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2016年11月18日更新

知られざる「障がい者マーク」定義|みんなで考えよう!豊かなまち⑧

前回、車いす利用者がエレベーターに乗れないバリアーを考えた。社会全体の意識の低さや、満員時に譲ることへの不慣れがあった。では、優先ルールを厳格にするとどうだろうか。車いす利用学生の沖国大3年、田畑秋香さんと考える。

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社会的バリアー② 優先座席・駐車場


障がい者駐車場で乗車する田畑さん。車いすで乗降できるだけの幅がある。


那覇市は2013年から、障がい者手帳を持つ歩行困難者と難病受給者証を持つ人に、市内の公共施設やショッピングセンターなどの身体障がい者駐車場で車内に掲示する認定証を交付している。対象者以外が駐車する問題に応えるもので、中には市販の障がい者マークを使って堂々と駐車するケースも多いという。
課題はある。免許証を持つ身体障がい者は限られ、多くは同伴者の車で移動する。常に持参できればよいが、周知不足もありそこまで広がっていない。「申請は障がい福祉課窓口で」となっていることも、移動困難者にはハードルだ。
妊婦やけが人などは交付対象になっていない。許可制になることで、ニーズがあるにもかかわらず制度に該当しない人は切り捨てられる可能性も考える必要がある。
一方、ルールがあいまいなため、障がい者が不利益になる現実もある。
大学の教室で、障がい者マークの座席でのこと。先に座った健常者の学生が、後から来た田畑さんに譲らず、騒動になった(インタビュー参照)。
2人ともマークの意味をよく理解していなかった。実は、ほとんどの人が正しい定義を知らない。内閣府のホームページには「障がい者の利用への配慮に理解と協力を願う」「すべての障がい者が対象で、特に車いす利用者に限定されない」と書かれている。
このとき、健常者の学生は「それなら車いす限定席にすべき」と主張した。ひと目で分かるマークやアイコンだが、かえって正しい意味が分からないこともある。あいまいさを回避するには、彼が言うように限定席の方法もある。だが、駐車場同様に硬直的な運用になり、手を差し伸べ合う社会は遠のく。
まずは、多くの人が知らないことが問題ではないか。学校教育で学びの場を設けるべきだ。無知のしわ寄せは、常に立場の弱い人に向いてしまう。


幼少から車いすに接する教育を
―教室で優先座席を使っている。
 田畑  普通の席では車いすが入らないので、足元を広くした席が必要。昨年、その「優先」座席をめぐってトラブルに遭った。友人たちはモラルの問題だと言ってくれたが、考えてみると何げなく使う「優先」の意味自体があいまいで、異なる解釈がされる可能性に気が付いた。もし「先着順」の理解だったら、話はかみ合わない。

―障がい者マークもあいまい。
 田畑  私自身が障がい者マークの意味を理解していなかった。車いす専用マークだと思っていた。ところが、福祉の講義ですべての障がい者を対象とする国際的なマークであることを知った。支援学校でも習った記憶はなく、仲間の車いす利用学生も驚いていた。移動困難者の優先を明示するマークを作り、普及させてほしい。今のままでは、駐車場やトイレも使いにくい。

―トラブルにもなる。
 田畑  ライカムなど大型商業施設はマークの位置が高過ぎて、ずっと上を見ながら車いすに乗らなければならない。人にぶつかりそうになる。
自動車のマークも、若葉以外は意味を知らない。沖縄は車社会なのに、教わる機会がない。学校で教わらないなら、どこで学べばよいのか。障がい者と接する機会を増やすと同時に、マークの意味や基本的なルールを知る教育が必要。

―まず障がい者との接点を持つこと?
 田畑  子どもから「おばあでもないのに、なぜ車いすに乗っているの?」と言われることがある。車いすは高齢者やけが人が乗るものと思っているらしい。普段から障がい者と接する機会がないことが、「優先」の問題も含むさまざまな不利益になっていると思う。
逆に小さい時から障がい者と接している子どもは、私たちへの接し方がとても優しい。やはり、学校で障がい者と一緒に学ぶ環境は大切だと思う。

―人権や環境問題と共に、学校で関わるべき。
 田畑  大学での騒動で残念だったのは、大学や学生が障がい者のことを考える機会にならなかったこと。福祉の先生たちに任されてしまっている感じ。以前、ある地域で障がい者の避難に関する防災ワークショップに参加した時、「私たちには障がい者のことは分からないので、福祉の専門家に任せたい」という声が相次いだことと似ていた。こうした姿勢が、「優先」をさらにあいまいにさせるのではないか。

 


大学教室の車いす優先座席

文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1611号・2016年11月18日紙面から掲載

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