いのち輝く森に 手づくりの楽園(東村)|オキナワンダーランド[44]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2019年11月8日更新

いのち輝く森に 手づくりの楽園(東村)|オキナワンダーランド[44]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

森宿 山甌(やまがめ)(東村)


ヤンバルクイナも生息する東村の森深くに昨年オープンした「森宿 山甌」。常識にとらわれない自由な発想でオーナーの安次嶺現達さん(写真左)が手造りした宿は非日常のワンダーランドだ


磨き上げたばかりの宝石を辺り一面にばらまいたみたいに、森はまばゆく輝いていた。

「キラキラキラキラーッ、キラキラキラキラーッって光っていたんです。もうびっくりして」

安次嶺雪音さんは瞬く間に心を奪われた。草木や野鳥や虫たちの生命力がはち切れんばかりにみなぎっている森に。清らかな小川が奏でるせせらぎの優しい音色に。西表島や屋久島を旅して以来ずっとあこがれていた森の暮らしをかなえてくれる場所はここしかないと確信した。

「16年たった今も毎日感動します。『ああ、天国だな。楽園だな』って。風が肌をなでただけで、ヤンバルクイナの鳴き声が聞こえて来るだけで『うわーっ、最高!』ってうれしくなります」

愛してやまないその森に、雪音さんと夫の現達さんは昨年、宿をオープンした。やむにやまれぬ事情が生じたために、10年にわたって営んできた人気のカフェを畳んだのが5年前。住居も別の場所に移したが、森に戻りたい気持ちが募って「森宿 山甌」を開いた。

多くのファンに惜しまれながら閉店したカフェもそうだったが、宿の建物も現達さんがほぼ一人で建設した。家具職人だった若い頃、木材に赤土を組み合わせたテーブルを制作するなど斬新なもの作りをしていた現達さん。人並み外れて独創的な作風は、設計図も引かずに建てたという宿にもいかんなく発揮された。

例えば、絵本の中の建物がそのまま現実世界に出現したかのような宿泊棟。かわいいこびとが今にもひょっこり顔を出しそうな扉の向こうには、おとぎ話の内側に入り込んでしまったような錯覚を覚えるパステルカラーの非日常空間が広がる。

「どこかで建築の修業をしたわけでもないから、造り方が合っているのか間違っているのかもよく分からないんだけどね(笑)。普段お客さんが目にしているのとは少し違うおもしろみのある空間をつくれば、来てよかったと喜んでもらえるかなと思ってね」

創意工夫の達人である現達さんは、建てるに当たって材料を買いそろえたりはしなかった。廃材や身の回りにあるものを建材として使った。

「使った材料の8割は廃材。材木店に眠っている木の切れ端とか、収集家から安く買った古い赤瓦とか、下の川から拾ってきた石とかね。できるだけあるもので造りたかった。ここからだと店に買いに行くのも大変だしね(笑)」

1年前に取りかかった2棟目がもうすぐ完成を迎える。そのあとは読書ができるスペースや水浴び場なども整備して森全体を「人が来て遊べる空間」にしたいと考えている。

「自分は多分“つくりたい病”なんだろうね(笑)。見ているだけでも楽しくなるようなものをつくっていきたいね」

この森に人が集い、憩うことを雪音さんも願っている。都会の子どもたちを受け入れて自然とふれあう機会を提供したい。五右衛門風呂や薬草風呂を川沿いに並べた野天の銭湯をつくりたい。いろんな未来図が浮かぶ。

「この森は人を優しく包み込んでくれる。心のあかを洗い流してくれる。来た人が気持ちいいと感じてくれたらいいね」

雨上がりの太陽が森を照らし始めた。黄金色の光の粒がキラキラと木々の間を舞う。「たまらないよね」。何百回となく眺めて来たはずの景色を雪音さんがうっとりと見つめた。



おとぎ話から抜け出てきたようなコテージ。「自分みたいな素人でもできる方法で建てたらこういう建物になった」と現達さん。もらった端材や拾った川の石を床に張るなど、遊び心がいっぱい



丸っこい形と明るい色調が女性客や家族連れの心をわしづかみにしそうな一棟目と違って、完成間近な二棟目はシックな雰囲気。「同じものを造ってもおもしろくないからね。工法もあっちがコンクリート造でこちらは木造」



新棟の宿泊者専用キッチンはそのままカフェバーにでもなりそうなかっこよさ。「カウンターの板にチェーンソーでわざと傷を付けてある。しなくてもいいことをしたり、なくてもいいものを作ったりすると空間が楽しくなる」



森を歩いて集めた薪で雪音さんが火を起こしてくれる五右衛門風呂。「お湯を沸かすのにただ蛇口をひねるだけじゃつまらない。自分で火から起こしたお風呂に入った時の感動と言ったらもう!お料理も薪のかまどで作りたい」

◆森宿 山甌
0980-43-2624


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<44>
第1766号 2019年11月8日掲載

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