地域にも優しい家 超長寿の素材で(那覇市)|オキナワンダーランド[47]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

特集・企画

2020年2月14日更新

地域にも優しい家 超長寿の素材で(那覇市)|オキナワンダーランド[47]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

石川さん邸(那覇市)


通りかかる人に心理的な圧迫感を与えない外観の形。数百年以上もつとされる超耐久コンクリート造。首里の高台に建つ石川栄有さんの家は、住む人だけでなく地域や環境にも配慮した住まいだ

大きな帽子を上からすっぽりとかぶせたような屋根。光や風の出入り口であると同時に外観のキュートなアクセントにもなっている四角い出窓。首里城に続く坂道の途中に昨年完成した石川栄有(しげあり)さんの家は、住む人だけでなくそこを通りかかる人の心まで楽しくさせる。

「坂を上がって来た時にどう見えるかを設計士さんがずいぶん考えてくれました。周辺地域にまで配慮した建物になっていて、何も言うことがありません」

「『こんなすてきな家に暮らしていいのかな』とまだ思う」と、住み始めてもうすぐ1年になる自邸への満足を語る石川さん。生まれ育った宜野湾市で田芋生産の仕事をしているが、数年前、祖父母が住んでいた首里の土地を思いがけない経緯で譲り受けて、田芋の加工場付きの自宅を建てることになった。

「祖父母の家にはよく遊びに来ていて、ここからの眺めにも慣れ親しんでいました。でもまさか、僕がここに家を建てるなんて想像もしていませんでした」

祖父母の土地は、視界の抜けのよい爽快な眺望に恵まれている一方で、急な斜面にあるために、建っていた古屋を取り壊すのも新たに家を建てるのも難工事になる可能性があった。そこで石川さんは、傾斜地での建築に実績のある根路銘安史さんに設計を依頼した。

「解体や施工の業者が尻込みするような難しい土地ではありました。だけどどんな敷地でも、できないとは考えません。どうすれば建てられるかを考えます」

そう語る根路銘さんが専門業者と考えた方法により祖父母の家は無事に撤去され、地下1階地上3階建てが新たに建設された。収穫した田芋を洗ったり蒸したりする加工場は地階に、家族が憩うリビングダイニングは眺めのよい2階に配置。3階には、妻の陽(あきら)さんが望んだ土いじりができる緑化テラスを設けた。

「伊平屋島に残る神アシャギの茅葺(かやぶ)き屋根に似ているような」と根路銘さんが言う傾斜屋根は、外を通りかかる人の目線で設計された。

「外壁が3階までまっすぐ立ち上がっていたら、通りを歩く人は圧迫感を感じます。斜めにすれば圧迫感が和らぐし、通りから見た空も広くなる」

「地域とつながる家をデザインすることを常に心がけている」と話す根路銘さんとスタッフ、水上浩一さんの共同設計により生まれた地域に優しい石川邸。実は、自然環境をおもんばかった建物でもある。最低でも数百年、最長で千年以上もつとも言われる超耐久コンクリートで造られているのだ。高炉スラグコンクリートと呼ばれるそのコンクリートの普及に力を注ぐ根路銘さんは言う。

「今、沖縄の建物は平均30年で取り壊されています。沖縄らしい風景を次世代に残すには、長持ちする素材を使って寿命の長い建物を造っていく必要がある」

「毎日帰宅するたびに、『ここは本当に僕の家なのかな』と夢心地がする」と話す石川さんは、毎晩、眼下にきらめく夜景をさかなに好きなビールを味わう。

「この場所を独り占めしてはいけない気がしています。みんなで分かち合えるように、できるだけ人を呼んでわいわいできるようにしていきたい」

息子さんを入れて3人家族の石川家だが、リビングには8脚の椅子が並ぶ。「わいわいする」準備は万端整っている。


無垢の木の質感が温かいLDK。置かれたテーブルは長さが5メートルもある。「読みかけの本や使っていたパソコンを置いたままで食事に移れるサイズにした」と共同設計者の水上浩一さん


各階とも柱は四隅にしかないので、柱に邪魔されずに間取りを好きなように変更できる。「住む人の生活様式の変化に応じて柔軟に変われる空間にした」と根路銘さん。長寿命素材と並んで〝長く住めるデザイン〟にもこだわった


地階にある田芋の加工場。芋や芋茎(ずいき)のほか、妻の陽さんが作る「りんがく」(田芋版の芋きんとん)も注文を受けて販売する。「りんがくはお年寄りの大好物。『おいしいね』と喜んでもらえるのでうれしい」と陽さん


数キロ先の海も、遠くで起きている天気の変化も一望できる3階の緑化テラス。緑化したテラスや屋根は、“緑の断熱材”となって階下の気温上昇を抑える。それと同時に、太陽熱が周囲の建物に跳ね返ることも防ぐので、隣人にも優しい



オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<47>
第1780号 2020年2月14日掲載

特集・企画

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2122

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る