相続
2024年8月2日更新
相続の話は親から65歳までに始めて|どうするその空き家 あなたの実家も!?
文/山入端学(全国空き家アドバイザー協議会沖縄県名護支部事務局長)
昨年10月末に設立した全国空き家アドバイザー協議会沖縄県名護支部も、はや9カ月が経過し、20件を超える空き家などのご相談をいただいています。その内容はさまざまな要因が複雑に絡み合っています。今回はその中からAさんの事例を紹介します。
施設入所で空き家
後見人が必要に
◆相談事例/相談者のAさんは所有者(叔母90代)のおい(60代)。独居の叔母が5年前に施設へ入所して以来、自宅が空き家になっている。建物は木造セメント瓦葺きの平屋。叔母の入所から手つかずの状態で、生活残置物や仏壇位(い)牌(はい)もある。5年間の放置で老朽化やシロアリ被害も数カ所確認されている。
このケースでは、空き家の所有者である叔母には子どもがいないことから、Aさんから「残置物の処分や仏壇位牌の整理、建物の解体除去、さらには今後の介護費用などの問題がある。叔母所有の土地建物を売却し、その費用に充てたい」と相談がありました。
聞き取りを進めると叔母は既に認知症を発症しており、所有している居住用不動産を売却するにあたって必要な本人の意思確認が取れないとのこと。そのような場合には、家庭裁判所へ「後見人選任」の申し立てを行い、手続き終了後、後見人に売却の許可を得なければいけません。
そこで当協議会では、「不動産の売却査定」「建物解体除却の見積り」「残置物撤去処分の見積り」「仏壇位牌の整理相談」などをそれぞれの専門会員が担当。同時に会員司法書士による後見人選任の申し立て手続きに向けた準備を行っています。
仏壇・お墓がセット
放置すると子に影響
Aさんの事例のように、空き家問題には相続や介護だけでなく、仏壇・お墓の問題がセットでついてくるケースが沖縄では特に多く見られます。ですが、いざ相続の話し合いをするとなるとデリケートで、親が亡くなるまでタブー視されてしまいがち。その結果、名義人である親が80代後半~90代、相続人は60代~70代で相続するケースが少なくありません。
厚生労働省所管の研究センターの推計では、年齢層別の認知症割合では、85歳以上の約41%にのぼるとされています。(これ以外に64歳以下の若年性の認知症者も)。
また、法務省の調査では55歳以上で公正証書遺言を作成したことがある人が3・1%、自筆証書遺言は3・7%と、まだまだ遺言書を作成するのは少ないのが現状です。
つまり、ご家族での話し合いなど何の対策もせず、所有者(名義人)が認知症などで本人の意思確認が取れない状態になると、相続まで何十年も経過した後、やっと実家の問題に取りかかることになります。その間、実家は何十年も空き家として放置されるばかりでなく、子や孫は、介護費用の負担、空き家になった実家の管理、時にはそこで発生する事件事故への損害賠償など、さまざまなリスクを抱えることになってしまうのです。
終活ノート活用
身近な話題から
では、どうすればいいのでしょうか? 当協議会では「親世代が65歳までに、住まいをどうするか話し合いを始める」ことが大事だと考えています。体が動くうちに早くから自身の住まいをどうしていくかを考えることができれば、さまざまな対策が可能になるからです。そして親世代の責任として「相続の話題は親世代から」持ち出さないといけません。
一方で、なかなか親世代から話が出ない場合には、エンディングノートや終活ノート活用を促してみてはいかがでしょうか? いきなり「財産をどう分けるか?」「遺言は書かないのか?」ではトラブルの原因になりかねません。まずは「知人の連絡先をまとめておいてほしい」などを入り口に「両親の老後の生活や介護、仏壇・お墓・相続について、どうしてほしいか、思いを聞かせてほしい」と切り出してみてはいかがでしょうか?
これからお盆を迎えるにあたり、家族や親族が集まる機会もあることでしょう。ぜひ、関係者の皆さんが元気なうちに話し合いを持たれることをおすすめします。
やまのは・まなぶ
1969年生まれ、名護市在住。昨年、(一社)全国空き家アドバイザー協議会沖縄県名護支部を設立し事務局長就任。(同)城コーポレーション代表社員。沖縄県宅地建物取引業協会会員。北部地区宅建業者会副会長
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2013号・2024年08月02日紙面から掲載