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2020年3月20日更新

「住まう場」に根差す建築|ロンドン住まい探訪[11]

文・比嘉俊一

暮らし変化するも残る街並み
渡英して5年目のある日、無性に海が恋しくなった。年休を利用して仕事後すぐ夜行列車に飛び乗り、イギリス南西部コーンウォール地方の西南の終着駅Penzance(ペンザンス)という海沿いの町へ。衝動的な欲求で計画した日帰り旅であったが、夜明けの車窓から見える海辺の景色はこの旅が間違いではなかったことを確信させてくれた=写真


<写真英国のモン・サン・ミッシェルと言われる「セント・マイケルズ・マウント」。有名な観光地でペンザンス近くのラマジオンという街にある 


<写真干潮時には花こう岩でできた土手が現れて陸続きになる。行きはボート、帰りは土手を歩くことができた


<写真夜行列車で迎えた夜明け。車窓からは海岸線とセント・マイケルズ・マウントが見えた。私の実家が「渡具知の浜」に近く、西の海の日の入りに愛着もあって、久しぶりの海は懐かしさを覚えた 

ペンザンスは「英国の中の異国」と呼ばれる英国で数少ないケルト文化が残るコーンウォール州の港町で、コーンウォール語で「聖なる岬」を意味する。1000年以上前に建っていた教会に由来するようだ。石の組積造の建物でつくられたその街並みは、窓の大きさや配置は同じでも自然素材独特の経年変化の豊かさを感じさせてくれる=写真。現地の産業は農業・漁業から観光業にシフトし、暮らしの中での海との関わりは時代とともに変化しているが、多少の変化を許容しつつも街並みは現代に継承されており、地域独特の文化、暮らしを感じさせた。


<写真ペンザンスの街並み。経年変化した石の外壁は、クリーム色の石灰岩で有名なBath(バース)という西部近郊の町とはまた違う、素朴で柔らかい表情を建物に与えている 


英国通して見えた沖縄の魅力

コーンウォール地方ペンザンスを訪れ、住宅の設計とは暮らしの設計であるとともに、長いスパンでみると街並みにも関わる魅力的な仕事であることを改めて確認することができた。そして私自身が設計を生業とする以上、腰を据えて生きる「住まう場」を大切にしたいと強く思った。設計の仕事を限定的に狭めるということではなく、地に足をつけ働く場を選ぶということである。そのように考えた時、美しい海、減少しつつも確かに残る集落群、強烈な日差しと台風、太陽に負けない青々とした植物がある私が育った沖縄は、十二分に魅力を内包していると思えた。ロンドンでの暮らしは愛着もあって代えがたかったものの、沖縄での新しい挑戦、暮らしを胸に別れを告げた。

連載前と異なり英国はEU離脱に向けてかじを切った。COVID19の拡大による人種差別のニュースも耳にする。異国に住まうということは、ビザの取得や社会保険、年金など頭を悩ませることも多かったが、その一方で住まうことで触れるその国の地域性、人種の多様性、暮らしの豊かさからは多くのことを学ぶことができ、人生でかけがえのない時間であった。

読者の方々へ、これまで読んでくれたことに感謝するとともに、連載を通し、いったんではあるが、英国で経験した多様性や暮らしの豊かさを共有できていれば幸いである。最後にこの機会を応援してくれて支えてくれた両親と家族に深く感謝したい。


<写真ペンザンスの街を港から一望する 


<写真ロンドンと比べて温暖な地域で周囲には亜熱帯植物が植えられた華やかな庭園があった
 

 

ひが・しゅんいち/1980年生まれ。読谷村出身。琉球大学工学部卒業後、2005年に渡英。ロンドンでの大学、設計事務所勤務を経て、16年に建築設計事務所アトリエセグエを設立。住み継がれる建築を目指す

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1785号・2020年3月20日紙面から掲載

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