木で建てたお墓 大工の子から父へ(本部町)|オキナワンダーランド[45]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2019年12月13日更新

木で建てたお墓 大工の子から父へ(本部町)|オキナワンダーランド[45]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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小浜家の墓(本部町)


本部町の大工、小浜康太さんは、子や孫にお墓を管理する負担をかけたくない思いから、「半永久的に残る石やコンクリートで造らなくていい」と、いつか朽ちることも覚悟で木のお墓を建てた

43歳で亡くなった父と、小浜康太さんは来年、同い年になる。

「来年“同級生”になります。年齢だけはお父さんを追い越せるかな。越せるのはそれだけじゃないかな」

 那覇で大工として働いた後、故郷の本部町に戻って建設業を営んだ父。「段取り八分、仕上げ二分」と言われるほどに建築の仕事において重要視される段取りが抜群にうまかった。人をひきつけるカリスマ性もあって、面倒見もよかった。地域で行事があると率先してやぐら組みをしたり、息子が少年野球の試合に出る時にはチーム全員にぜんざいを振る舞ったりした。

「父が他界したのは僕が中学生の頃ですが、今でもいろんな人から『お父さんはすごい人だった』と言われます。昔は厳しい父だと思っていたけれど、今は尊敬の念しかありません」

幼少時から、小浜さんは父の跡を継いで大工になると決めていた。地元の中学を出て、越境入学で那覇の工業高校に進んだのもその目標に近づくためだ。

「当時は校区外の学校を受験するには県教育長や知事の許可を取ることが必要でした。そこまでしてでも工業系の名門であるその学校で学びたかった」

東京暮らしにあこがれて本土の住宅メーカーにいったん就職したが、22歳で帰郷して内装大工として働き始めた。もらった給料をひたすら道具につぎ込むほど、仕事への意欲が強かった。

「『こんなに高いのを買う人はいないよ』と金物店の人に驚かれながら高価なノミを少しずつ買いそろえたりしていました。使いこなす腕はなかったけれど道具にこだわりがありました」

父が残した会社の代表に就任した30歳あたりから転機がまとまって訪れた。改装を請け負った古民家カフェが評判を呼び、「あの店を手がけた大工さん」として名前が知られて、おしゃれな店舗の改装などの仕事が舞い込むようになった。「大工になりたいので雇ってほしい」と頼まれることも増えた。最初は断っていたが、いつしか吹っ切れて、来る者は拒まずの心境に変わった。従業員9人のうち7人はここ数年で雇ったメンバーだ。

「住宅の建設に木を使うことが減ってきていますが、木の良さが再認識される時代がまた来るかもしれない。その時のために若手の大工を育てておきたい」

「木の粉にまみれながらものをつくるのが好き」という小浜さんは今年、石やコンクリートといった耐久性に優れた素材で造るのが当たり前とされてきたお墓を木で建てた。

「父のためにコンクリート造りの立派なお墓を建てようと長年思ってきたのですが、木でなら自分でも造れるし、墓のあり方についての考え方も変化して、半永久的に残らなくてもいいと思うようになったんです」

残らなくていい、と思うのは、子や孫の世代にお墓を管理する責任を背負わせたくないからだ。

「好きな場所で自由に生きてほしいんです。それに、誰もやっていないことをしたかったのもある。おもしろいじゃないですか。木のお墓なんて。時代が時代だし、こういう物好きな人間がいてもいいでしょう?(笑)」

昔からの慣習から離れるのは勇気がいる。伝説のように語られる父と同じ豪傑の血が、どうやら小浜さんの中にも流れている。



小浜さん(右から二人目)と従業員の皆さん。「自分がつくったものより人材を将来に残したい。機械に頼らずともノミやカンナで仕事ができる大工を育てたい」。左隣は最年少18歳の與那嶺哲太さん



清明祭などの際にテントを張る手間を省くために屋根付きにした。台風時に備えて風を逃がす通路なども設けた。「建てている最中、何を造っているのと度々聞かれました。『僕の将来のおうちですと答えました(笑)』」



36年前に父が建てた木工所を今も使っている。「ありがたいことに僕には親が残してくれた工場があるけれど、工場を建てて機械を買いそろえるのは大変なこと。知り合いの大工さんには必要な時は使って、と言っています」



建築士の仲地正樹さんらと「ハイゲ」というチームを結成し、木のオブジェを制作するなどして(写真)木によるものづくりを広める活動をしている。「仕事で扱う僕らも感じる木の温かみを、住まいにもっと取り入れてほしい」

◆小浜工務店
0980-48-4386



オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<45>
第1771号 2019年12月13日掲載

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