018年5月11日更新

来たくなる 居たくなる銀行(浦添市)|オキナワンダーランド[26]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

琉球銀行牧港支店(浦添市)


開放的なガラス張り。涼しげな陰をつくる大きな屋根。ホテルさながらの広々としたロビー。この春移転建て替えされた琉球銀行牧港支店は、人が憩う“オアシス”をイメージして建てられた


夏の暑い日のことだった。建築士の宮城江利奈さんは那覇市の公園にいて、通りかかる人たちの姿をぼんやりと眺めていた。するとおもしろいことに、どの人も、まるで手招きでもされているみたいに、公園内のある場所に吸い寄せられて歩いていた。

「皆さん、木陰がある所を探して、陰を伝(つた)って歩いていました」

灼熱(しゃくねつ)の太陽とともに生きる沖縄の人々には、日陰を探す習慣が染みついていることを宮城さんは改めて感じた。「陰がないと沖縄の人は外を歩かないよな」と心の中でつぶやいた。ある考えが、真夏の日差しとともに降ってきた。「そうだ! 大きな木陰のある銀行をつくろう」

浦添市の設計事務所「渡久山設計」に勤める宮城さんは、ちょうどその頃、約30年ぶりに移転建て替えされる琉球銀行牧港支店の設計を思案中だった。銀行から求められたのは「これまでにない新しい銀行をつくる」こと。近頃はインターネットで入出金や振り込みができるサービスなどが普及し、銀行に行かない人も増えている。そんな〝銀行に行かなくても済む時代〟における「新しい銀行」とは?事務所全体で答えを模索して、一つのアイデアにたどり着いた。

「設計業務に直接関わらない事務や経理の担当者らからも『こんな銀行がいい』と意見をもらい、人が憩うオアシスのような銀行、『オアシスバンク』というテーマがまとまりました」

これまで銀行と言えば、「見た目が閉鎖的で入りにくい」、「行員の視線が気になって居づらい」といった負のイメージを持たれることも少なくなかった。一児の母である宮城さん自身、子どもを連れて銀行に行くことに「窮屈さ」を感じた経験もある。

「新しい銀行」を目指す新支店は、そうしたイメージを一変させるような、入りやすくて居心地もよく、なおかつ利用客に「感動を与える」建物にしたいと宮城さんは考えた。そこで外壁の多くを、外から中の様子がうかがえるガラス張りにして心理的に入りやすくしたり、ロビーをまるでホテルのようなくつろぎ感あふれる大空間にしたりした。

さらに建物の外に、イベントも開けそうなほど広いデッキ広場を設けた。そこに長辺がおよそ40メートルある大きな屋根をかけて、銀行の利用客はもちろん道行く人も思わず通りたくなるような巨大な〝木陰〟をつくった。

「建物全体が大木のように感じられるように、屋根には木漏れ日のような光を落とす穴をあけました。癒やしを感じてもらえる場所になればうれしい」

「木漏れ日ルーフ」と命名された大屋根が目を引く新支店は、開店してひと月半。だが早くも、人々のオアシスになりつつある。

「お客さまが喜びながら入ってきます。『2、3時間居てもいい?』と聞いてくる方もいます」

弾ける笑顔で、支店職員の上間陽平さんが話してくれた。上間さん自身、仕事をするのが以前にも増して楽しいという。

「毎朝の出勤さえも楽しいです。旧店舗の時は最短ルートでいかに早く入るかばかり考えていたのですが(笑)、今は建物の周囲をめぐったりして、遠回りしながら入ります」

新店舗に移ってから新規の口座開設も増えている印象だという。銀行に行くことが減りつつある時代に生まれたオアシスバンクは、“それでも行きたくなる〟銀行の先駆けになりそうだ。



琉球銀行の支店で最も広いロビー。同行総務部の渡久山貴之さんによれば、「お客さまに待ち時間をできるだけ快適に過ごしていただく」ために、職員が使うスペースよりもロビーを広くしている


「木漏れ日ルーフ」と名付けられた大屋根の素材は、沖縄で開発された超薄型コンクリートのHPC。「沖縄の銀行として建物の面でも県産品を応援したい。沖縄生まれの技術が世界に羽ばたく一つの契機になれば」と渡久山さん


屋根にあいた大小の穴から柔らかな丸い光が落ちる入り口前のデッキ広場。銀行に用がなくても通行したり休憩したりすることができる。渡久山さんは「人が集える憩いの場となり、街ににぎわいを添えられたら」と話す


みずみずしい植栽が目も心も潤す。店舗を減らして合理化を図る銀行もある中で新たな支店を建てたのは、「インターネットの時代であっても、人と人が会ってこそ生まれる信頼関係がある」(渡久山さん)と信じるからだという


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<26>
第1688号 2018年5月11日掲載

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