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2018年3月16日更新

考えよう!沖縄の省エネ住宅[08]|内外の関係は生き方の選択

文・清水肇(琉球大学工学部教授、NPO蒸暑地域住まいの研究会)

内外の境界が明確な「外皮」という考え方

「暖房効く家は冷房も効く」が落とし穴

北海道の冬は氷点下の日々が続きます。建築物省エネ法で定める省エネ基準を全ての新築住宅に適用することで、厳しい冬でも効果的に暖房ができる住宅づくりを国は目指しています。

沖縄の省エネ基準には暖房の基準はありません。しかし、暖房の性能と似た考え方で冷房の省エネを進めることになっています。「暖房が効く家は冷房が効くはずだから、それでよさそう」と思っていませんか。ここに落とし穴があります。

省エネ基準は「外皮」という考え方で建物の性能を測ります。建物に皮があるのでしょうか。建築設計の新しい言葉です。住宅の内と外の境界面を上から下まで(屋根から床下まで)全部合わせたものが「外皮」です。

高気密高断熱の「外皮」をつくって内側を暖める。その時は全部の部屋を連続して暖房することが前提になります。「断熱性を高めれば暖房は途中で切らない方がよい。暖房は全ての部屋で行わないと寒い部屋で結露が起こる」「家の中に寒い場所があるとヒートショックがあって命に関わる」のが理由です。暖かい地域の私たちには分かりにくいことですが、寒い土地で積み上げられてきた知恵の面白さがあります。

「外皮」の考え方は、内と外の境界を明確にさせます。そのための壁と窓を最も効率よくつくった姿を現代の北海道の住まいに見ることができます。その内側に全室を暖かくした冬の暮らしがあります。


北海道の住宅。窓は小さく二重構造となっており、軒も庇も出ていない
 

沖縄の外皮は合わせ技で幾重にも

沖縄の住まいにも「外皮」が重要になる時があります。台風の時は皮というより殻で備える。ただし、寒さと台風では備え方が少し違います。寒さに対するには一枚の「外皮」に隙間があってはいけません。台風に備えるには建物自体の耐風と防水が必要ですが、周囲の樹木や石垣などで風を和らげる合わせ技が有効です。いろいろな皮が何枚あってもよいのです。

日射も同じです。写真のような北海道の住まいを沖縄に持ってきたら、外壁が夏の日差しをまともに受けてしまいます。外壁からの熱貫流(※1)を断熱材で止めるよりも、日傘をさすように庇(ひさし)などによって外壁を熱くしない方が自然なやり方です。

もともと、沖縄の住まいの「外皮」はいろいろな形で何重にも重なっているものでした。熱も光も風も、そして人間をも、柔らかい境界線で受けとめてきました。

これを「外皮」と呼んでよいのでしょうか。内と外の関係をどうつくるか。建築の本質ですが、生き方の選択かもしれません。北国の冬が全室連続暖房ならば、私たちの暮らし方はどうなのか。省エネ基準を機会に正面から議論するときがきたようです。
※1)壁の両側の温度が異なる際、高温側から低温側への熱通過現象


柔らかな境界のある沖縄の住まい


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1680号・2018年3月16日紙面から掲載

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