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2016年8月19日更新

そこにしかない ナンバーワンの森|オキナワンダーランド[5]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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そこにしかない ナンバーワンの森

ビオスの丘(沖縄・うるま市)


ビオスの丘にみなぎる、ふわっと優しい空気の源(みなもと)は何だろう。
夏になると桃色のハスの花で埋め尽くされる「天染池(てぃんずみぐむい)」。亜熱帯のジャングルを遊覧する船がめぐる「大龍池(うふたちぐむい)」。モーアシビに興じる島人が松林の陰からひょっこり現れそうな「踊御庭(うどぅいうなー)」。大人も童心に帰ってヤギとたわむれる「遊御庭(あしびうなー)」。
ビオスの丘のどこを切りとっても、そこにあるのはゆったりと流れる時間と、来園者をそっと包み込む柔らかな空気だ。
「観光に出かけて、楽しかったけど家に帰ったら何だかホッとするっていうのも変だなと。それよりは、ここに来てなんかホッとできた、という施設を目指そうという考えでつくりました」
ビオスの丘統括部長の山口行孝さんは沖縄に来て33年。通称「石川高原」と呼ばれるこの場所が松林やパイン畑跡だったころからここに関わってきた。
「18年前の開園当初は、二度と来るか、という人もいました。昔の観光って刺激を求めるところがあったじゃないですか。そういう観点から見たら何もないように見えたのかもしれません」
観光施設にしては珍しく、ビオスの丘には昔も今も、刺激を売り物にしたアトラクションはない。遊覧船や水牛車があるにはあるが刺激的とは言い難い。
しかし、長い時間をかけて丹念につくりあげた別の“アトラクション”ならある。沖縄の自然の風景だ。山口さんが語る。
「ここをつくったころ、昔ながらの沖縄の風景がどんどん失われていました。子どもたちが遊び回れる野山の風景を残したいという思いがありました」
沖縄らしい風景を残すために、森の木はできるだけ切らずに残した。木を植え足す場合にも、外来種ではなく在来種を選んで植えたと園内の植物設計を行った造園家の山本紀久さんは言う。
「ビオスの丘は、そこの自然そのものを体験してもらう施設。もともとの自然こそが一番魅力的だから最大限生かしました」
だからヤシひとつ取っても、定番のココヤシなどではなく沖縄に自生するクロツグやビロウを種から栽培までして植えた。
「そこにある自然がオンリーワン。だって、そこにしかないんですから。世界の人が見てもナンバーワンなんです」


森の中を龍がくねくねとはうような形の「大龍池」。ダム湖と違って水位が一定に保たれ、しかも元々はなかった浅瀬を石を積んでつくってあるから水辺の植物が育つ。人造湖でありながら天然湖と見まごうほど自然。「いかに分からないように自然に戻すかがポイント」と山本さんは言う


そして、山本さんが丁寧に植生を整えた沖縄ならではの森を、陸上からだけでなく水上からも楽しんでもらおうと湖もつくった。考えたのはランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんだ。
「現場に当時あった人工のため池を広げて湖をつくり、そこに船を行き来させて水面から森を見てもらう形を考えました」
2年に及んだ湖づくりはため池の水を全部抜くところから始まった。在来種のメダカを保護するために外来魚のティラピアを駆除するなど、沖縄本来の自然を守るための手間をかけた。


10年前の時点で259種類の植物が確認されたビオスの丘。運営するのは「らんの里沖縄」だ。栽培している10万鉢のランから見頃の鉢を多い時で2000鉢飾り、花木が少ない園内に花を添えている


散策路に刻まれたトンボ(写真)。待合所に置かれた三線やけん玉。園内の木でつくった手作り感満載の遊具。園内の所々にさりげなく置かれた“小さなアトラクション”はビオスの丘の魅力の一つ

それから20年がたった今年、田瀬さんはビオスの丘を訪れた。
「自然がどんどん強まって魅力が増しているのを感じました」
十数年ぶりに訪れたのに、ヤギや植物の世話係がほとんど変わっていないことも知った。
「彼らがずっと愛情を注いでくれている。愛情って、注げば注ぐほど注ぎたくなるものです」
ビオスの丘に漂う優しい空気の源は、そこにある沖縄の自然と、その自然を慈しむ人びとの思いなのだとようやく気付いた。


「期待しないで来たけど子どもが帰りたがらなかったという声が一番うれしいです」とビオスの丘の山口さん。広島から訪れた高原満子さんは「普段は動物嫌いな息子がヤギと遊んで楽しそう」と目を細めて話していた


上記写真:沖縄ならではの自然を主役にすえた「ビオスの丘」。開園から18年を迎えた今、リュウキュウマツやヒカゲヘゴやイタジイがつくり出す「ビオス(ギリシャ語で「いのち」)」あふれる「オンリーワンでナンバーワン」の自然が成熟期を迎えている

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[執筆・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター、翻訳家。築半世紀の古民家に暮らすなかで、島の風土にしなやかに寄り添う沖縄の伝統建築の奥深さに心打たれ、建築に興味をもつようになる。朝日新聞デジタルで「沖縄建築パラダイス」全30回を昨春まで連載。
 
『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<5>
第1598号 2016年8月19日掲載

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