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2017年11月24日更新

「鉄の家」の意外な住み心地|愛しのわが家・まち

[古賀邸・沖縄県今帰仁村]サワサワサワと、さとうきびが風に揺れるのどかな古宇利島の田園風景に、黒くそびえたつ巨大な鉄の建造物。「これは何?」と不思議がる人が絶えないその四角い建物は、全国的にも最大規模というコンテナハウスだ。四方を海に囲まれた沖縄で、塩害に弱い鉄の家を建てたのはなぜなのか。気になる住み心地は? 7年前からここに暮らす古賀さん夫妻に聞いた。

コンテナハウスに暮らす

「できるだけ低コストで、できるだけ広い家を」という住人夫妻の願いをかなえたコンテナハウス。計16本の建築専用コンテナを上下左右につなぎ合わせた4階建てのコンテナ建築は国内最大規模だという「できるだけ低コストで、できるだけ広い家を」という住人夫妻の願いをかなえたコンテナハウス。計16本の建築専用コンテナを上下左右につなぎ合わせた4階建てのコンテナ建築は国内最大規模だという


黒い建物が、南の島の青空にこれほど映えるとは、この家を見るまで知らなかった。
「夫は黒が好きで、何でも黒にしてしまうんです。あるときは白い車が…」
妻の歌奈子さん(38)が、夫の智顕さん(57)にまつわる愉快なエピソードを教えてくれた。
「白い車が、気がついたら黒くなっていたことがありました。知らない間に、彼が車を工場に入れて黒く塗装していたんです」
独特のふんわりした語り口で歌奈子さんが話すのを、そばで智顕さんが顔をほころばせながら聞いている。服装は、もちろん全身黒ずくめだ。
男性誌のグラフィックデザイナーとして東京で長年活躍していた智顕さんが、歌奈子さんの生まれ故郷の沖縄に移住して、古宇利島にコンテナハウスを建てたのは7年前のことだ。
「普通の家に住みたいとは、まったく思っていませんでした」
佐賀県の出身で、大学では写真や映像を学んだという芸術家肌の智顕さんは、住まいに関する好みが昔から少しユニークだった。25年ほど暮らした東京では、取り壊し寸前の古いアパートなどを選んで住んでいた。
「古い建物が好きなんです。旅に出掛けるときも、宿は古い建物を探しますし、新館と旧館があれば、旧館を選びます。一緒に行く人には嫌がられますよ」
長い時間が染み込んだ古材の味わい深い質感。中と外を区切り過ぎない開放的な造り。寺社建築が好きで、若い頃、禅寺に住み込んだこともある智顕さんは、古い建物には、新しい建物にはないそうした良さがあると常々感じてきた。
「沖縄でも、一番好きな建物は中村家住宅(北中城村に残る歴史ある伝統家屋)です。一番心が落ち着く場所です」

各階の広さは、縦横が12メートル×11メートル。妻の歌奈子さんの希望で、仕切り壁をできるだけ入れないようにした。4階は中央の仕切りでキッチン(右)とリビングに分けられている各階の広さは、縦横が12メートル×11メートル。妻の歌奈子さんの希望で、仕切り壁をできるだけ入れないようにした。4階は中央の仕切りでキッチン(右)とリビングに分けられている

家の中に光や風を取り込むには、パネルをこうやって一枚一枚開ける。開ければ開放感たっぷり、閉じればしっとり落ち着いた雰囲気にと、パネルの開け方次第で室内の表情を自由自在に変えることができる家の中に光や風を取り込むには、パネルをこうやって一枚一枚開ける。開ければ開放感たっぷり、閉じればしっとり落ち着いた雰囲気にと、パネルの開け方次第で室内の表情を自由自在に変えることができる

パネルを開け放つと、この開放感。吹いてくる風、差し込む光、周囲の自然との一体感がたまらない
パネルを開け放つと、この開放感。吹いてくる風、差し込む光、周囲の自然との一体感がたまらない​


なるべく広く、なるべく安く

だからと言って、古宇利島でめぐり合った470坪の土地に、中村家のような木造の家を建てようとは思わなかった。限られた予算で、高さ4階建て、広さ数百平方メートルの家を建てるつもりだったから、木造では建築単価が高過ぎた。歌奈子さんが言う。
「広い空間が欲しかったんです。費用を抑えながら、できるだけ広い家をつくりたかった」
それはなぜかと言えば、自宅にハウススタジオ(家に備え付けられた家具や調度品をそのまま使って撮影するスタジオ)をつくろうと考えていたからだ。歌奈子さんが続ける。
「離島で生計を立てていくのに、デザイン業一本では不安だったので、貸しスタジオを運営することを考えました」
できるだけ広い家を、できるだけ安く。そんな二人の希望をかなえたのが、コンテナハウスだった。今は随分と高くなってしまったが、当時は鉄筋コンクリート造の半分以下の費用で建てられた。加えて、コンテナの「ごっつい」外観は二人の好みに合っていた。海に囲まれた沖縄で塩害に弱い鉄の建物に住むことへのためらいも不思議となかった。歌奈子さんが振り返る。
「コンテナは港に置いていても大丈夫なものだからと、楽観的に考えていました。今思うと、楽観的過ぎたかもしれません」

