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2018年9月14日更新

光、風、水、緑とつながる家(今帰仁村)|オキナワンダーランド[30]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

島袋勝也さん邸(今帰仁村)


大胆に切り取られた開口部。半屋内に造られた池。建築家、島袋勝也さんの自邸は、“中”と“外”の境目を意図的にあいまいにしたデザインから生まれる屋外とつながる爽快感に満ちあふれる

やんばるの建築家、島袋勝也さんは、ある意味ではもう何度も自分の家を設計してきた。

「施主さんの家も、自分が住むつもりで設計させていただいています。だから毎回、報酬をいただいて自分の家を設計しているようなものです」

そう話す島袋さんが、生まれ育った今帰仁村に“本当の”自分の家を建てたのは8年前だ。

「遠くの山並みまでの眺望の抜けが気持ち良くて、ひと目見てここに建てると決めました」

思い切り開け放たれたリビングルームの特大の開口部から、手入れが行き届いた庭のまばゆい緑が目に飛び込んで来る。遠景には島袋さんを魅了した山々のなだらかな稜線(りょうせん)が浮かぶ。ゆらゆらと風が流れていく。コンクリートの部屋の中にいるのに、草原の丘にでもいるような不思議な気分だ。

「この家を建てた時にやりたかったのは、家の中と外とを隔てる仕切りの存在をなるべく分からなくして、中と外がまじりあう“あいまい”な場所をできるだけ多くつくることでした」

そうか。島袋さんの設計が巧みに中と外の境界線を消しているから、室内にいながら外にいるような錯覚を覚えるのか。

「例えば景色のよい場所にいるとして」と島袋さんが語り続ける。穏やかな声音が、家に漂うあたたかな波動と響き合う。

「周囲の景色を最大限に楽しみたければ、あずまやのような、屋根と柱だけの建物が一番その目的に合います。しかし住まいとなるとそうはいかないので壁でまわりを囲うことになる。ところが囲えば囲うほど、心理的な安心感とひきかえに、中と外が分離されていきます」

中と外が分離するのではなく、つながる家。両者の境目があいまいな、ボーダーレスな住まい。そんなイメージを実現するために、島袋さんはリビングの大開口のほかにもう一つ、大胆な工夫を行った。家の中央に、中庭ならぬ“中池”を造ったのだ。明るい自然光が差し込む半屋内の水辺が、リビングと子ども部屋の間に生まれた。

「部屋と部屋の間に池を組み込んで、中、外、中、外と続く空間構成にしたら気持ちよさそうだと思ったんです」

部屋と池の“サンドイッチ”は、狙い通りの心地よい開放感をつくり出した。池の水が蒸発する際に気化熱の作用で周囲の熱を奪うので、涼しくもなった。

「思いのほかうまく行きました。ただ誤算もあって、池に面して取り付けた勉強机は子どもたちに使われたためしがありません。子どもはやっぱりテレビの前でしか勉強しません(笑)」

家を建てて数年後、島袋さんはスリランカを旅した。“熱帯建築の神様”とも呼ばれるジェフリー・バワが設計した建物を訪ね歩く中で、自邸と同じ「中、外、中、外」の構造を見つけた。

「壁が迫ってくるような狭い廊下があったり、逆に外部とひと続きにつながるオープンなスペースがあったりと、中と外が頻繁に入れ替わる空間づくりが多く見られました。自分が目指す方向性は間違っていなかったと分かって感無量でした」

島袋邸の池の水面が風に揺れてきらきらと光った。家から一歩も出ずに水辺にたたずむ気分を味わえるとはなんてすてきなことだろう。もしもバワがやんばるで家を建てたなら、あるいはこんな家を建てたかもしれない。楽しい想像が頭をよぎった。


家の中央に配置された池。見た目に美しいばかりでなく、涼しい空気を送り出す天然のクーラーの役目も果たす。浄化した生活排水と雨水を再利用した水に、蓮(はす)が咲き、魚が泳ぐ



リビングから見た池と子ども部屋(右端)。島袋さんは建物を設計する際、「外からどう見えるか」ではなく、「中からどんな風景を見たいか」を優先的に考える。「外観よりも中からの見え方を意識しながら設計します」



家の隣に建つ事務所。自宅もそうだが、軒高をあえて低く抑えている。「低かったり狭かったりする圧迫感が逆によい効果を生むこともあります。例えば天井が低い所から高い所に出ると強い開放感を味わえます」



ヒンプンと事務所の屋根には解体された古民家の赤瓦が、軒柱には花ブロックが使われている。「僕は身近にある沖縄の材料をどんどん使います。地元で生まれた素材は島の風土によくなじみます」

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<30>
第1706号 2018年9月14日掲載

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