建築
2018年3月1日更新
塩害に強くて環境に優しい|高炉スラグコンクリート
「県内の鉄筋コンクリート造の長寿命化」を掲げたプロジェクトチーム「沖縄RC構造物高耐久性化PJT」が発足した。塩害や化学物質への耐久性が強い「高炉スラグコンクリート」を流通させ、実現を目指している。同コンクリートの製造に使用する「高炉スラグ微粉末」は鉄を生産するときに発生する副産物で、使うことで製造工程に排出されるCO2を普通コンクリートの3割削減できるとして注目を集めている。同プロジェクトチームは2月23日、建築士を対象にしたセミナーを開催。高炉スラグコンクリートの長短所や今後の展開を説明した。
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廃棄物を有効活用
「高炉スラグ」とは、高炉で鉄鉱石から鉄を生産する際に排出される副産物で、鉄を1トン生産する際に約300キログラム発生する。「沖縄RC構造物高耐久性化PJT」世話人の数馬良一さんは、「高炉スラグは、もともと産業廃棄物だった。それを急冷、微粉末化してコンクリートの混和材として使用することで、さまざまなメリットがあることが分かっている」と語る。
高炉スラグ微粉末を混和したコンクリートは組織が緻密になり、内部に塩分や化学物質などが侵入しにくくなる。そのため、時間の経過とともに強度が増すことから「建物の長寿命化が図れる」としている。
特に沖縄は鉄筋コンクリート造が主で、塩害による建物劣化が大きな問題となっている。建築業界から「高炉スラグコンクリートを使いたいという需要が多かった」と数馬さん。地元からの要望を受けて2015年、鉄鋼商社の阪和興業(大阪市)が中心となり、プロジェクトチームが発足した。
高炉スラグコンクリートは、廃棄物が有効に活用できるだけでなく、製造時に排出する二酸化炭素が普通コンクリートと比べて「約3割削減できる」と数馬さん。地球温暖化対策が急ピッチで進み、建築物の省エネも叫ばれる中で「高炉スラグコンクリートの使用は、今後拍車がかかっていくだろう」と話す。
高炉スラグ微粉末を使用した高炉スラグコンクリートの模擬壁。2017年7月から宮古島に設置しており、強度の調査をしている
◆高炉スラグコンクリートのメリット
- 海水や化学物質に対する耐久性が高い
- アルカリ骨材反応(※1)抑制効果が大きい
- 時間の経過とともに強度が増す
- 省エネルギー(製造時のCO2排出量が普通コンクリートより約3割削減できる)
(※1)コンクリート中のアルカリ溶液と骨材の物質が反応する現象で、コンクリートを変形させたりひび割れを生じさせたりする
全国で唯一、流通ゼロ
沖縄には高炉がないことや地理的な問題から全国で唯一、高炉スラグコンクリートが流通していない。「(一般社団法人)セメント協会」のデータによると、2016年度の高炉セメントの販売高は全セメントの20%を占めるが、沖縄はいまだゼロだ。
数馬さんらプロジェクトチームはそこに風穴を開けるべく、台湾のメーカーから高炉スラグ微粉末を輸入。県内の生コンクリート製造販売会社E-CONで昨年11月に試験練りを行った=下写真。数馬さんは「沖縄での流通に向けて着々と進めている。価格は普通コンクリートと同等にする予定。年内の導入を目指している」と語る。
2017年11月、台湾から輸入した高炉スラグの微粉末を使って行われた高炉スラグコンクリートの試験練りの様子。試験練りを実施した沖縄市の生コンクリート販売製造会社E-CONには、見学者が詰めかけた
ことし2月23日には、「沖縄RC構造物高耐久性化プロジェクトチーム」世話人の数馬良一さん=写真=によるセミナー「高炉スラグって何?」が浦添市の沖縄建築会館で開かれた。約30人の建築士が参加し、建築コストや工期などについて質問。関心の高さがうかがえた
そのほか、コンクリート二次製品への使用や生コン工業組合へ情報開示をしながら、県内での高炉スラグコンクリートの製造環境を整えていきたいとしている。
また、県内で販売高を伸ばしている「フライアッシュコンクリート(※3)」との競争について、数馬さんは「コンクリートの特徴はフライアッシュを用いたものも高炉スラグ微粉末を用いたものも似ているが、県民にとって選択肢が増えることは良いこと。お互いに品質などを切磋琢磨しあって良い建材を提供したい」と語った。
(※3)フライアッシュとは火力発電所で石炭を燃焼する際に発生する副産物で、それをコンクリートの混和材にすることで高炉スラグコンクリートと同等の特長が期待できる。
◆高炉スラグコンクリートの注意点
- 水和反応(※2)が穏やかなので、型枠を外す時期を2日程度延ばす必要がある
- 硬化に必要な湿度を保つため、型枠を外した後はコンクリート表面を湿潤養生する必要がある
(※2)水と化合物が反応して新しい化合物になる反応のこと
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1678号・2018年3月2日紙面から掲載
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