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2017年4月28日更新

影の色で自然と調和|名護城公園ビジターセンター Subaco[すばこ]

沖縄県名護市の名護城公園内にあるビジターセンターSubaco。展望台を改修した3階建てで、名護の市街地や名護湾を見渡せる。2015年7月にオープンし、昨年、第2回沖縄建築賞も受賞した。木陰の黒を基調として周囲の自然や風景と調和させつつ、手入れのしやすさなど使い勝手にも配慮されている。


たくさんの窓と黒っぽい外観が特徴的な、名護城公園ビジターセンターSubaco。ガラス面には青い空や緑の木々がが映り、周囲の風景と一体化している。施設の入り口があるのは建物の2階部分


名護岳の中腹、標高約150メートルの高さにあるSubacoは、周囲を森に囲まれ、西側には名護市街地や名護湾を望む。日常のすぐそばに豊かな自然があることを実感できる場所だ。

「主役は周りの自然や風景。建物は目立たせたくなかったんです」と話すのは設計した蒲地史子さん(34)。「2階の床は墨モルタル、外壁は焼き杉を使ったりして、中も外も黒が基調。周囲の緑が映えるよう、葉が落とす影をイメージしました」。

実際、外から見ると、建物をぐるりと囲むガラス面には木々の緑や空の色などが映り、風景にうまく溶け込んでいる。中に入ると、黒い柱やサッシが額縁のように明るい外の風景をパノラマで切り取り、浮き上がらせているように見える。

四角い箱のような形で、1階は学習室、2階は店舗、3階は展望スペースとなっているが、もともとは築27年を越えるやぐらのような展望台だった。改修にあたっては、「景色を楽しめるように」はもちろん、建物の管理のしやすさ、店舗としての使いやすさなども求められた。

要望に対し、蒲地さんは一つ一つ解決していった。「眺めを遮らないよう掃き出し窓にし、西日の影響を受けやすい西側と南側は遮熱効果のあるガラスを二重にしました」と開放的な眺望と快適さの両立を図った。

窓の周囲には作業の際の足場となるキャットウオークを設置。名護城公園では還暦を過ぎた数人の職員で建物をはじめ広い園内の管理をしていることもあり、公園の宇根良政所長(63)は「台風後の水洗いなど、足場がないと手入れできない。重宝してるよ」と笑顔を見せる。店舗の利用者を増やすため、2階はカフェカウンターの前を通って展望スペースに上がる造りにした。


北側から見た3階展望スペース。写真右の西面と奥の南面は全てガラスで開放的な空間になっている。周りの風景をさまざまな角度から楽しめる​


公園内にいる動植物を写真で確認できるデジタルサイネージがある2階入り口付近。3階の気配が感じられるよう天井は吹き抜けになっており、上写真奥の巣箱型の部分とつながっている

 

安心感あり女性客増加

改修工事を終えた建物はSubacoと名付けられた。施設を運営する鮫島智行さん(44)は「来園者らが行き交い、立ち寄り、体を休める。そして、この施設で交流し、新しい遊びや文化が育まれる。Subacoという名前には、そんなイメージや願いが込められています」。

近くの幼稚園から遊びに来たり、弁当持参で休憩する姿が見られるほか、名護祭りの日にはコンサートなどを開き、名護漁港から上がる花火を楽しむ。宇根所長も「Subacoができてから、小さい子を連れた母親をはじめ、女性の来園者が増えた気がする。カフェには常に人がいるので、安心感があるのかも」。国内外からの観光客も増えているという。

完成からまもなく2年。外壁の焼き杉も白みがかり、蒲地さんや宇根所長は「周囲の木の幹の色に近くなってきた」と喜ぶ。少しずつ変化し、自然という主役の一部に近付いているようだ。



名護城公園内のウーマク広場付近からSubacoを見上げる。木々の緑に囲まれ、豊かな自然の中にあることがよく分かる​


店舗にはカフェがあるほか、地元農家が生産した野菜や手作り雑貨なども販売されており、地元客も多いという



Before(蒲地さん提供) → After

 

快適さ目指した工夫

自然と調和しながら、快適な空間にするため、Subacoではさまざまな工夫が施されている。
外気を一度地中に通してから室内に取り入れるクールチューブ(左写真)は、温度が一定の地中に管を通すことで、夏は冷たく、冬は暖かい空気を取り込める。
掃き出し窓の外側にある木製のルーバー(右写真)は、西からの強い日差しを和らげるだけでなく、台風時の飛来物からガラスを守る役割もある。


1階学習室を通るクールチューブの一部。地中で温度調整された空気の通る様子が分かる/写真左。木製ルーバーを閉じた状態。日が傾いた分、伸びてくる影も絵になる/写真右
 


『週刊タイムス住宅新聞』愛しのわが家・まち<23>
第1634号 2017年4月28日掲載

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出嶋佳祐

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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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