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2017年2月17日更新

ふるさとの自然“お披露目”する庭(南城市)|オキナワンダーランド[11]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

ふるさとの自然“お披露目”する庭

さちばるの庭 稲福信吉さん(南城市)


木を切らず、岩を割らないことをコンセプトとする「さちばるの庭」は、ふるさとの素朴な自然と、そこに残る先人の足跡を“お披露目”しようと、稲福信吉さんが22年かけてつくり続けてきた


「『ガーデンなのに花がないの?』と言われることもあるよ」
「人の2倍ぐらいある」という大きな瞳に笑みをたたえながら、稲福信吉さんが言った。
「『ガジュマルを切って桜を植えたら? そうしたら花見ができるのに』と言う人もいるし」
なるほど確かにこの庭には、ぱっと目を引く華やかな花も、あっと驚く珍しい木もない。あるのはガジュマルやアカギなど、沖縄のどこにでもある植物と、琉球石灰岩の素朴な石積みばかり。けれどまさにそういう庭を、稲福さんはつくりたかった。
「この庭は、ここにもともとある木や岩、そして先人たちの石積みが主役。その周囲に植えたハイビスカスやブーゲンビリアは脇役、いわばアクセサリー」
「主役」である木や岩を、稲福さんは極力傷つけない。
「この庭のコンセプトははっきりしてる。もともとある木を切らない、岩も割らない」
もともとある自然を重んじるという「さちばるの庭」のコンセプトは、紆余曲折に富んだ半生を経て稲福さんがたどり着いた、自然との向き合い方だ。
「昔は俺、悲しいくらい木を伐採していたの」
62歳の今、「野鳥やチョウと話をする」ことを日々の楽しみとし、広さ6500坪の庭に植わる植物を「全部、性格まで知っている」ほど自然を愛する稲福さんが、意外な過去を語り始めた。
「18歳で那覇に出て、東京のまね事をしていたの。もう絶対に農業みたいなことをしたくないって言って那覇に出たわけ」
稲福さんは旧玉城村の出身だ。親は専業農家で、子どもたちはいや応なしに野良仕事の手伝いをさせられた。稲福さんも小学生の頃からサトウキビを担いだ。
「33キロぐらいある束を2日で100束とか150束とか、もう地獄。あんな重労働はない」
「サトウキビも牛も豚ももう見たくない」と、稲福さんはふるさとを飛び出した。那覇で測量の仕事に就き、憧れの「東京っぽい」暮らしを送った。だが次第に幻滅が心に募っていった。
「道路をつくる、ダムをつくるという時に、測量士がまず最初に現場に行って木を伐採するんです。そうしないと測量ができないから。やんばるでも、西表島でも、立派な木をボンボン切った。あれは悲しかったね」
30代半ば、稲福さんは「人生をチェンジ」しようと仕事を辞めた。故郷に戻り、海辺に小さなカフェを開いた。そんな時、裏山にあるこの森と出合った。
「うわぁ、こんな所にこんなすごいものがあったんだ!」
森で遭遇した樹齢100年級のガジュマルの大木や巨大な岩、それに、数百年前に首里から移り住んできた士族が築いたものと思われる段々畑の石積みに、稲福さんは魂を揺さぶられた。
「絶対これをお披露目しよう」
まるで何かに突き動かされるように、稲福さんは庭をつくり始めた。22年前のことだ。
「人間って面白いね」
完成まであと20年という庭を眺めながら稲福さんが言った。
「二度とここに帰りたくなかったのに、都会から戻って来たら土に触れるのが好きになって」
若い頃、木々を伐採して感じた後味の悪さ。むなしかった東京のまね事。苦い経験を幾つも味わって戻ったふるさとだからこそ、そこに残る飾り気のない自然と先人の苦労の足跡を、稲福さんはなおさらいとおしく思うのだろう。



推定樹齢約150年のガジュマルと先人が残した段々畑の石積み。「首里から移り住んだ屋取(ヤードゥイ)の人たちが、猫の額ぐらいの畑で日々の糧を得ていた。その歴史を重んじたい」。稲福さん自身もそうした士族の末裔(まつえい)



庭の入り口にあるカフェ「山の茶屋・楽水」。岩(中央奥)を割らずに済むように、建物を岩のかたちに合わせて「はめ込んで」ある。「建築屋さんは大変だったよ。切ってもいけないし、割ってもいけないから」



庭に何本かある小道は現場から出た石でつくられている。訪れた人に郷愁感を感じてもらうため、普通なら抜いてしまうようなヨモギやオオバコをわざわざ植えている。「『あ、昔これあったね』と懐かしんでもらいたい」



軽い足取りで斜面を登る稲福さん。「若い頃は内心、おやじにものすごく反発していたけど、今は感謝してる。頑丈な体をつくってくれたからね」。子どもの頃もよく山に入ってバンシルーの木を探したりしたという


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター、翻訳家。築半世紀の古民家に暮らすなかで、島の風土にしなやかに寄り添う沖縄の伝統建築の奥深さに心打たれ、建築に興味をもつようになる。コラム「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」を朝日新聞デジタルで執筆。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<11>
第1624号 2017年2月17日掲載

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