緑楽しむ「ガラスの箱」|アトリエガィィ|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

お住まい拝見

お住まい拝見

2016年7月15日更新

緑楽しむ「ガラスの箱」|アトリエガィィ

北東、南東は壁一面がガラス窓。Aさん(46)は、アメリカの建築家チャールズ・イームズ邸を手本に「自然を楽しむ家」を沖縄県本島中部、読谷村の実家敷地内に建てた。重量鉄骨を構造体に用いた壁のない広々とした空間は「ガラスの箱」のようだ。

鉄骨造生かし広々空間

Aさん宅/鉄骨造/自由設計/家族2人    


Aさん宅を北東側から見る。北東と南東側はほぼ一面がガラス張り。緑が茂り、ヤギが駆け回る庭を眺めながら暮らす。1階右側、漆喰壁の内側はAさんの秘密基地「アルコーブ」


金属と木融合 不思議空間

室内に入ると、むき出しの鉄骨が目を引く。鉄骨の枠に開閉できる窓とできない窓がパズルのように組み込まれており、ガラス越しに緑豊かな庭が広がる。

「伸び伸び暮らせる箱」を求め、重量鉄骨造で仕切りのないオープンな空間を実現。部屋の区割りは決めていない。1階にはキッチンとリビング、ダイニング、書斎をかねた約14坪のホールとAさんの秘密基地「アルコーブ」がある。2階は寝室とクロゼットのみ。

アメリカの建築家、チャールズ・イームズの自邸を手本に「シンプルで、自然を楽しめる家」を要望した。
室内にいても視界の端にバナナの木が揺れ、四方から入る風がサラサラと本のページをめくっていく。気温30度を超えた取材の日も、通り抜ける風のおかげで汗が引いていく。

住んで2年半たつが、網戸もカーテンも付けていない。「外が見えなくなるのがもったいないですから」と笑う。
虫は「入ってきても悪さをしなければいい」。台風が来るときは外周りのものが飛ばないよう対策。「窓が割れたら実家に避難します。夏を2度越したけど、まだ大丈夫」。

人によっては不便に見える暮らしも、夫妻には許容範囲。夫人(42)は、「季節や天候の変化を五感で味わえるのが面白い」と、楽しげに語る。


調度品にもこだわり

工場のような内装だが、温かみと懐かしさを感じる木の調度品のおかげか、不思議と落ち着く。
食器棚やテーブルは使い込まれたものを譲ってもらったり、安く購入してリメーク。ドアノブや照明スイッチまで好みのテイストを厳選した。

家造りのきっかけは、一目ぼれして購入したレトロな猫足バスタブ。新居に使うべく動き始めた。
Aさんがかねてから憧れていたイームズ邸を手本に建築会社と設計を開始。「建材も形もシンプル。簡単に進むと思っていた」が、前例がない造りに途中で頓挫。消費税が上がる前に造りたいと、友人に紹介された建築士に泣き付いた。「よく話を聞いてくれ、思いをくみ取ってくれた」。

予算の都合上、自分たちで壁を塗ったり塗装をした部分も愛着につながっている。
「楽しい」「好き」を凝縮した住まい。おおらかに自然を味わい、季節をかみしめながら歳月を重ねる。


書斎、リビング、ダイニングなどさまざまな用途に使っている1階のホール。作業台などがある手前側の天井高は約3・4メートル、キッチン付近は約5・5メートルもあって開放的。むき出しの鉄骨も相まって工場のような空間


南東側にある玄関。2階のルーフデッキが庇の役割を果たし、日差しや雨を遮る。左側に見えるのが実家


Aさんの趣味室「アルコーブ」。奥まった洞窟のような空間で、イームズ邸にならって造った


キッチンもシンプル。外壁はガルバリウム鋼板を張って西日除けに。室内から見ると石膏ボードがむき出しだが「工場感があっていい」とAさん。シンクやコンロの回りは防水・防火性のある漆喰を塗って仕上げた


2階寝室。造り付けの本棚が1階からの視線を遮る。天井は木毛セメントが貼られている。カーテンがないため「朝6時ぐらいになると、明るくて目が覚める。自然の目覚まし時計」とAさん


Aさん夫妻のこだわり

家造りのきっかけとなった夫婦お気に入りの猫足バスタブ。バスルームとトイレは「掃除をいっぺんに済ませたいから」とあえて一緒にした​


勝手口の取っ手は、喫茶店などで使われていた重量感あるものを選んだ


「パチン」という音が懐かしいレトロな照明スイッチ

 

ここがポイント
北西は閉じて断熱

設計したアトリエガィィの建築士、佐久川一さんは「ガラスの箱」を実現するにあたり、「アメリカのイームズ邸をそのまま持ってくるわけにはいかない。沖縄の気候に合わせる必要があった」と話す。

強烈な日差し対策として、ガラス面は、庭に面した北東と玄関のある南東の2面に限定。西日を避けるため、北西と南西側は開口を必要最小限にし、断熱材を挟んだガルバリウム鋼板(※)を張った。
天井は、より入念に断熱。2階北東側の寝室の天井は、先の鋼板と断熱材に加え、断熱や調湿効果のある木毛セメントの3重で暑さ対策をした。

1階ホールの天井は、ルーフデッキに敷いたデッキ板とコンクリートを外気とのクッション材にした。「暑さ対策をしつつ、夫婦の要望する工場のような空間イメージを損なわないように」と、コンクリートの下(1階天井)には金属のデッキプレートを張り付けた。

予算配分にも頭を悩ませた。
Aさんの強い希望で構造体に重量鉄骨を使用したが、「重量鉄骨は本来、大きな施設で使われるもの。住宅規模で使うとコストが掛かる」。構造にお金をかけた分、窓サッシは既製品を組み合わせることでコストを抑えた。床のオイル塗装、キッチン回りや北東外壁の漆喰は施主自ら塗ってもらい、人件費をカットした。


※用語解説
ガルバリウム鋼板…アルミニウム、亜鉛でできた合金メッキ鋼板。外壁や屋根に用いられる


[DATA]
家族構成:夫婦
敷地面積:496.71㎡(約150坪)
1階床面積:67.05㎡(約20.3坪)
2階床面積:29.11㎡(約8.8坪)
建ぺい率:15.68%(許容60%)
容積率:19.36%(許容200%)
用途地域:未指定
躯体構造:鉄骨造
設 計:アトリエ ガィィ
佐久川一、佐久川達美
構 造:建築設計 庵
施 工:伊良波工業、spec project、山幸組
電 気:㈲泰伸電気
水 道:㈲良政産業

[設計・問い合わせ先]
アトリエガィィ
098・897・1379
http://www.atelier-gaii.com
写真/矢嶋健吾撮影
編集/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1593号・2016年7月15日紙面から掲載
 

お住まい拝見

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

これまでに書いた記事:338

編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

TOPへ戻る