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2023年6月2日更新
円満のカギ パーソナルスペースの確保|家と心理⑮
空間デザイン心理士®で、一級建築士。2児の母でもある、まえうみ・さきこさんが空間を心理学的に解析。今回はワークスペースなど「個の空間」の確保について。前回に引き続き、賃貸アパートに住むNさんの事例をもとに紹介します。
円満のカギ パーソナルスペースの確保
【Nさん家族構成】4人(40代夫婦、小学6年生の長女、小学1年生の長男)
【間取り】賃貸アパート3LDK
【悩み】
・コロナ禍で、夫の在宅ワークが始まった。しかし、書斎として確保できる個室がなく、リビングの一角で仕事をしていた。
・夫が仕事をしていると、子どもも私も気が休まらない。
・テレビを見ていても、夫が電話をするたびに音量を小さくしなければならない。
・夫も仕事に集中できず、イライラしがち。
・リビングのテーブルは低く、ソファや床に座って仕事をしていると「腰が痛くなってくる」そうだ。
在宅ワークの問題点
コロナ禍で生活様式が大きく変化しました。その一つが在宅ワークです。いろいろメリットはありますが、家族間でのトラブルを引き起こす問題にもなりました。
リビングで仕事をしているときに家族に話しかけられイライラしてしまったり、平日もずっと顔を合わせていると家族でも息がつまってしまうなど。
これは、家族の「パーソナルスペース」が守られていないことが原因だと考えます。パーソナルスペースとは、心身の安心・安全のために、人との間に距離を取ってつくる「個人的な空間」のことを言います。
親密な相手ほどパーソナルスペースは狭くなりますが、夫婦や家族といった親しい間柄であっても、適度に距離を保てる空間をつくることはとても大切です。
前回に引き続き、Nさんの事例を紹介します。
空間デザイン心理士® まえうみ的改善策
・寝室にあった奥さまのドレッサーをリビングへ移動して、新たに購入した夫の仕事用のデスク(幅1㍍×奥行き50㌢)を置いた。
密集がストレスのもと
在宅ワーク以前、リビングは奥さまがくつろぐ居場所でした。そこがワークスペースになったことで奥さまの居場所がなくなってしまいました。
テレビを見ることも難しくなり、Nさんが仕事の電話をし始めたら子どもを静かにさせ、終わるまで息をひそめなければならない状態。Nさんも、家族が密集している空間で、仕事がはかどらずイライラしていました。
人は狭い空間に密集すると、ストレスを感じやすいもの。特に男性はその傾向が強くなると言われています。そのため、男性が在宅ワークをする際には、一人で集中できる空間が必要です。
そこで、個室を確保するため、寝室にワークスペースを設ける提案をしました。寝室には机を置く場所がなかったので、奥さまのドレッサーをリビングへ移動しました。そして机を購入し、ワークスペースを新設。劇的に過ごしやすさが変わったそうです。
奥さまは「デスクとドレッサーを配置換えしただけで、こんなに変わるとは! ドアを閉めて空間を分けられることで、夫も子どもも、何より私が過ごしやすくなりました。ドア1枚で、こんなに気持ちがラクになって救われるんだと、思いました」とおっしゃっていました。
「集い」と「個」の両立
これまでの住まいは、家族が集うことに重きが置かれてきました。もちろん、それも大切ですが、家族が円満に過ごすためには「集い」だけでなく1人の時間を過ごせる場所を確保することも大事だと考えます。
スペースの確保が難しい場合は、リビングなどの一角をパーティションで区切るのも良いでしょう。視界を遮るだけで、集中力は高められます。
ご夫婦の寝室が一緒でも、それぞれのパーソナルスペースを尊重できるレイアウトがおススメです。例えば、部屋の中央にベットを置き、左右のベットサイドにそれぞれのスペースを設けるなど。
ぜひ、小さいスペースでも家族それぞれの個の空間をつくる工夫をしてみてくださいね。
Nさん宅のお悩み
夫がリビングで在宅ワーク集中できない&家族の居場所がない
以前のリビング。家族団らんの場所だったリビングだが夫が在宅ワークをするようになり、家族は使えなくなった
以前の寝室。寝室は日中、ほとんど利用していなかった。奥さまのドレッサーなどを置いていた
寝室内にワークスペースを確保
パーソナルスペースを確保する工夫
・「隔てられる場所」を探す
寝室の一角だったり、クローゼットを活用したり、家族団らんの場所から「隔てられる場所」にスペースが作れないか、探してみましょう。
・家具で空間を分ける
個室の確保が難しいときは、収納家具やベッドなどで空間を仕切れば、物理的な距離ができてパーソナルスペースを確保できます。
・パーティションで区切る
リビングなどの一角をパーティションで区切るという方法もあります。視界を遮るだけでも集中力は高められます。
[文・イラスト]
まえうみ・さきこ/1976年、嘉手納町出身。建築会社に20年勤務したのち、2021年6月に「ielie(イエリエ)」を設立。建築の知識やママの経験を生かして、住まいの悩みに応じたコンサルティングやインテリアコーディネートを行う。一級建築士、空間デザイン心理士®、夫、2人の子ども、猫2匹で暮らす。http://ielie.net
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1952号・2023年6月2日紙面から掲載