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2025年3月7日更新

あえて「限定」「保留」する、物の価値を確認するなど|「片付けが苦手」心理学から克服!|家と心理㊱

空間デザイン心理士Ⓡで一級建築士。2児の母でもある、まえうみ・さきこさんが、空間を心理的に解析。今回は「片付けが苦手」の原因を心理学的に探ります。「片付かないのは物が捨てられないから。この『捨てられない』にはさまざまな心理的効果が働いており、それを克服することが大切です」と話します。

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あえて「限定」「保留」する、物の価値を確認するなど
「片付けが苦手」心理学から克服!

空間デザイン心理士Ⓡで一級建築士。2児の母でもある、まえうみ・さきこさんが、空間を心理的に解析。今回は「片付けが苦手」の原因を心理学的に探ります。「片付かないのは物が捨てられないから。この『捨てられない』にはさまざまな心理的効果が働いており、それを克服することが大切です」と話します。


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納が少なくて、物が部屋にあふれる」「片づけても家族がすぐ散らかす」など悩みの種はそれぞれですが、片付けができない原因は、大きく分けて二タイプあると考えます。

一つ目は「正しい片付けの方法を知らない」タイプ。やり方が分からないために、部屋が散らかってしまうのです。ちなみに正しい片付けの方法は、「使う場所の近くに使う物を収納する」「物の住所を決める」などです。

二つ目は「心理学的に片づけられない」タイプ。「物をなかなか手放せない」「つい衝動買いして、物をため込んでしまう」という人です。実は「正しい片付けの方法を知らない」という人よりも、このタイプが多いです。

私も、なかなか物が手放せないタイプです。まだ子どもが小さかったころ、仕事・家事・育児に追われ、家の中は荒れ放題でした。当時は「片付ける時間がないから」だと思っていました。しかし、子育てが少し落ち着いて部屋の片付けをしたのになぜか雑然としていて、スッキリした感じがしませんでした。綿密な収納計画を立てたのにも関わらずです。

そのとき、やっと気付きました。わが家はやたらと物が多かったのです。物を減らさない限りは、正しい片付けを実行しても根本的な解決にはならないのです。
 
「捨てられない」心理

なぜ物が捨てられないのでしょうか。そこには心理的効果が働いています。

①選択回避の法則
人は選択肢が多くなり過ぎると選べなくなってしまいます。

②損失回避の法則
人は自分が損することを非常に恐れ、得をすることよりも損を避ける方を選ぶ傾向にあります。

③保有効果の法則
自分が一度所有した物に、より高い価値を感じてしまう。

これらの心理が働くと、人は思考をやめ、現状維持状態になります。散らかった部屋は散らかったまま。迷いだらけの生活もずっと続きます。

現状を打破するためには、こうした心理効果が働いていると理解した上で、対策することが大切です。手軽に取り掛かれそうな対策をいくつか紹介します。

選択回避の法則を克服するには、片付ける範囲・時間・カテゴリーを限定し、少しずつ計画的にやるようにしましょう。「保留ボックス」を作って、選択回避の源になる「後悔するかも」という不安を減らす手もあります。保留した物は、見直す時期を決めて、再度整理します。

損失回避の法則を軽減・克服するためには、失ってもダメージが少ない物から処分して、小さな損を受け入れましょう。また、日々「捨てる」という行動を繰り返すと手放す不安に慣れていきます。

保有効果の法則を乗り越えるには、その物から受ける恩恵と保有するコストを比較しましょう。実は、物を所有するためにはさまざまなコストが掛かっています=下記参照。そのコストと、物から受ける恩恵を比較してコストの方が多いなら、保有効果の法則で損失が見えなくなっています。

また、客観的な価値を調べるのも一つの手です。市場価値を調べると、「そのうち高く売れるかも」の錯覚に気づくかもしれません。

いかがでしたか? 人間の行動には必ず心の動きがあります。片付けの手法・ノウハウだけでなく、心理学からのアプローチも、取り組んでみてくださいね。
 

「物が捨てられない!」に潜む心理 

①選択回避の法則

人は選択肢が多くなり過ぎると選べなくなってしまう

克服する方法
◆片付ける範囲・時間・カテゴリーを限定し、少しずつ計画的にやる
「選択疲れ」を軽減するためには一気に部屋全体を片付けるのではなく、片付ける範囲や時間、カテゴリーを限定しましょう。例えば「デスクの引き出しだけ」「クローゼットの左側だけ」「毎日30分だけ」「靴だけ」「文房具だけ」などと細かく区切って少しずつ片付けます。

◆意図的に選択を回避する
選択回避は、「後悔するかも」といった恐れや不安から生まれます。これらを減らすために「保留ボックス」をつくり、捨てる・残す以外の第三の選択肢を準備します。迷うものはいったん保留ボックスに入れて期限が来たら再度、見直します。これにより、即決の負担を軽減できます。

また、写真を撮るという方法もあります。捨てる前に写真に残せば「物を失う感覚」が軽減できます。


②損失回避の法則

人は自分が損することを非常に恐れ、得をすることよりも、損を避ける方を選ぶ傾向にある

克服する方法
◆小さな損を受け入れる
最初は、失ってもダメージの少ない物から処分していきましょう。例えば何本もあるボールペンや、やたらと増えたコップ、古びくなったタオルなど。

◆手放す不安に慣れていく
手放す不安に慣れるためには、日々「捨てる」という行動を繰り返すことが大切です。例えば本を手放すのに抵抗がある場合は、小さなステップとして、まずは本のカバーだけ捨ててみてください。少しずつ、手放す不安になれていきましょう。


③保有効果の法則

人は自分が所有する物に高い価値を感じ、それを手放すことに強い抵抗を抱く

克服する方法
◆感情と価値を切り離してみる
自分にとって価値がある物なら、手放す必要はないでしょう。しかし、実際のところ物の価値は、感情に大きく影響を受けています。例えば、思い出の物にこだわるのは、昔の懐かしい気持ちを思い出させてくれるから。ですが、普段は思い出なんて忘れて生活しています。落ち込んだときや、ピンチのときに自分をなぐさめるために持っていたいなら、数個あれば十分です。

◆思い出の物から受ける恩恵と保有するコストを比較する 
物を所有するためには、さまざまなコストが掛かっています。保管するスペースにも家賃や建築費がかかっていますし、収納グッズなどにもお金がかかっています。それらと、物から受ける恩恵を比較してコストの方が多いなら、実際は損失が生じているのに、保有効果の法則のせいで損失が見えなくなっています。

物を保有するのに掛かっているコスト
・保管コスト/収納スペースとそれに使っている建築費・家賃。
・メンテナンスコスト/物の世話にかけている費用。収納グッズなども含む
・感情的なコスト/物が多いせいで生じる気持ちの負担やストレス

◆客観的な価値を調べる
処分できない理由が「そのうち高く売れそう」なのであれば、市場価値を調べると、錯覚に気づくかもしれません。例えば、フリマやオークションでの出品状況をチェックしたり、業者にお願いして買い取り価格を調べたりするといいでしょう。思ったより高い値段ならば家に置いておかずに、売ってしまうという選択肢もあります。


まえうみさきこ
[文・イラスト]

まえうみ・さきこ/1976年、嘉手納町出身。建築会社に20年勤務したのち、2021年6月に「ielie(イエリエ)」を設立。建築の知識やママの経験を生かして、住まいの悩みに応じたコンサルティングやインテリアコーディネートを行う。一級建築士、空間デザイン心理士®、夫、2人の子ども、猫2匹で暮らす。
http://ielie.net


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2044号・2025年3月7日紙面から掲載

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