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2015年5月29日更新
解体2週間 番付が肝心|うちなー古民家移築に挑戦①
沖縄の風土と共生してきた伝統的古民家が危機にひんしている。琉球村などのテーマパークに移築保存されたうちなー古民家のたたずまいは郷愁を誘い、沖縄観光の一分野を担う。一般の民間住宅としても移築は可能か。実際にチャレンジしてみると、多くの難題が待ち受けていた。
築58年の木造赤瓦家
移築することになった物件は、名護市東江に建つ築58年の木造の赤瓦家だ。床面積24坪で、建築当時は大きな住宅だった。所有者のAさんは、コンクリート造の住宅を新築することになったが、もともと由緒ある本家筋の住宅なので移築して残せないかとの意向を持っていた。
一帯は砂地のため水はけが良く、湿気が誘引するシロアリ被害が極めて少ない。ちょうど古民家を求めていた宮古島の知人Sさんに見てもらったところ、宿泊施設に使えそうだとの見通しを立て、移築を決めた。
基本的に、上物の家屋はSさんが無償で譲り受けた。問題は再築を前提にした解体をいかに進めるかだ。民間の移築事例は極めて少なく、職人が見つからない。
数件の紹介を経て、解体を請け負うことになったのは、名護市を拠点に木造住宅の新・改築・移築を手掛ける上地工務店。
家屋の実測から図面作成に始まって、解体、搬出まで約2週間を要した。最も重要なのは、木材の所在地を間違えずに記録しておく「番付」の正確さだった。
解体前のようす。雨端(アマハジ)部分は防腐用に水色のペンキが塗られていたが、再築時にはサンダーで落とし、傷んでいる部材は新材に入れ替えることにした
解体に入る前に、移築先で再利用する部材、廃棄する部材を、譲り受けるSさんと工務店で確認する。壁板や床板は廃棄し、移築先では新材を使うことに
廊下の桁や小窓、欄間も傷みはなく、大切に住まれていたことがうかがえる
小屋組みの材は雨漏りの影響か、一部シロアリ被害があったものの比較的健全だった
屋根を解体したあと、野地土や屋根裏に積もったホコリを高圧洗浄機で洗い流す
屋根の垂木から桁(けた)、梁(はり)、柱の構造材が現れた。この段階で作業はほぼ中間地点になる。構造材はスギが主で、一番座と二番座の鴨居には成(上下の幅)が8寸の太い材が使われている
新築時に記された番付を基にするが、不鮮明、あるいは間違っている部分を書き直す
より分かりやすくするため、油性マジックで部材に書き足すところもある
床板を支える根太は、元の場所でなくても使えるので番付を打たない。屋根の垂木も同様
桁や梁など大きな材の解体は3人がかり。解体する順序は基本的に組み上げるのと逆になる。木造建築の経験がなければできない作業だ
【解体は終盤】このあと木材を搬出し、敷地を更地にする。全体の工事費は約200万円だった。移築をせず重機で一気に壊した場合でも、約50万円はかかるので、その分を家主のAさんが、手解体や図面作成に要した150万円をSさんが負担した
敷地に横付けして設置した6フィートコンテナに解体した部材を詰めていく。コンテナは計2個分になった
移築先で葺く赤瓦は、大量にキープしていた人から無償で譲ってもらった。平(メス)瓦、丸(オス)瓦で合計約5000枚必要になる
家屋全体を掌握するのに最も有効なのは、自ら見取り図を描くこと=写真上。方眼紙の1センチマスの長さを半間(約90センチ)とし、柱や壁、戸の位置を図に落としていく。建築の知識がない素人でもできる。写真中は工務店の職人が実測し図面を作成したもの。これに小屋組みのようすを記す小屋伏せ図=写真下、さらに床組、立面図をセットにして納品する。移築先では解体と同じ大工が作業をするわけではないので、この図面が再築の最も重要な資料となる
編集/ 山城興朝 古民家鑑定士
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1534号・2015年5月29日紙面から掲載
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古民家鑑定士一級。2011年4月~2013年5月まで週刊タイムス住宅新聞にて『赤瓦の風景』を連載。2015年から名護市で古民家の修復に着手し、並行してうるま市からの移築にも取り組んでいる。