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2018年1月12日更新

キューバと沖縄が奏でるハーモニー(今帰仁村)|オキナワンダーランド[22]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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SOMOS(ソモス)伊藤秀樹さん(今帰仁村)

オキナワンダーランド|「SOMOS(ソモス)」は、アメリカや中南米を何度も旅したミュージシャンの伊藤秀樹さんが、音楽づくりで磨いた感性でキューバと沖縄のスタイルを美しくブレンドさせたチャーミングな宿だ
「SOMOS(ソモス)」は、アメリカや中南米を何度も旅したミュージシャンの伊藤秀樹さんが、音楽づくりで磨いた感性でキューバと沖縄のスタイルを美しくブレンドさせたチャーミングな宿だ


伊藤秀樹さんと話していると、キューバに無性に行きたくなる。

「キューバの人たちは、陽気でハッピーです。そこらじゅうで音楽に合わせて踊っています」

今から20年前、20代半ばの伊藤さんは中南米を一人旅した。愛読していた小説の主人公をまねて、バックパック一つを背負っての貧乏旅行。その道中で出会った人から、「古い街並みが残り、女の子もかわいくて、最高の所」と聞いてキューバを訪れた。

「古い物に昔から目がなく」て、古着や古いカメラや時計を集めるのが趣味だった伊藤さんは、キューバにたちまち恋をした。400年続いたスペイン統治時代の建築が建ち並ぶ首都、ハバナはまるごと美術館のようだったし、街を行き交う"走る骨董品"のような1950年代のアメリカ車にも胸が躍った。

すてきな女の子にも出会った。妻のアイレンさんだ。街角で見かけたアイレンさんの美しさに伊藤さんは心を射抜かれた。

「一度通り過ぎたのですが、戻って声をかけました。汚い格好だったので、彼女は僕のことを変な人と思ったようです(笑)」

アイレンさんと結婚した伊藤さんは、長年の夢だった宿の経営をキューバでやってみようと考えた。思い描いたのは、世界の旅人が集い、交流する宿。ところが、「売り上げの3分の2は政府に持って行かれるような」社会主義国の厳しい現実を知り、やむなく断念して日本に戻った。

キューバがだめなら別の中南米の国で、とプランを練っていた矢先、今度は仕事で沖縄に暮らすことになった。18歳でアメリカに留学して以来、海外への旅を繰り返し、心はすっかり外国人になっていた伊藤さんは、最初、沖縄を物足りなく感じた。しかし、だんだんと、海外に向いていた心が沖縄に向き始めた。

「日本にいて感じていた窮屈さを沖縄では感じませんでした」

外国にいるときのように、心の羽を自由に伸ばせる沖縄で、伊藤さんは念願の宿をつくることにした。4年かけてじっくり探した土地に宿と自宅を建てた。

過去に3枚のCDを出したミュージシャンでもある伊藤さんは、音楽ならお手の物だが建築は門外漢。それでも、設計図は自分で描いた。設計のあれこれは分からなかったが、どんな宿にしたいかは分かっていた。キューバを感じられる宿、沖縄も感じられる宿、そして何よりも、日常の鎖から旅人の心も体も解き放つ「気持ちのよい」宿だ。

「建築の知識がなかったので、気持ちよいか、よくないか、という自分の感覚を頼りに、建物の形や色、部屋の広さ、そこに置く家具などを一つずつ決めていったらこの宿ができました」

じんわり目に優しい暖色の外観、琉球赤瓦のアクセントがキュートなテラス、そこに揺れる白いハンモック、キューバ流に天井を思い切り高くした開放感たっぷりの客室、浜辺で拾った古材で手作りしたテーブル、週に一度ネジを巻かないと止まってしまうレトロな壁時計。それら「自分にしっくり来る」ものを、「ピアノ、ギター、ベースと音を重ねて音楽をつくるように」ソモスの空間に重ねていった。

「気持ちよい音楽は、心をどこかに連れていってくれます」

そう伊藤さんは言う。気持ちよさの粒子がまるで花びらのように舞い踊る彼の宿もまた、旅人の心を幸せな"どこか"へ連れていってくれる。



伊藤さんが自分で壁に漆喰(しっくい)を塗ったり、テーブルを手作りしたりした食堂。解体された古民家の古材をあしらって、「新築だけれども、50年前からここにあるような」空間に仕上げた


二つある客室は、天井が高くて広々。白を基調にしたこちらの部屋はアイレンさんがインテリアを考えた。「自分が住みたい部屋をイメージしました」。宿の名前「ソモス(スペイン語で、私たち)」もアイレンさんが付けた


もう一方の部屋は、伊藤さんがインテリアを担当した。沖縄で買いそろえたヴィンテージ家具や、地元の職人につくってもらった木や鉄の調度品がセンスよくしつらえられ、おとなの隠れ家的な落ち着いた空間になっている


近くで見ないと分かりにくいが、実は建物の角という角を研磨機で削って丸めてある。「角張っているより丸みがある方が見ていて気持ちがいいから、粉じんまみれになりながら自分で削りました。気付く人はまずいませんが(笑)」と伊藤さん


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<22>
第1671号 2018年1月12日掲載

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