電気を手作りする アートな森カフェ(国頭村)|オキナワンダーランド[48]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2020年3月13日更新

電気を手作りする アートな森カフェ(国頭村)|オキナワンダーランド[48]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

オキナワレイル(国頭村)


電気や水道のインフラがない国頭村の山中に建つ「オキナワレイル」は、オーナー自身が電気を手作りして運営するブックカフェ。図書館をイメージして建てた空間を文化の集う場にするのが夢だ

ひとけのない林道を心細くなるほど奥へ奥へと進んだ国頭村の山の中、深い森のさらに深くに一軒ぽつんと建つブックカフェ「Okinawa Rail(オキナワレイル)」。そこでは、照明をつける電気も掃除機を動かす電気も空から降って来る。

「太陽光発電を始めてから、電気はお金を払って買うものではなくて、空から降ってくるもの、という感覚に変わりました。晴れた日は、電気がたくさん降って来てうれしくなります」

一本の送電線も通っていない国頭の奥地に建てた住居兼店舗で、金城壮郎さんが電力会社から電力の供給を受けない“オフグリット”の暮らしを始めて4年になる。曇りがちな標高300㍍の山中でも効率的に太陽光を集められる高性能のソーラーパネルと、建築足場材のパイプと、フォークリフト用の蓄電池とを使って自力で組み立てた発電設備で、電気を100パーセント自給している。

「自分で作った電気って誇らしく思えるんです。電気に誇りを持てるなんて、以前は考えたこともなかったのだけど(笑)」

金城さんがオフグリット生活を始めた経緯をさかのぼると、東京で半年暮らした20代初めの体験に行き当たる。

「東京のような都会では、何をするにもお金がかかって、2、3歩歩くごとに100円が落ちていくような感じがしました。生まれ育った国頭なら、2、3歩歩くごとにおいしいどんぐりが落ちていたり、キノコや野いちごが生えていたりする。都会は出て行くものが多くて、国頭は得るものが多いと気づきました」

東京から戻った金城さんの目に、国頭の景色は新鮮に映った。「豊かな自然が持つ価値」が輝いて見えた。自然を求める気持ちが強まって、父が山中に持っていた土地まで一人で登っては読書をして過ごすようになった。

「せわしい日常から離れてここに来ると気持ちが休まりました。そのうちに、本格的なくつろぎスペースをこの場所に持ちたいと思うようになりました。子どもの頃から図書館が好きだったので、図書館みたいな空間をつくることを構想し始めました」

つくると言っても、陸の孤島のようなその土地には電気や水道や排水のインフラがない。「できるわけない」と言われることも多かった。しかし金城さんは、くじけずに粘り強く計画を進めていった。県庁や銀行に何度も足を運んで必要な許可を取り、資金を調達した。有資格者でないと発電施設の施工は認められていないので、国家試験を受けて電気工事士の資格まで取った。

「コンクリートを流し込んだ時には、ミキサー車が細い林道を無事に上がって来られるように、道に覆いかぶさっていて通行の邪魔になる草木を数キロにわたって一人で刈り払いました」

着想から6年後、「芸術家肌な」建築士の友利正さんに設計してもらい完成したモダンでクールな建物は、金城さんを「アートな気分に」してくれるという。

「ここにいると、やりたいことが次々と湧いてきます。展覧会や音楽会を開いて文化が集まる場所にしたいし、電気がなくても生活できる実例をここから示したい。まだまだ夢の途中です」

電気も水道もない大自然の真ん中にアートが集う。都会に集うより、〝新しい”ことかもしれない。


オーナーの金城壮郎さんはここで生活してもいる。「住み心地はいいですよ。困ることと言えば、周りに生き物が多過ぎて、夜、鳥やカエルの鳴き声がうるさくて眠れないことくらいです(笑)」


「外の世界と切り離された非日常感」を味わってもらうために、道路側の壁はスリット窓を除いてほぼ完全に閉じてある。「席に座ると道が見えなくなるように設計されています。景色が見えすぎない方が本を落ち着いて読めます」


運がよければ、ヤンバルクイナが窓の外を散歩するのを眺められる(ちなみに店名は、ヤンバルクイナの英名)。「ここに来たことがきっかけで、沖縄の山の魅力に目覚める人が増えています」。いつかここに宿も開きたいという


奥に見えるのが、金城さんが自分で施工した太陽光発電設備。「今後はオフグリットに興味がある人のサポート活動もしていきたい」。水道もなく、川からパイプで水を引いてきて使っている。手前はイノシシよけのために栽培面を高く上げた畑

◆オキナワレイル
080・8350・5524

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<48>
第1784号 2020年3月13日掲載

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