壁も天井も、むき出しの鉄。しかし、冷たい印象は不思議なほどない壁も天井も、むき出しの鉄。しかし、冷たい印象は不思議なほどない


住みにくさ上回る楽しさ

古賀さんの家は、長さ約12メートル、幅約2.4メートル、高さ約3メートルの建築専用コンテナを、上下左右に16本つないで建てられている。風雨にさらされても変質しにくい特殊な鉄でできたコンテナは、多少の塩害ではさびないはずだったが、住み始めて間もなくさびが出始めた。智顕さんが言う。
「鉄板の品質に問題があったようで、あちこちがさびています。これからメンテナンスをしていかなくてはいけません」
さびともう一つ、ガラスを一枚もはめていない開口部から「雨風や土ぼこり、バッタやカマキリまでが」室内に入り込んでくるのも、街中育ちの歌奈子さんにとっては悩みの種だ。しかし、住みにくいところはあっても、「それに勝る楽しさがこの家にはある」と歌奈子さんは語る。
「家のどこにいても、ひたすら気持ちがいいんです。いい風が吹いてきますし、海や空との一体感も味わえます。夏でも夜は肌寒いくらい涼しいですしね」
気持ち良さの秘密は、閉じれば壁、開ければ窓になるコンテナのパネルにある。開けようと思えば東西南北360度ぐるっと開けられるので、鳥のさえずりをのせた風や、青くきらめく東シナ海の絶景や、星降る夜空の景色を好きなだけ室内に招き入れることができる。
「室内にいても外の自然を肌で感じられる開放感が、中村家住宅に似ている気がします」
頬をなでる風のあまりの心地よさに、そんな言葉が口をついた。すると、智顕さんは言った。
「実はここを建てる前に、中村家や沖縄の伝統建築を見て回って家屋の造りを研究しました」
古賀さん夫妻のコンテナハウスは、一見、まるで中村家住宅と似ていない。こちらはモダンな鉄の建築で、あちらは伝統的な木の家だ。しかし、光や風、周囲の自然をすぐそばに感じられるという点で二つはとても似ている。いつまでもここでくつろいでいたいと思わせる、去りがたいほどの居心地の良さも。

部屋に置かれた家具や装飾品は、ハウススタジオの備品として智顕さんがアメリカやイギリスから取り寄せたもの。海外には一度も出たことがないという智顕さんだが、驚きのデザインセンスで外国のインテリア雑誌から抜け出したような空間を見事につくり上げている。スタジオは生活の場でもあり、ベッドやバスタブは、夫妻と5歳から10歳までの3人の子どもたちが実際に使っている。「どこで生活しているの、とよく聞かれますが、ここで普通に暮らしています」と歌奈子さん
部屋に置かれた家具や装飾品は、ハウススタジオの備品として智顕さんがアメリカやイギリスから取り寄せたもの。海外には一度も出たことがないという智顕さんだが、驚きのデザインセンスで外国のインテリア雑誌から抜け出したような空間を見事につくり上げている。スタジオは生活の場でもあり、ベッドやバスタブは、夫妻と5歳から10歳までの3人の子どもたちが実際に使っている。「どこで生活しているの、とよく聞かれますが、ここで普通に暮らしています」と歌奈子さん
部屋に置かれた家具や装飾品は、ハウススタジオの備品として智顕さんがアメリカやイギリスから取り寄せたもの。海外には一度も出たことがないという智顕さんだが、驚きのデザインセンスで外国のインテリア雑誌から抜け出したような空間を見事につくり上げている。スタジオは生活の場でもあり、ベッドやバスタブは、夫妻と5歳から10歳までの3人の子どもたちが実際に使っている。「どこで生活しているの、とよく聞かれますが、ここで普通に暮らしています」と歌奈子さん

ハウススタジオの運営に加えて、去年から「INN CAFE」というカフェも始めた。イベントやパーティーで建物全体を貸し切ることもできるハウススタジオの運営に加えて、去年から「INN CAFE」というカフェも始めた。イベントやパーティーで建物全体を貸し切ることもできる
 


ライター/馬渕和香
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1664号・2017年11月24日紙面から掲載

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