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2016年12月16日更新

対象者が広がり「切迫時」に使えず|みんなで考えよう!豊かなまち⑨

前回、障がい者の「優先」について、駐車場や座席の課題を考えた。車いす利用者にとってさらに深刻なのが、公共の多機能トイレの「優先」だ。なは市民活動支援センター学生スタッフで、車いす利用者の田畑秋香さん(沖国大3年)と考える。

社会的バリアー③ 多機能トイレ

インタビューで田畑さんが話すように、車いす利用者にとって公共トイレ利用の難しさは深刻だ。障がい者用トイレが増えるとともに、子ども連れなども利用できる多機能トイレとして設置されるようになり、車いす利用者が使いにくくなったという指摘は多い。そのため、国土交通省は2012年に車いす利用者への調査を行っている。
調査では、94%が多機能トイレで待たされた経験があり、74%が使用を諦めていた。待たされた相手は「子ども連れ」83%、「障がい者に見えない人」71%だった。
車いすの父親とスポーツ観戦に来た智子さん(仮称)は、男子用多機能トイレの列に並ぶ父親に同行して、目と耳を疑った。トイレから最初に出てきたのは、元気そうな小学生。外には母親がいた。
その後、自分の前の女性が子どものおむつ交換に。「男性用だけど」と思いつつ、ようやく順番が来た。そこへ、今度は女の子と母親が割り込んできた。後にも3人の車いす利用者が並ぶ。男性用でしかも車いすが並んでいることを伝えると「女性用はいっぱいだから」。そこに後方から「お母さん怒られちゃったから、○○ちゃんは男の人の1人用でしてきなよ」という男性の怒鳴り声が飛んできた。智子さんは、怒りを通り越してあきれてしまった。
空港などでは、大きなカートを引いた旅行者が使うケースも見かける。男女が入りこむことが増えたため施錠され、使用時に近くに鍵を取りに行って利用するケースもある。
ネットでの書きこみを見ると、車いす利用者の怒りの声に「『みんなのトイレ』『だれでもトイレ』と書かれている」という声が交錯する。「優先」と同様、「多目的」の定義を周知する必要がある。一般のトイレを少しの改装で子ども連れなどに使えるよう、再整備することも求められる。


車いす利用者が多機能トイレで待つことを諦めた割合(2012年国土交通省)​


どこも満杯、車いすで探し回る辛さ
―使えるトイレは増えたが、問題も増えた?
 田畑  先日、ライカムで買い物をした時のこと。トイレに行きたくなり多機能トイレを探したが、すべていっぱい。やっと空いている所を見つけた時、乳児を抱いたお母さんが来た。目があったが、さっと入られてしまった。必死で車いすをこいで探しまわったのに、赤ちゃんにはおむつがあるのに…、と思った。

―障がい者以外にも必要な人は多い?
 田畑  高齢者や子ども連れも対象になっているので。おむつ交換は時間がかかり、切迫している時に待つのは本当に苦しい。こうしたことがあるから水分摂取は控えているが、それでも限界がある。おむつ交換が必要なお母さんの大変さも分かるけど、私たちの「必死な状況」はそれ以上だと思う。

―車いすでトイレを探しまわるのは、大変な労力。
 田畑  車いすの移動だけでも大変なのに、トイレに行きたい状況で車いすをこいでエレベーターに乗り降りして探しまわることがどれだけ大変か。ライカムのような大型ショッピングセンターは、バリアフリーで移動はしやすいが、端から端までがものすごく遠く、本当に苦労する。

―トイレ表示は?
 田畑  目線の低い車いす利用者からすると、表示は上空のかなり高いところにある。ずっと上の方を見ながら移動しなければならず、人とぶつかりそうになってしまい、申し訳ない。こうしたトイレの問題で、外出を控える人は多い。

―遠出はしにくい。
 田畑  でも、やっぱりいろいろな所に行ってみたい。乗用車を運転できる車いす利用の友人がいるので、よくドライブに連れていってもらう。あらかじめ、入れるトイレのあるコンビニをチェックしている。本島北部で利用できるトイレは多くなく、自分で作ったリストを使う。

―車いす利用者向けのトイレマップを自分で作っている!
 田畑  ネットでは、障がい者向けのトイレ情報は見当たらない。これまで入ったコンビニのトイレ状況をリスト化し、スマホに入れている。これまで入れない所が多かったが、トイレ内の手すりは増えた。狭いところは車いすで扉が閉まらないので、店の人やお客さんに手伝ってもらうことも。大型のショッピング施設はやはり便利で、営業時間外でも貸してくれたことがあった。トイレの場所を把握しておくことは、私にとってとても重要だ。

 


こうした公共トイレを少しの改装で誰でも使えるように。スリッパ置き場を決めて車イスが通れるように。便座の向き、扉を広げる工夫も。(沖国大・又吉麻菜美撮影)

文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1615号・2016年12月16日紙面から掲載

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