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2022年8月5日更新
[書評]緩衝領域を持つシマの住まい |「閉じつつ開く−暮らしの中に風土を読み建築に翻訳する」伊志嶺敏子著
言葉の力を大切にされる建築士、宮古島の伊志嶺敏子さんが36年前から重ねたエッセーと講演が一冊の本になった。
書評
「閉じつつ開く−暮らしの中に風土を読み建築に翻訳する」
伊志嶺敏子著
南山舎|1650円(税込)
いしみね・としこ 1948年宮古島生まれ。1978年、伊志嶺敏子一級建築士事務所を設立
言葉の力を大切にされる建築士、宮古島の伊志嶺敏子さんが36年前から重ねたエッセーと講演が一冊の本になった。
閉じると開く、全く反対のことを同時に、という不思議なタイトルは筆者のたくさんの定番のお話の一つである。建築をつくる、住まいをつくることは、風、光、熱などを外の世界から受け入れるか、閉じた壁を築くか、その選択の積み重ね。台風の暴風雨に対しては閉じないといけない、でも風を受け入れない住まいは蒸し暑い沖縄の気候風土には合わない。
開き戸であるドアは閉じるか開くか、二つに一つ。半分開いても不自然でない引き違いの戸が沖縄、日本では伝統的に使われてきた。コンクリートの花ブロックは南からの日射をしっかり遮る。視線もそこそこ遮る。でも風を通す。侵入者は通れない。そして、台風の時は風をやわらげ飛来物を止める安心感がある。何に開いて何に閉じるのかを考えることは奥深い。
その視野は建物のつくりにとどまらず、屋敷林、集落、サンゴ礁まで及び、シマの建築論となる。省エネ基準の義務化が近づき、保温ボックスのような住まい像に向かいかねない今に出版が間に合ったことをよろこびたい。
閉じると開くは、私たちの生き方を語る言葉かもしれない。自分の安心できる場所がほしい、そのために閉じる。人と交わって生きたい、そのために開く。閉じるか開くかのどちらかではない、プライバシーにグラデーションがあるのがシマの建築、シマの暮らしというのが筆者の主張である。閉じつつ開く、は、現代の孤立論、居場所論につながる。ほどよく閉じつつ開いた場所を現代社会は失ったのではないか。
本書にしばしば出てくる宮古での日常の風景、家族が引き継いだもの、シマの人間関係、豊富な海外の見聞のエピソード、バスとして乗りこなす那覇までの飛行機、ご自分の拠点を大事にしながら開いた世界と交わり続けることが、閉じつつ開くことではないかと勝手な深読みをしている。
(清水肇・琉球大学教授)
★同書を抽選で1人にプレゼント。
応募方法は、ファクス(098・860・6677)、メール(h.jutaku@jpress.co.jp)、または【宛先】〒900−0015那覇市久茂地2−2−2 タイムスビル11階 タイムス住宅新聞社、「『閉じつつ開く』プレゼント希望」の旨と、住所、氏名、電話番号、紙面の感想を明記し、応募してください。毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1909号・2022年8月5日紙面から掲載