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2016年1月29日更新
赤瓦解体 構造を学ぶ|うちなー古民家移築に挑戦④
古民家移築は、いよいよ解体作業に着手した。前半の大きなヤマ場は瓦解体だ。本瓦葺きの赤瓦は丸と平で合計6000枚に及ぶ。さらに、その下に葺かれた葺き土や野地竹、垂木といった屋根材の量に圧倒された。
卒研の生徒、分量に驚き
本島中部にある古民家の解体作業は、沖縄職業能力開発大学校(ポリテクカレッジ、宮城隼夫校長)住居環境科の2年生が卒業研究として取り組んだ。天井板や床板の解体から始まって、瓦下ろしに移る。いずれも初の経験で、斜面での作業は体力を奪い、屋根材の量と重さも想像以上だった。週に2~3日を充て、約1カ月を要した。
厚さ7~8センチの葺き土と、それを受ける野地竹は、在来の赤瓦古民家に用いられた工法だ。
なぜ、あえて屋根を重くするのか。自然木を使う垂木と野地竹の組み合わせだと凹凸が出るため、土の厚みで調整しながら瓦を真っすぐに葺くためだ。さらに台風であおられないよう、重量で屋根から押さえ込むのだと、解体を指導した瓦葺師の奥原崇仁郎さんから教わった。
垂木を下ろすと、軸組みの全貌が現れた。沖縄戦を生き延び、台所から上がるススとほこりが積もった小屋組の材を根気よく計測し、解体前に図面に起こす作業へと移る。
瓦解体はてっぺんの大棟から始める。「かわらぶき1級技能士」の奧原崇仁郎さん(左)が、解体の手順方法を指導しつつ、瓦屋根の仕組みを解説してくれた
安全第一。平屋といえども、瓦は漆喰(しっくい)がボロボロで不安定なので、足場を回す
大棟の次は隅棟へ。割れた瓦を骨材にして漆喰で盛り上げられているので、大量の漆喰が出る
屋根の平面は、上から丸瓦4~5列を1区切りとして、瓦、葺き土、野地竹の順で解体する
密に組まれた野地竹も大量に出る。この段階で、丸瓦(雄瓦〓ウーガーラ)、平瓦(雌瓦〓ミーガーラ)、葺き土、野地竹を押さえる桟(さん)、垂木の仕組みがよく分かる
解体し移築先に運ばれた赤瓦は推定6000枚
垂木を解体する。樹種はチャーギ
瓦を降ろした後は、大棟からスタートし、小屋組の部材を測定する。芯―芯を基本に、継ぎの位置や種類も確認
一部崩れ落ちた雨端(アマハジ)の桁や小梁は、安全を考慮し先に解体する
測定しながら図面に寸法を書く
屋根の前に、屋内の壁などを解体する。天井板には分厚くちりがたまり、すさまじい粉じんが舞う
解体と並行し、部材に番付を振る
卒業研究として取り組んだのは、住居環境科の(写真左から)濱田恵三先生と、生徒は金城有紀子、與座有希、比嘉勇志、岡峰涼、玉城雄登の5人。チームワークが良く、真剣な作業以外では笑いが絶えない。
居つく〝住人たち〟
居心地いい? 赤瓦屋根
ガジュマルなどの大木が屋根を覆うと、日当たりや風通しが悪くなって、積もった落ち葉やちりを栄養にしてたちまち草木が茂る。今回、解体した古民家も、普通は土中にしかいない虫やムカデ、カエルなどが次々と現れて女子学生から悲鳴が上がった。
極め付けはヘビ類のアカマターだ! 小動物は格好のエサとなり、冬は日が当たると温かいので、赤瓦屋根は居心地がいいに違いない。名護市指定の文化財「源河ウェーキ」を解体した際に、7匹のアカマターが出たという逸話にも説得力がある。
茅葺きや木造家屋にはネズミなどを追ってハブが侵入するとの話も聞くが、アカマターのように居つくことはないようだ。
屋根に根付いたガジュマルをはがすのも、ひと苦労だ
瓦と葺き土のすき間から現れたアカマター。平瓦の大きさと比べても、体長1メートルはある大物だった。男子学生が裏山方面へ追い出す
大ワザ小ワザ使い分け
瓦下ろしで活躍したのは、葺き土や漆喰の殻を取り込む、柔軟性のあるちり取り。先をすぼめると土嚢(どのう)の口に入り、スムーズに移し替えることができる。丸い2㍑のペットボトルを斜めに切った容器も、瓦の谷間をすくうのに重宝した。いずれも奥原さん伝授の瓦解体アイテム。
一方、床や壁を解体して出る木の廃材は、電動丸のこで切断してフレコンに詰め込み、業者に頼んで処理してもらうと効率が良い。
編集/ 山城興朝 古民家鑑定士
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1556号・2016年1月29日紙面から掲載
この記事のキュレーター
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古民家鑑定士一級。2011年4月~2013年5月まで週刊タイムス住宅新聞にて『赤瓦の風景』を連載。2015年から名護市で古民家の修復に着手し、並行してうるま市からの移築にも取り組んでいる。