山原で育まれる アート創造の種|オキナワンダーランド[52]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

特集・企画

2021年1月29日更新

山原で育まれる アート創造の種|オキナワンダーランド[52]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

やんばるアートフェスティバル


やんばるにアートの種子が集まり、地域で育まれてやがて花を咲かせる-そんな未来を思い描いて、「やんばるアートフェスティバル」は4年前から開催されてきた。写真は、第1回に出展された藤代冥砂さんの作品


都会的な美術館も、瀟洒(しょうしゃ)なギャラリーも、そこにはない。目に映るのは、やんばるブルーに染まる海と、緑輝く無垢(むく)な森、それに、長寿を誇る島人の堅実で素朴な暮らしぶりだ。のどかで、心洗われるやんばるの原風景。そのなかで毎冬、数万人が足を運ぶ芸術祭が開かれている。大宜味村の廃校など数カ所で同時開催される「やんばるアートフェスティバル」だ。

「大いなる自然に触れられるやんばるは、アーティストにとって、一度はアートしてみたいと思わせてくれる創造的な場所です。太古からの時間がつくり上げた“自然の芸術”がたくさんあって、アートの発想の原点がいたる所に転がっています」

写真から映画までを手掛けるマルチなアーティスト、仲程長治さんは、県内外からアートが集う同フェスティバルの総合ディレクターを務める。第1回の「ヤンバルニハコブネ」、第2回の「ヤンバルネサンス」など、開催ごとにテーマを示し、芸術祭の方向性を導いてきた。

「世界中からアートの種がやんばるに集まって、種が弾けて広がっていき、アートに触れた人々の心に小さな芽が吹いて、この土地ならではのアートが生み出されていく。そんなビジョンを描いて来ましたが、おかげさまで地域に根を張り花を咲かせた作品も生まれています」

過去3回でのべ18万人が訪れたフェスティバルの誘引力の一つは、メイン会場である大宜味村の旧塩屋小学校だ。子どもたちのはしゃぎ声が今も聞こえてきそうな教室や体育館がそのまま残る学び舎(や)に、先端的な絵画や映像芸術が展示されて、開催のひと月間、学校自体が一つの巨大な作品のようになる。

「校舎全体に広がる懐かしい感じ。そして、塩屋湾に浮かぶ船のような体育館。この場所の魅力にアーティストも刺激されて、『これもやりたい、あれも』と意欲が湧くようです」

そう話すのはフェスティバル実行委員会の和泉かなさんだ。「やんばるの廃校でアート展ができないか」と最初に発案した“生みの親”でもある。

「私にとってやんばるは、豊かな自然とおいしいごはん、明るい女性たちに出会える所。気持ちがトゲトゲしている時でも、ここに来ると心が穏やかになります(笑)。アートを楽しんでいただきながら、やんばるの魅力にも触れていただく。それが、この芸術祭の最大の目的です」

コロナ禍の中で開かれる今回は、展示作品をオンラインでも観覧できるなど、ネット上でも楽しめる芸術祭となっている。テーマは「山原知新」。総合ディレクターの仲程さんは、そこにこんな意味を込めた。

「コロナ禍によって経済や社会が大変革を求められている今、人がより創造的に生きるヒントは“温故知新”にあると感じています。太古から変わらないやんばるの自然と、そこでつながれてきた人々の営みを改めて知ることが、新たな時代を生み出す創造の種になるのではと」

「フェスティバルを通じてやんばる愛が深まった」と話す仲程さん。期待するのは、「『やんばると言えば、アートだよね』と認知されること」。芸術祭が歴史を重ねるたびに、描く未来図に一歩ずつ近づいていく。



2021年の開催期間は1月23日から2月21日まで。実行委員の和泉さんは「アートとやんばるに触れて心が豊かになるようなひと時を過ごしていただけたら」と話す。写真は、今回初出展した画家、丹羽優太さんの水墨画


会場は大宜味村の旧塩屋小学校=写真=など6カ所。村企画観光課の大宜見朝之さんは「芸術祭の効果で、やんばるの名が少なからず広まったと感じています。アートの祭典であると同時に観光の呼び水にもなっています」と話す


総合ディレクター、仲程さんの作品「空紗美羅-クーシャビラ」。端切れ布を連ねて“循環”や“再生”を表現している。「学校での展示は、設備が整っていなくて簡単ではない半面、空間や空気感を丸ごと作品にできる楽しさがあります」


画家、BAKIBAKIさんの壁画など、過去の展示作の一部は地域に残る。「自然の中に、街に作品が散らばっていき、やんばるが“アートの森”になっていけば」と仲程さん

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<52>
第1830号 2021年1月29日掲載

特集・企画

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:975

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る