特集・企画
2021年12月10日更新
住まいと暮らしとSDGs ④
本コーナーは、住まいと暮らしの中で取り組めるSDGs(持続可能な開発目標)について、読者と共に考えていきます。
「節電のための消灯」から「室内が明るく照明要らず」へ
エコを促す住宅デザイン
デザインとエコ
これまで2回にわたって消費活動による環境負荷を表す指標、エコロジカル・フットプリント(エコフット)について執筆した伊波克典さん(研究者)。締めくくりの今回は「日常のエコフットを減らし、ゆとりあるライフスタイルにするためには、意識が高くなくても自然とエコな行動をとるような住宅デザインが必要」と話す。
無理なくエコな行動をとるデザイン
前回、前々回は、私たちが環境に与える負荷を測る指標としてエコフットを紹介しました。エコフットは、いわば「SDGsに向かう羅針盤」の役目を持ちます。食品の在庫管理といったエコフットを減らす工夫で、地球1個分の持続可能な暮らしに近付けられます。しかし、究極的にはエコの意識が高くなくても、無理なく取り組める、そのような状態が楽ですよね。背中をそっとひと押しするような工夫、人々をよりよい選択へ導くためのデザインのことを、行動経済学では「ナッジ」といいます。その例としてよく紹介されるのが、スウェーデンで行われた「地下鉄駅の階段をピアノにする実験」。階段の利用率を上げるために、階段を音の出るピアノの鍵盤に変えてみたのです。実際に音が出て上り下りが楽しくなった結果、利用率は66%向上したといいます。
これまではどちらかといえば、環境保全への意識を高めることで、環境にやさしい行動へと導くという「啓発的アプローチ」が主でした。これは結構しんどい。これからは自然にエコでゆとりのある暮らしにつながる「デザイン的アプローチ」が大切だと思います=上図。うまくいかない時、自分の意識の低さを嘆くのではなく、デザインをアップデートする。そう考えると、気持ちが楽になりませんか。
伊波さん宅の「ナッジ」の効いたデザイン
書斎
ステンドグラスで飾ることで、急な会議でも気にせずスムーズ。
入れる物に応じて奥行きが調整されたパントリー
小さな駄菓子屋のように「一目で全ての物を見渡せること」がポイントに。楽しく家事を行えるだけでなく、調味料や缶詰、レトルト食品などの在庫が確認しやすいため、食品ロスを最小限に抑えることにつながっている。
ライフスタイルがエコになる造り
住宅デザインはライフスタイルに大きな影響を与えます。例えば、光・影・風をデザインした住宅。最近、花ブロックが再注目され、地形と季節ごとの光と風の流れを意識したデザインに活用されています。強い沖縄の日差しを穏やかにし、木漏れ日の中の生活が再現されることで、照明や冷暖房の節電(CO2排出減)につながることでしょう。リモートワークも、通勤移動が減ることで、CO2排出減につながります。リモートワークしやすい間取りや書斎では、「時間・音・目に入るものを気にせず仕事ができる空間」がポイント。個人的な話になりますが、私は8年前に帰国してから、ずっとリモートワーク。当初アパート暮らしの時は、生活と仕事の切り替えに苦労しました。早朝や深夜に海外の関係者との会議が多くあるので、常に家族の生活を気にしながらの仕事でした。
家を建てる際、その点を建築士とよく話し合いました。書斎をリビングから一番遠い場所に配置。また、リモート会議の際に相手から見える背景に配慮してステンドグラスがあしらわれたことで、急な会議にもストレスなく対応できます。おかげでリモートワークを無理なく続けることができています。その結果、通勤によるCO2排出がゼロになっただけでなく、その空いた時間をトルコキキョウ栽培に充てることができています。書斎のほか、一目で在庫確認できるパントリーも、食品ロスを抑えるナッジの効いたデザインだと感じています=上写真。
もちろん、家造りは暮らし方や資金面などでさまざまなプランが考えられると思います。また、世代によっても住宅の在り方は移り変わっていきます。ですのでこれからは、その時々に、DIYで自分の必要な「ナッジ」にアップデートしやすい家造りが求められてくるのではないでしょうか。
デザインが社会を変える
ここでは触れることができませんでしたが、デザイン的アプローチはまちづくりにも応用されていくべきです。「ナッジ」の効いたデザインには、社会を変える力があります。背中をそっと押されてよりよい未来へ向った先に、「地球1個分の暮らし」が待っています。
執筆者
伊波克典/いは・かつのり。
1973年、読谷村出身。グローバル・フットプリント・ネットワーク研究員。トルコキキョウ農家でもあり、沖縄の自然資源循環を研究している
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1875号・2021年12月10日紙面から掲載